救済の方法 2
「お前、戦闘の時は凄い機敏に動いてるじゃないか。なんであの時みたいに動けないんだ?」
ジュラードがそう問うと、ローズは「それはハルファスの力で」と答え、そして彼女は思いついた顔で「そうだ、ハルファス!」と言った。
「え、どうした? つかローズ、声でかい」
「あぁ、すまん。いや、ハルファスの力を借りればこれくらい余裕で入れるんじゃないかと思ってな。彼女なら運動神経も抜群だし」
ユーリの疑問にそう答えたローズは、早速自分の中に宿るハルファスに声をかけてみる。
……が。
「ハルファス。……ハルファス?」
いくらローズが呼びかけても、ハルファスの返事は無い。
ローズはひどく困惑した様子で、もう一度「ハルファ~ス?」と呼びかけた。それから数秒後、何か苦い表情でローズが顔を上げる。
「……寝てるみたいだ」
「寝てるのかよ」
思わずまた突っ込みを入れてしまったユーリに、ローズは悲しそうに頷いた。
「そう言えば『今日はもう休む』と、さっき言ってた気がする……今は町の中だし皆がいるしで、ハルファスも気を抜いてるんだろうな」
「寝てるのはわかったが、それでお前はどうするんだ?」
肩を落とすローズにジュラードがそう聞くと、ローズはうな垂れつつ「どうしよう」と頼りない返事を呟く。やがて困り切ったローズを見かねたユーリが、彼女へこう提案を告げた。
「じゃあさ、ジュラードに抱っこしてもらって、んでウネに引き上げてもらえ」
「え?!」
『え?!』と、ユーリの提案に驚いたのはローズだけじゃなかった。ジュラードは「何故俺が」と、疑問の眼差しでユーリを見る。するとユーリはこう返事した。
「いや、別に俺でもいいけど……」
「あぁ、いや、ユーリはダメだ。アーリィがいるし、それにバレたらマヤが怖い。これ以上ユーリの命を危険に晒すわけにはいかない」
ローズがそう大真面目に訴えると、ユーリも若干青ざめた顔色で「あぁ、それは確かに」と頷いた。
それを聞いたジュラードは『俺ならどうなってもいいのか』と思いつつ、しかし頑なに拒むのも何か誤解を生みそうだなと思い、「わかった」と頷いた。
「え、ジュラード、いいのか?」
「仕方ないだろう。ただ、俺だってマヤにこれ以上余計な恨みを買うのは嫌だからな」
ジュラードは溜息と共にそう答え、ローズは苦笑しながら「彼女には内緒にしておく」と彼に言った。
ちなみにその頃のマヤはというと。
「……ハッ!」
突然顔を上げて深刻な表情をしたマヤを不思議に思い、イリスは彼女に「どうしたの?」と聞く。マヤは深刻な表情のまま、考える様子でこう答えた。
「なんか、アタシのローズがアタシ以外の何かに抱かれている気がするの……」
「はぁ?」
この世の終わりみたいな顔で不思議な事を言うマヤに、イリスは「なにそれ」と怪訝な顔で返事を返す。だがマヤはいたって真剣な様子で、「アタシにはわか るの」と力強く言った。
「あああぁ、だってこの不安感、間違いないわ。きっと今頃ローズは手足の自由を奪われて、涙目で懇願しても聞き入れてもらえずに無理矢理……いやっ、ローズがアタシ以外のものに汚されるなんて……興奮はしちゃうけど、でもやっぱりそんなの耐えられないっ」
「……あなたって発想が絶対普通の女の子じゃないよね。っていうか興奮するんだ……それはちょっとどうかと……」
イリスの呆れ顔のツッコミなど耳に入らない様子で、マヤは蒼白な顔色になって震えだす。
「あああぁぁどうしよう、こうしてる間にもローズはアタシのことを思いながら他の男に……そうして罪悪感に心を痛めながらも『悔しいっ、感じちゃう』って泣くのね」
「ねぇ、本当にそれって危機感感じての発言? 想像力逞しすぎるというか、余裕があるというか……」
「……でも、そうして心が弱ったローズをアタシが慰めるという展開も悪くないわね。身も心も傷ついたローズを優しく激しく……」
「さ、最低! ひどい、あなた本当にローズのこと愛してるの?!」
色んな意味であまりにも酷いマヤの思考をイリスが非難すると、マヤは「失礼ね、超愛してるわよん」と返した。
「だからこんなにも不安で居ても立ってもいられないんじゃない。っていうか本当に心配だから、アタシ一回ローズんとこ戻っていい?」
「え?! ちょっと待って、それって私一人でここにいろっていうこと?!」
マヤの急展開な発言にイリス は慌て、彼は心細そうな表情で「一人にしないで」と言った。
「なんか暗いし……いい歳してこういうこと言うのもなんか恥ずかしいんだけど、こんな辛気臭い場所で一人で置いてかれるのはさすがに寂しいよ」
イリスがそう訴えると、マヤは何かよからぬ事を企む顔となってイリスを見る。そのマヤの様子に、イリスは本能的に嫌な予感を感じた。
「な、なに……?」
ニヤリと暗黒的な笑みを向けてくるマヤに、イリスは恐る恐る問う。するとマヤは彼にこう言い放った。
「アタシをここに引き止めておきたかったら、それ相応のお願いの仕方があるのはわかるわよね?」
「な、なにそれ……」
嫌な予感しかしない様子のマヤは、まさしく嫌な予感の通りのことをイリスへ告げた。
「もっと可愛らしくお願いしてみなさいよ。もっとアタシ好みに『行かないでほしい、あなたの為ならなんでもするから』くらいのことを可愛い顔で言って御覧なさい。そうしたら、気に入った態度だったらここにいてあげるわよ?」
「……」
『この性格破綻した鬼畜っぷり、なんだか昔の自分を見ているようだ』と思いながら、イリスはどうやってこの悪魔を攻略しようか物凄く真剣に考えた。




