旧時代の遺産 20
「その……俺もそんなに人付き合いがいい性格じゃないが、でもこいつらと一緒に行動していて……少しだけ、以前よりは人と積極的に関われるようになったと思うんだ」
どこか気恥ずかしそうにそう言ったジュラードに、ウネは興味を持ったふうに視線を向ける。
「だからお前もこいつらと一緒にいたら、多分そのうちに……嫌でもああいうふうになるんじゃないか?」
「え……私もやがては人を毛布でぐるぐる巻きにしてしまうようなキャラになるということ?」
「……いや、そうピンポイントで似てくるわけじゃないとは思うけど」
真顔で聞いてくるウネに困った顔でそう返事をしたジュラードは、「それに」と言葉を続ける。
「あいつらが羨ましいとかそういうこと思ってるなら、今みたいに一人でどっか行かないであいつらと街の中見に行けばいいじゃないか」
「え……?」
ウネが旅についてくるようになっての彼女の行動は、どうにも皆で移動する以外は一人で自由に散策という行動が多かった。
しかし今話を聞いて彼女がこの賑やかな場を羨ましいと思うのならば、彼女も一人で行動せずにもっとローズたちと積極的に関わればいいんじゃ無いかとジュラードは思う。
するとそれを指摘した後、ウネはしばらくまた考えるように沈黙してからこうポツリと呟いた。
「……そうね、せっかくこうして大勢の人と行動を共にしているんだものね。私も興味があるならばもっと自分から、彼らに関わっていくべきなのかもしれない」
そう言って微笑んだウネに、ジュラードも笑みを返す。
彼女が異種族だからだろうか、正直ジュラードはウネをどこと無く苦手としていた。何を考えているのかいまいち理解しきれないところがある彼女なので、どう接していいのかもわからず、だからあまり自分から彼女と関わりを持とうとはしていなかった。
だけどウネも考え方や感じ方は自分たちとよく似ていて、魔族も人となんら変わりはないのだと知らされた。むしろ関わりを得意としないというところは、自分とよく似ているとさえジュラードは思った。
「……」
彼女にアドバイスした自分が彼女とあまり関わらないでいるというのは何か可笑しな話なので、ジュラードももっと自分から彼女に話しかけてみようと考える。
「あ……ウネ」
「なに?」
返事をしたウネに、ジュラードは声をかけといて今更戸惑う。話題を何も用意していなかったからだ。
「あー……そうだ、今どこに行ってたんだ?」
悩んだ結果に今までどこで何をしていたのかとジュラードが問うと、ウネは彼にこう答えた。
「色々見てたの。ヒューマンの文化や暮らしを見るのが好きだから、何をしてるのかとかどんなものがお店に売ってるのかとかどういう家があるのかとか……今、魔界に戻った時用のお土産も購入してきたの」
そう言ってウネはどこか自信有りげな表情で、腰の小さなポーチの中を漁る。そしてジュラードに今買ってきたお土産を見せた。
「……なんだこの呪いの人形は」
ウネは自信満々に見せたのは、一つ目なのが怖い真っ黒な小さい人形だった。頭のてっぺん部分に紐がついており、鞄などに手軽に付けれる配慮が成されている。
「違う、これは魔除けのお守りらしい」
「魔除け……魔寄せの間違いじゃなくて?」
「ううん、魔除け」
ウネはそう言うと、魔除けというより魔寄せにしか見えない奇妙なマスコットをポーチに大事そうに仕舞った。
「……それ、気に入ってるのか?」
ジュラードが問うと、ウネはやはり真顔で「わりと」と答える。
正直ジュラードには不可解に不気味な魔寄せ人形にしか見えないものだったが、ウネ的には購入しちゃうほど気に入った品だったらしい。やっぱり彼女はよくわからないと、ジュラードはこっそり心の中で思った。
「あと、帰り道に大きな男二人がほぼ裸で倒れていたのだけれど……」
ウネがそう思い出したように呟くと、マヤと二人でノリノリでユーリを毛布に丸めていたイリスの動きが止まる。ついでに毛布に巻かれてなるかと抵抗していたユーリの、その抵抗する動きも止まった。
「裸で倒れてた?」
「そう、ほぼ裸。おそらく下着しか身に付けていなかったから。一人は体を縄で複雑に縛られてもいたわ。息はあったしあまりひどい怪我はしてないみたいだったけど、裸で街中に放置されるなんて……この街は随分物騒なのね」
「そうなのか……怖いな。ウネも尚更一人で夜行動しない方がいいんじゃないか?」
「そうね。危険な人にあっても返り討ちにする自信はあるけど、あまり派手な行動をとってもまずいし……だから今、用心の為に帰ってきたのだけれど」
ジュラードとウネの会話を聞き耳を立てて聞いていたイリスとユーリは、気まずそうに顔を見合わせる。
ほぼ裸で気を失う男たちに心当たりがありまくる二人は、その後も続くジュラードとウネの『この街は物騒だ』という話に対して訂正をしようかどうしようか深く悩んだ。
ジュラードたちは大体ローズが予測したとおり、レイマーニャ国に入って二日目の昼過ぎ頃に目指す大都市のクノーへとたどり着いた。
「ここがクノーか……」
「やっぱり賑やかだな」
ジュラードの呟きに、彼の隣でローズが応える。大きな都市には人が多く集まるのが常だが、クノーもそういう場所のひとつのようだった。
石壁造りの家や建物が多く立ち並ぶ街並みは、とても過酷な環境の一つである砂漠の中にある場所とは思えない程に、色鮮やかに様々な建物が充実して並び、普通の土地にある都市となんら遜色なく人々が集まる地としての機能を果たしているように見える。
途中のオアシスの町などでは行きかう人々は褐色肌や灰色の髪の者が圧倒的に多く、他大陸から来た事が容姿で丸わかりのジュラードたちは少々目立つ存在となっていたが、ここでは他の大陸系の容姿をした者たちも多く目にすることが出来て、ジュラードたちのような旅の者も自然と人の中に溶け込めていた。
「よし、それじゃあ皆、ここで……」
ここに来た目的の為に改めて気合を入れなおしたローズは、握りこぶしを作ってそう声を発する。が、続いたそれぞれの言葉に彼女の気合はトーンダウンした。
「美味しい食べ物を探したい」
「そうだ、ユエたちにお土産買わないと……ここ、色々売ってそうで丁度いいな」
「も、モロの人形があそこに売ってる! 可愛い、買いに行かないと!」
それぞれウネ、イリス、アーリィの発言だが、自由すぎるこの発言にローズは苦い顔をする。
「お前たち、ここに来た目的忘れて無いか?」
ローズがそう問うと、すかさずジュラードが「リリンの病気を治す為だ!」と力強く答えた。




