再びの旅立ち 15
偶然ローズたちと再会後、パンツ泥棒の濡れ衣を着せられそうになりながらも誤解を解いて彼らと別れたエルミラは、相変わらずフェリードと共にボーダ大陸の各地を移動しながらマナの測量を行っていた。
今現在二人は最初に二人が出会った場所近くに何故か戻り、小さな町の安宿に滞在中である。
この辺りのマナの詳細な情報が欲しいというエルミラの要望で、彼らは昼間にこの辺りのマナの詳細な調査を行っていたのだった。
「う~ん、やっぱりこのマナはどこか変だよね……この波形のパターンは普通のマナと明らかに違うし……この形状はウルズに似てるけど、まさか……ねぇフェリード、もっとこれ詳しく分析出来ないの?」
「簡易調査キットしか持って来 てないんですから、それ以上は無理ですよ。本格的に調べたいなら、一度研究所に戻らないと……あ、そうだ」
ベッドでごろごろしてビスケットを頬張りつつ、昼間に調べた異常なマナの調査結果を眺めながらのエルミラは、唐突に何か思い出した様子のフェリードに「どうしたの?」と声をかけた。するとフェリードはエルミラにこう答える。
「いえ、そろそろ僕も調査結果持って一回報告のために研究所に戻らないと行けないなって思いまして」
「あー……そうなの?」
さして興味無さそうに返事するエルミラに、今まで彼に散々振り回されていたフェリードは若干怒りながら「そうですよ!」と言う。
「ぶっちゃけエルミラさんのせいで、戻る予定が大幅に遅れちゃってるんですから! そろそろ戻らないと、僕失踪者扱いで研究所やめさせられちゃいますよ!」
「へぇ、それは大変だね」
「うわっ、なんですかその超他人事発言! もー、本当に失踪者扱いになってたらエルミラさんのこと一生恨みますからね!」
まるで心配していないエルミラの態度に、フェリードはますます怒る。だがエルミラは意に介さず、「うん、いいよ恨んでー」とかいう適当な返事を彼に返した。
「……はぁ。本当にエルミラさんって……もういいや」
「なんだよ、途中まで言ったなら全部言ってよ」
「いいんです、言っても何も変わらないんで。それよりも、僕本当に研究所に戻りますけど、エルミラさんも一緒に来ますか?」
フェリードは「丁度この近くですから」と言って、エルミラにどうするかを問う。フェリードにとってエルミラは成り行きで一緒に行動することになった謎の赤毛青年だが、しかしどうも自分より遥かにマナについて詳しそうな人物なので、彼は共に研究所に行く事を誘ったのだった。
「エルミラさんの知識があれば、僕らの研究ももっとはかどると思うんです。協力してくれたら嬉しいなーって思うんですけど」
そう言って笑顔を向けるフェリードに、エルミラは頼られた事が嬉しくてちょっと彼の提案についてを考えてしまう。
「う~ん……ホントはそーいう組織にあんま関わりたくないんだけど、でもフェリードには沢山協力してもらったし、このビスケットもおやつに買ってもらったし、とにかくお世話になったからお返ししないといけないよね……どうしようっかなー……」
ビスケットをバリバリ食べながら悩むエルミラは、「研究所ってどこ?」と聞く。フェリードは「ルルイエのローゼント環境研究所です」と答えた。
「あぁ、もしかしてアゼスティにあるの?」
「はい。見た目は小さい研究所ですけど、設備はけっこう整ってていいとこですよー。最新のマナの解析機なんかもあったりして」
「そうなんだ。……ルルイエってことは、アーリィたちのお店にもそこそこ近いな……」
「? なんですか、お店って」
「あぁ、いや、こっちの話だから気にしないで」
エルミラはふと心配させる形で別れてしまったレイチェルたちのことを思い出し、時間があれば少しだけ彼らのところに顔を出したいという思いを抱きつつ、フェリードに「いいよ、オレも行く」と返事をする。エルミラのその返事を聞き、フェリードは「ホントですか?!」と喜んだ。
「わー、エルミラさんって正直すっごい迷惑な人ですけど、研究手伝ってくれるなら有り難いですよー。ホント、友達としては付き合いたくないですけど、でもエルミラさんの知識量は感心しちゃいます」
「ちょっとフェリード、その言葉はオレ素直に喜べないよ?」
フェリードの言い分にエルミラは苦笑しつつ、彼はもう少しこの振り回されやすい青年と行動を共にすることを決めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あの……」
夜、外でマヤと共に涼んでいたローズの元にイリスがやって来る。何か不安げな表情の彼を見て、ローズは不思議そうに「どうした?」と聞いた。
「いや、思ったんだけど……私、まさかこの姿のまま町中歩くわけじゃないよね?」
「……あっ」
イリスの疑問に、ローズは彼の今の姿の不味さを思い出す。
ぶっちゃけ一日一緒にいると既にそれが普通に思えつつあり、自分の中で違和感を忘れていたローズだったが、よくよく考えると今のイリスの姿は見た目が非情に不味いものだった。
「そ、そういえばその姿で町の中を歩くわけにはいかないよな……」
「ま、そうね。そのままうろつけばトラブルになる事間違いなしよね。そりゃもう大騒ぎよ」
平然と答えるマヤにイリスは苦い顔をし、彼はローズに「ハルファスさん、何かいい案思いついたとか言ってた?」と聞いた。
「あ、ハルファスか……特に何かは言ってなかったけど」
「そう……」
ローズの返事にイリスはしょんぼりしつつ、「そう直ぐには思いつかないよね」と呟く。ローズはイリスのがっかりした姿を気の毒に思い、彼にこう提案した。
「今ハルファスを呼んで、変身術で何かいい案思いついたか聞いてみるよ」
「え……いいの?」
イリスの問いかけにローズは「あぁ」と笑顔で頷く。そして彼女は自分の中に宿る魔人・ハルファスを呼んだ。
ローズの体から光が溢れ、小さく人型を成す。光はハルファスとなり、ローズたちの前に姿を現した。
『どうした、ローズ。夜更かしなんぞせずにさっさと体を休めろ』
「あ、はい……」
登場していきなり説教されたことにローズは苦笑し、マヤはそんな彼女に「アタシが一緒だから大丈夫ですよー」と言う。
『そうか? いや、私は体を冷やすとか肌荒れするとか、そういう心配をしているのだ』
「は、肌荒れって……」
「あらローズ、肌荒れを気にする事は重要よ? あなたのもちもちすべすべお肌が荒れちゃったら大変だもの。具体的にどう大変かって言えば、あなたのもち肌をアタシがいやらしく撫で回す時……」
「具体的な説明はしないで結構!」
マヤの不必要な説明を拒否し 、ローズは「それよりハルファス、聞きたいことがあるんだ」とハルファスに向き直る。
『ん? どうした?』
ハルファスが聞く姿勢を取ると、ローズは彼女にたった今イリスに相談されたことを話した。




