救済の方法 6
「さっきも話したけど、彼女たちは私の友人で……その、今日たまたま会ったのだけど、どうやら彼女たちの知り合いに”禍憑き”にかかっている者がいるらしいんだ。それで治療法のヒントがあそこにあると考えた彼女たちに、つい私も手を貸してしまって……」
ジューザスは客人である自分までもが犯罪じみた行動を取ってしまった事を反省するように、フェイリスに申し訳無さそうに「すまない」と頭を下る。フェイリスはそれに対し、「そのことはもういいのです」と告げて頭を上げるようジューザスに言った。
「それよりも私は”禍憑き”の治療法があるという話に興味があります。そのことの説明をしていただけたらと思うのですが」
「その前にちゃんとした自己紹介をしてないわよね。それを先にさせてくれないかしら」
フェイリスの言葉を遮るようにそうマヤが発言をすると、フェイリスはローズの胸に挟まる不可思議な彼女をじっと見つめながら「そうですね」と頷く。
「私の方も軽くしかご説明していませんので」
「じゃあこちらから自己紹介をさせていただきます」
ローズがそう言うと、フェイリスはにっこりと微笑んで「よろしくお願いしたします」と彼女に告げる。その色気のある美人の微笑みに、ローズは思わず顔を赤くしながら「は、はいっ」と緊張した声で返事をした。
そんなローズの様子に、マヤは若干気に食わなそうな顔をする。そんなマヤの様子になど気づかないローズは、「あ、じゃあ私から」と言って自分の紹介から始めた。
「私はローズです。ローズ・ネリネ。旅をしてる者ですが、今はジュラードと”禍憑き”の治療法を捜しています。あ、ジュラードと言うのは彼で……」
ローズが隣に座るジュラードに視線を向けると、うさこを膝に抱えた彼も自己紹介の為に口を開く。
「ジュラードです……妹が”禍憑き”で、どうしても治療法を見つけたくて……今はローズたちに協力してもらって、治療法を求めて旅をしてる」
ジュラードの言葉を聞き、フェイリスは驚いた様子で「妹さんが……」と気の毒な眼差しを向ける。ジュラードは小さく「はい」と頷いた。
「そうですか……それは心配ですね」
「えぇ……あ、こいつはうさこです」
もはやうさこを紹介することに疑問を抱かなくなったジュラードは、フェイリスの言葉に頷いた後にそううさこの紹介をする。うさこは「きゅいいぃ~」と鳴き、フェイリスに手を振った。そんなうさこの様子を見て、フェイリスは微笑を漏らす。
「うさこちゃんですか? 可愛らしい生き物ですね。えっと、確か……ゼラチンうさぎ?」
「え、えぇ……まぁ……」
「きゅうぅ~きゅいぃ~」
一応魔物なのに何故こうもうさこは皆に受け入れられるのが早いんだと、そう不思議に思いながらジュラードは頷く。やはり見た目が可愛いからなのだろうか。
自分は見た目の怖さで損してるのに……と、ジュラードがうさこに軽く嫉妬心を抱くと、今度はマヤが口を開いた。
「アタシはローズのたーいせつな相棒のマヤよ、よろしく」
何か本能的にフェイリスに警戒感を抱いているマヤは、『相棒』の部分を強調しながらもどこか素っ気無くそう自分を紹介する。しかしフェイリスはマヤにも変わらぬ微笑を向けて、「マヤさんですね」と頷いた。
「とても小さくて愛らしいですけども……」
「あ、彼女はその……よ、妖精なんです」
「ようせい、ですか……」
ローズの苦笑混じりの説明に、しかしフェイリスは深くは追求せずに「そうなんですか」と返事をする。
「……」
何かやはりフェイリスが気に入らない様子のマヤは、彼女を胡散臭そうな眼差しで見つめた。
そうしてマヤの紹介が終わると、今度はユーリが「俺はユーリですー」と小さく手を上げながら口を開いた。
「ローズたちの昔からの友人で、今はこっちのアーリィと一緒に遠くで店やってるんですけど、今回はまぁお手伝いってことでこいつらの旅についてきたんス」
フェイリスはユーリの説明に興味深そうに頷き、彼女の視線はユーリの隣に座るアーリィに向けられる。それに気づき、ユーリが続けて口を開いた。
