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神化論 after  作者: ユズリ
古代竜狩り
359/494

古代竜狩り 50

「え? ま、魔族?」

 

 明らかに普通のヒューマンとは違う姿のその人物に、ジューザスは目を丸くして驚きながら「なにこれどういうこと?」と周囲に聞いた。

 すると困った顔のアゲハの横で、エルミラがこう答える。

 

「あ、それ? それねぇ、レイリスの今の下僕らしいよ。なんかさっきレイリスにぼこぼこにされて、幸せそうな顔で倒れたから放置してんの」

 

「……へ、へぇ?」

 

「もぉ! 違いますよエルミラさん、ラプラさんはですねぇ……」

 

 エルミラの話は残念な事に全くよくわからない説明だったが、その後アゲハにラプラについてのちゃんとした説明を聞き、ジューザスは『なるほど』と事情を理解する。

 

「なるほどね……彼も”禍憑き ”の治療に協力してくれていたんだね」

 

「そーなんだよ。どういうわけかその人レイリスに絶対服従でさぁ、もう何でも協力する! みたいな感じなの」

 

 エルミラは真顔で「きっとレイリスの精神的な拷問の結果に心が壊れてレイリスの忠実な下僕になっちゃったんだよ、その人」と呟く。それに苦い顔をし、ジューザスはふと思いついたように顔をあげてエルミラたちにこう言った。

 

「そういえばさっきレイリス、部屋出て行ったね」

 

「あぁ、なんか外の空気吸いたいとか言ってたね」

 

 ジューザスの問いのような言葉にそうエルミラは返事し、そして笑いながらこう続ける。

 

「外なんてここ、空気悪いのにねー。周り工場ばっかだし」

 

「はは……確かに そうだね」

 

 エルミラの言葉にジューザスも小さく笑みながら頷き、彼はフラメジュを含めた荷物を近くのテーブルの傍に置く。そして彼はエルミラたちに、「それで、今”禍憑き”の治療は全体的にどんな状況かな」と聞いた。

 

 

 

 

 騒々しい町に似合わぬ静かな風が吹き荒ぶ研究所の屋上で、彼は何をするわけでもなく一人立たずんでいた。

 色素の薄い長い髪が風を受けて不規則に揺れる。そのたびにサラサラと静かな音が鳴った。

 

「……」

 

 薄い青の空へと灰色の煙がいくつも立ち昇り、近代的ながらもどこか不安定に寂しい町並みがその下に広がっている。その光景を言葉無く眺めながら、イリスは小さく溜息を吐いた。

 溜息を吐いた唇は、瞳に町並みを 映したまま言葉を紡ぐ。

 

「……で、何の用?」

 

 自身の背後に向けて放ったその言葉に、後ろで苦笑が返される。それを聞いてか、イリスの表情は不機嫌そうに歪んだ。

 そんな表情のまま、イリスは振り返る。その視線の先には、苦く笑うジューザスの姿があった。

 

「何の用?」

 

 イリスはジューザスを睨みつけながら、先ほどと同じ質問を繰り返す。するとジューザスは「そう怖い顔しないでくれ」と言ってから、彼の質問に答えた。

 

「エルミラたちから今さっき状況は大体聞いたよ。あとはローズ君たちを待つだけって感じなようだけど……」

 

「私が聞いたのはあんたが何の用でここにいるか、ってことなんだけど」

 

「……えっと、ちょっとの世間話も君は許さないようだね。せっかく久々に落ち着いて話を……」

 

「あんたと無駄話する気はあんまりなくてね」

 

「あ、あぁそう……」

 

 相変わらず恐い顔で自分を睨むイリスに、ジューザスは一つ息を吐いた後に「君と落ち着いて話がしたいって思ったから」と告げる。

 

「話?」

 

 怪訝そうな眼差しに変えたイリスは、ジューザスに「意味がわからない」と冷たく返した。

 

「落ち着いて話って……無駄話したくないって言ったじゃん」

 

「そう言わないでくれよ。君が私を嫌ってるのは知ってるけど、私はそうでもないんだから」

 

「はぁ? なに、じゃあ私のこと好きだって? ますます気持ち悪いから今すぐどっか消えてくれない?」

 

「いや、 えぇと……」

 

 全力で自分を拒否するイリスに、ジューザスはまた溜息のような息を吐き出す。そうして彼は少し目を伏せ、苦い感情を静かな声音の言葉と共に吐き出した。

 

「……君が心配なんだよ。だから話がしたかった」

 

「……」

 

 ひどく真摯な響きのジューザスの言葉に、しかしイリスはやはり冷めた声音で「なにそれ、意味わからない」と呟くように返した。

 そんなイリスを前に、ジューザスはかまわずに微苦笑を湛えて続ける。

 

「君がヴァイゼスを出て行った日の様子はヒスから聞いていたよ。それで少し安心していたけど……でも、やっぱり今会ってみて思ったんだ。相変わらず君はどこか危ういってね……」

 

 感情の読めないイリスの静かな眼差しを受けながら、ジューザスもまた静かな声で彼へ語る。

 

「君が”そう”なった理由はもちろん承知している。……いや、私も君をそこまで狂わせてしまった当事者の一人だろう。だから私は君に嫌われてるんだろうとも思うしね」

 

 どこか自嘲気味に笑い、ジューザスはそう呟く。そうして一旦言葉を切り、彼はイリスの言葉を待つように沈黙した。

 イリスは数秒虚無の眼差しでジューザスを見つめ、眼差しを伏せる。そして再び顔を上げた彼は、いつかの彼のように唇を歪めて笑った。

 

「あぁ、なんだ……そーいう自覚あったんだ。それは知らなかった」

 

 呪うような毒を含む声でそう返事をしたイリスに、しかしジューザスは真剣な眼差しのままでその言葉を受け止める。その上で彼はこう言った。

 

「そうだね、自覚はあったよ。君を壊したのはあの男だろうけど、私はヴァイゼスを乗っ取った後も君だけは救えなかった……救わなかったからね。むしろ君を利用し続けた。汚い事は全て君に押し付けたんだ……君は上の命令ならなんでもするって知ってたから。君があの男に恐怖と暴力でそう教育されてる事も知ってて、刷り込まれた絶対服従の精神を利用したんだよ」

 

 都合が良かったんだ、と、そう呟くジューザスの声に、一瞬イリスの眼差しに深い憎悪の感情が宿る。しかしイリスはその感情を、歪んだ笑みで覆い隠した。

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