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神化論 after  作者: ユズリ
古代竜狩り
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古代竜狩り 62

「オオオオオォオォオォオオオォォォッ!」

 

 ローズたちがドラゴンのいる階へと降り立つと同時に、同じ舞台に立つのを待っていたかのようにドラゴンが咆哮を上げる。

 ビリビリと痺れるような錯覚すらするその叫びを、今度はジュラードも正面から受け止める。叫び声程度に臆するようでは、この偉大な古代竜に挑む資格も無いだろう。

 そしてそんな覚悟のジュラードを確認したのか、ドラゴンは威圧の叫びを止めるとその目付きを変えた。金属のような無機質なドラゴンの眼差しに、感情のような意思が確かに宿る。その眼差しでドラゴンはしっかりとジュラードたちを見据え、それが相手に『挑む者』として認められた瞬間だと、ジュラードはそんなことを思った。

 

「来る ぞっ」

 

 短いローズのその言葉どおりに、青白い光に照らされたドラゴンは、直後に突然積極的に動き出す。

 鋭利な牙を覗かせた口から蒸気のような息を吐き、ドラゴンは硬質な鱗に守られた頭から突っ込む形で、ジュラードたちへ突進した。咄嗟に二人は左右別々の方向へと飛びのいて、その攻撃を回避する。

 破砕音。そして強い衝撃。

 

「くっ……」

 

 どこか遠くでうさこの悲鳴のような声を聞いたような気がしながら、転がりながら回避したジュラードは急いで立ち上がる。そしてドラゴンから目を離さずに剣を構えなおした。

 ドラゴンは直前までジュラードたちが立っていた場所の壁へ頭から突っ込んだようで、濛々と土煙が周囲に立ち込めている。

 先ほどのドラゴンの攻撃で凄まじい衝撃を感じたので、今の衝撃で地盤沈下でも起きて生き埋めになるんじゃないかとも思ったが、幸いにこの辺りの地盤は非常に強固なもののようだった。その証拠にドラゴンが頭から突っ込んだ壁は、発生した土煙と衝撃のわりにはそんなに破壊されてはいない。

 ドラゴンは強固な壁に頭から突っ込んだというのに、傷もダメージも無い様子でゆっくりと体を起こした。そして左右に分かれたジュラードたちを、体勢を整えたドラゴンが先に獲物として見たのがジュラード側の方だった。

 

「!?」

 

 巨大な巌のような影が自身の前に立ちはだかり、静かに威圧するギラギラとした眼が遥か頭上から見下ろす。最初のターゲットにされた事に気づき、ジュラードは僅かに緊張の表情を滲ませた。

 いや、しかしまず自分を狙うのは予想出来たことかもしれないと、ジュラードはドラゴンを見上げながら考える。賢竜との称される古のドラゴンならば、自分とローズの実力の差をも一瞬で見抜けるのだろう。それが可能ならば、弱い方を先に始末する選択はおかしなことではない。

 しかしそういう選択を本当にしているのだとしたら、つくづく古代竜というものは恐ろしい存在だとジュラードは思った。思考と判断力、そしておそらくは経験からの学習能力等が人のそれと同じなのだ。

 

 この世界はヒトが住まう世界であり、ヒトが生態系の頂点に立つ存在なのは間違いないが、しかしそのヒトにとって最大の脅威となる存在がドラゴンなどの高い知性と圧倒的な戦闘能力を有する魔物であることは間違いない。おそらく長年ヒトがヒトの世界を魔物の侵略から守りきれていたのは、ただ単純な数の力が大きいのだろう。

 古き時代から生きながらえた強敵の前では、ヒト一人なんて本当にちっぽけで、そんな存在に勝てる可能性など無いに等しいのかもしれない。だがそれでもやるしかないのだ。大切な人を救う為には、賢竜を制さなくてはならない。

 

(いや、それに一人じゃないから……)

 

 鋭利な牙が覗き見える口腔を大きく開き、ドラゴンの頭が自分へと迫ってくる。喰い殺そうと開かれた口は地獄の穴の如くほの暗く、それは確かな恐怖だった。だけどジュラードはひどく落ち着いた様子で、その迫る”死”を見据える。一人ではないと、先ほどそれを再確認して くれたローズの言葉が勇気となり、ジュラードは幾分冷静にドラゴンと対峙していた。

 ドラゴンの多くは大きいからこそ小回りが効かないという事は、ジュラードもローズたちに教わったことなので承知している。勿論巨躯の見た目に反して素早く動くような種類のドラゴンも存在するが、ヴォ・ルシェは幸いな事にそのようなタイプのドラゴンでは無い。

 ドラゴンに対してパワーは圧倒的に不利ではるが、素早さや小回りは我々ヒトの方がよっぽど有利なのだ。だからぎりぎりまで引き付けて回避すれば、安全に攻撃をやり過ごせる。だがそれは頭ではわかっていても、実際に行うとなると非常に難しい行為でもあった。まず第一にドラゴンをぎりぎりまで引きつける行為は凄まじい勇気がいるし、その後の回避のタイミングを一歩でも間違えれば、それは即”死”に繋がる。その二重の恐怖に打ち勝った時にこそ、そういう冷静な行動を取ることが出来る。

 古代竜という絶対の恐怖を前に、ジュラードは額に汗を滲ませる。一人ではないし、自分はこの旅で多くの人たちと触れ合って学んできた。今、傍にはローズもいる。自分は出来るのだと、そう言い聞かせながらジュラードは地を蹴った。それはドラゴンの生臭い吐息が、ジュラードの頬をうっすら撫でたその瞬間。

 

「ジュ……っ!」

 

 ドラゴンを挟んでジュラードの様子を見ていたローズは、ドラゴンがジュラードへと喰らいかかった瞬間を見て、彼が喰われたと咄嗟に思った。だがしかし、それは違ったようだ。目を見開いたローズの 視線の先で、ギリギリのタイミングでその攻撃を回避した彼の姿が確認できたのだ。

 横へと跳んで死から逃れたジュラードを確認し一瞬安堵するも、そんな暇は無いとローズは直ぐに駆け出す。その手には薔薇の絵が精密に装飾された、彼女にふさわしい美しい大剣が握られていた。

 

(ローズよ、聞えているか?)

 

 駆け出す直前、戦闘補助をしてくれているハルファスの声が聞える。ローズはそれに駆け出しながら、声を出さずに『なんだ?』と返した。

 

(もうすでに気づいているだろうが、この場所は通常よりもかなりマナが濃い。おそらく周囲の輝く水がその原因だろう)

 

 ハルファスの言うとおり、ローズもその事には気づいていた。

 魔法を使うようになってからはマナを意識せずとも感じられるようになったが、それ以外にも周囲に漂うマナの濃度なども何となくわかるようになったのだ。その為、この場所が普通よりもマナが濃い事は、随分前から気づいていたことである。そしてその原因もだ。

 ハルファスの言うとおり、この地下洞窟内をほの暗く照らす、蒼に輝く不思議な水がその原因だということはローズも察していた。

 以前にマヤやアーリィに、その地に漂うマナの影響を長く強く受けた結果に、高濃度のマナの水や結晶等が自然に生まれる事があると聞いた。この場所にある輝く水は、そのマナ水なのだろう。

 

(これだけ周囲がマナで満たされていれば、呪術を使ったとしてもお前への負担は軽く済む。ただこういう場所に生息するドラゴンもまたマナの影響を受けて成長しているだろうから、通常よりも厄介な強敵となっている場合が多い。そのことを留意しておけ)


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