救済の方法 7
「……なるほど。”禍憑き”の原因は、異常なマナの蓄積だということですか。そしてそれはゲシュにのみ起きる病だと」
一時間ほどかけてローズたちから説明を聞き終えたフェイリスは、非常に興味深そうな様子で話を理解する。
「はい。それで私たちは過去にこのような病があったことに気づき、その病の治療法が”禍憑き”を治すんじゃないかと考えてここにやって来たんです」
「……お話はわかりました」
フェイリスが神妙に頷くと、ジュラードが口を開く。
「その……間違った方法で治療法を手に入れようとしたことは反省してるんだ……だけど俺たちはどうしても”禍憑き”を治したくて……」
大事なものを保管している場所に不法侵入した事は深く反省するジュラードに、フェイリスは「えぇ、気持ちは理解出来ます」と頷く。そうして彼女はジュラードたちにこう言葉を続けた。
「それに私はあなた方の不法侵入の件を公にしようとは考えておりません」
フェイリスのその言葉はジュラードたちには大変ありがたいものだった。その為にジュラードもローズも、共に安心したように安堵の息を吐く。安心するジュラードたちに、フェイリスの言葉が続けられた。
「ですので、その代わりといってはなんですが、あなた方の調べた”禍憑き”の情報をこちらにももっと詳細にお教えいただくというのはどうでしょう?」
そう問いを向けるフェイリスに、断る理由も無いジュラードたちは了承の意思を示す。
「それは勿論……あなた方が知ってくれた方が、”禍憑き”に苦しむ人を多く助けられることに繋がるだろうし」
ローズがそう言ってジュラードに「そうだよな」と視線を向けると、ジュラードも真剣な表情で「あぁ」と頷いた。
「そうですか……ではあなた方から聞いた話は私の方から会長にお伝えさせていただきます。私共も”禍憑き”については優先的に調査をしているのですが、しかし未だ不明な点が多い病であり、治療法はおろか原因さえもはっきりとはわかっていないのが現状です。ですので今後は互いに協力という形でよろしいでしょうか?」
「はい。と言うか、そうしていただけるならこちらとしてはすごく助かるというか有り難いというか……」
恐縮するローズに、フェイリスはやはり優しくも色気ある微笑を返す。ローズはどうにも彼女が直視出来なくなり、恥ずかしそうに眼差しを伏せた。
そしてそんなローズの様子に、マヤの機嫌はますます悪くなっていく。だが彼女自身、何故自分がこんなにもイライラし焦りを感じるのか、その理由をいまいち理解できずにいた。
(確かに美人にデレデレするローズにはむかつくけど、でも今まで女性相手にここまで気持ちが苛立った事は無かったわ……)
それなのに何故こんなにもフェイリスには警戒感を感じるのかと、マヤはそれを考えながら彼女を見つめる。するとフェイリスはマヤの視線に気づいてか、彼女の方を向いて笑みを返した。
「!?」
驚いたマヤは、しかしここで自分が苛立ち焦りを感じる理由を薄ぼんやりとだが察する。
(もしかして、彼女って……)
マヤがそう何かに気づきかけた時、彼女にユーリが声をかけた。
「そういえばマヤ、その”禍憑き”を治す薬って結局なんだったんだ?」
「え?」
ユーリにそう問われ、マヤは「あぁ、それね」と思い出したように語る。
「古い本に書かれていたんだけど、今で言う”禍憑き”を治すには薬が必要なの。で、その薬自体は材料を調合すれば作れる簡単なものなんだけど、その材料が今手に入れられるかわからないものがあるのよ」
マヤのその説明に、ジュラードが険しい表情で「材料が手に入るかわからないとはどういうことなんだ?」と問う。マヤはさらにこう続けた。
「まぁ意味は言葉どおりなんだけど、いくつか入手困難なものが材料でね。薬は魔法薬の一種みたいでほとんどが生物の一部や植物が材料なんだけど、旧時代と今とじゃ生態系が大きく変わっているからそれらが存在しているかアタシにもわからないのよ」
「なるほど……逆に言えば、材料さえ手に入れば薬は作れるということかい?」
ジューザスがそう問うと、マヤは「調合方法も書いてあったからね」と彼の言葉に頷いた。
「入手した材料の精製とか、普通の薬の調合的な手順の部分もあるから専門知識のある人の協力は必要になるけど、とりあえず調合自体は難しくはないから材料さえあれば作ることは可能だと思う」
「じゃあ材料を手に入れることが問題なのか……」
マヤの話を聞いたローズは、そう呟いた後に「材料はなんだ?」とマヤに問う。マヤはこう説明した。
「材料は多いけど、普通に入手できるものもあるの。で、普通に入手出来るもの以外で入手困難だろうと思うものを言うと、今で言う古代竜種のヴォ・ルシェというドラゴンの瞳、アトラメノクのマナで作られた高純度マナ水、フラメジュという鉱物、グラスドールという植物の根よ」
マヤはそう言うと渋い顔をして、「とくにアトラメノクのマナ水ってのが厄介よね」と呟く。
「それって何なんだ? お前とかアーリィがよく魔法薬作るのに使ってるような水のことか?」
ユーリの言葉にマヤは「基本的にはそうなんだけど」と頷く。そして彼女の代わりに、アーリィが口を開いた。
「マヤが言ってるのは、アトラメノクのマナが濃く宿っている水のこと。アトラメノクのマナは基本的に魔界にしかないから、入手はすごく難しいと思う」
「え、魔界のマナ? それは確かに……手に入れるの、難しそうだな……」
ローズが考え込むようにそう言うと、魔界のことならウネがどうにか出来ないかと考えたジューザスが、彼女に視線を向けた。
「ウネ、マヤの言う水を入手する手段で何か有効なことを知っていたりはしないか?」
ジューザスに問われたウネは、少し考えてから頼りない表情でこう言葉を返した。
「”あちら”に帰れば入手は容易だけども、その行為自体が難しい。私一人の力では、帰って戻るのに魔力の回復を待つ時間を含めて半年は必要だから」
「ラプラと協力してならどうなんだ?」
続けてジュラードが問うと、 ウネは「それならもっと早くに戻ってこれるだろうけど」と答える。ならば手に入らないわけではないのだと、ジュラードはそれを理解した。