「で、彼女がアーリィです」
「どうも……」
ユーリに紹介され、アーリィは一旦お菓子を頬張るのを止めてフェイリスに小さく会釈する。フェイリスは彼女に柔らかな微笑を向け、「アーリィさんですね」と言った。
「今、ユーリさんとアーリィさんは共にお店をしていると仰られていましたが……?」
フェイリスがそう聞くと、ユーリが照れたように笑いながらこう答える。
「えぇ、実は俺たち夫婦で」
「まぁ、そうなのですか」
驚いた顔をするフェイリスは、直後にアーリィを見ながら小さく「それは残念です」と呟く。それを聞き、ユーリが『え?』という顔をしたが、その呟きの意味を聞くタイミングも無く彼女の視線はもう次に移ってしまっていた。
「私は……紹介する必要は無いよね」
フェイリスの視線を受けてジューザスがそう言い、彼は隣のイリスを見る。彼は頭からすっぽりとジューザスが羽織っていた外套を纏って未だに出っ放しの角を隠している。
だがフェイリスには発見時にもう角は見られているので、今ここでそれを隠す必要は無いんじゃないかとジューザスは思ったが、下手に指摘すると彼が怖いことを知っているのでそれについては何も言わず、「レイリスから紹介するといい」と彼に声をかけた。
イリスは空腹だわ力使いすぎだわマヤに苛められるわで疲労がピークに達して顔色が悪くなっていたが、ジューザスに声をかけられて顔を上げた。
「イリスです……一応ジュラードの保護者で……」
ぐったりとした声でそう言った後、本当に色々ともう限界だったのか、イリスはソファーに沈み込んで静かになる。ジューザスが驚いて「レイリス?」と顔を覗き込みながら声をかけるが、イリスは目を閉じて寝てしまっていた。
「ね、寝ている……」
彼がジューザスの記憶の中の”レイリス”ならば、いくら疲れ果てているとはいえ、こんなに他人がいっぱいのところで無防備に寝姿を曝すなんてことはあり得ない。
先ほどヴァイゼスを出た後のイリスの話を主にジュラードから聞いたジューザスだが、その日々でジュラードの話どおり彼も変化したんだなぁとしみじみ思った。
「お疲れなのですね」
「な、なんだかすみません」
勝手に寝てしまったイリスの様子に何故かジューザスが謝り、フェイリスはやはり笑顔で「いいえ、いいんです」と答えた。
「しかし彼は魔物だと先ほどお伺いしましたが……」
「えぇ。でも彼も元は人間……いえ、ゲシュだったんです。彼がそうなってしまったのは、”禍憑き”が原因です。彼も”禍憑き”に苦しんでいた一人なんです」
フェイリスの疑問にローズがそう答えると、彼女は驚きと興味を合わせた表情で「そうなのですか」と呟く。
「”禍憑き”で魔物になる……初めて聞いた事例ですね」
フェイリスは「それについても後ほど色々とお伺いしたいですね」と言い、最後に残ったウネに視線を向けた。ウネは彼女の眼差しが向けられたことに気づくと、顔を上げて「ウネです」と言う。
ちなみに彼女はイリスと違い、魔族であることを示す容姿の特徴を隠すフードを取っているので、フェイリスに自分が魔族であることを堂々と教えていた。それでもフェイリスはウネに対して嫌悪感を抱く様子も無く、やはり笑顔で「よろしくおねがいします」と言う。
「魔族の方にお目にかかるのは初めてです。それもこんな美しい女性の方なんて……」
にっこりとした笑顔のまま、さり気なくも熱心な視線をウネに送るフェイリスに、その視線に気づいているウネは何か居心地が悪そうな表情を浮かべる。だが彼女は無言でその視線を受け続けた。
そうして全員の紹介が終わると、今度はフェイリスが改めて自分の紹介を告げた。
「私はフェイリス・ヤーエンと申します。中央医学研究学会会長の秘書を務めております」
灰色の髪を揺らして頭を下げるフェイリスに、ローズもつられて頭を下げる。
頭を上げた彼女は、嫣然とした笑みでローズを見返した。その笑みにまたドキドキしながら、ローズは「あ、それじゃ”禍憑き”のことの話を……」と告げる。フェイリスは「えぇ」と、笑顔を変えぬまま頷いた。




