再びの旅立ち 1
イリスが目覚めたという知らせがジュラードたちの耳に届いたのは、あの壮絶な夜から一晩経っての昼過ぎだった。
ウネから話を聞いたジュラードたちは早速、彼女とリリンの面倒を看るのを交代してもらって、倒れたイリスが運ばれたユエの部屋へと向かう。そこでは魔物の姿のままのイリスが、ウネの話通り目を覚ましていた。
「イリス~! よ、よか、よかったっ……あああぁぁ、私もうあなたがこのまま目覚めなかったらと不安で一睡も出来なくて……ううぅぅ……」
「ラプラさん、少し落ち着いたらどう?」
ジュラードたちが部屋に入ると、ベッドの上のイリスに抱きついてオイオイ泣く大の男・ラプラという異様な存在がまず一番に目に入り、傍でユエが苦笑しながら彼を見ている。イリスはげっそりと死にたそうな顔で、されるがままにラプラに羽交い絞めに抱きしめられていた。
「……どうやらあの魔族は平常運転のようね」
「つーことは性悪野郎も大丈夫ってことだな」
ラプラの大変わかりやすい様子から、マヤとユーリはイリスは正気なのだという事を判断する。ローズは「よかった」と呟き、ジュラードも安堵に胸を撫で下ろした。
「あぁ、あんたらも来たのか。……ご覧のとおり、イリスは大丈夫だよ。ちゃんとあたしらのこと、わかるってさ」
ジュラードたちの存在に気づいたユエが彼らにそう声をかける。ジュラードはイリスに「体、大丈夫ですか?」と聞いた。
「うん、私は平気……それよりユエやラプラから話、聞いた……ごめんなさい、すごく迷惑をかけてしまって……」
暴走した時の記憶は曖昧だが、自分が何か恐ろしいことをしてしまったという覚えはあるイリスは、ユエたちから聞いた話でそれを現実だったのだと確信する。
鼻水垂らしながらぐずぐず泣くラプラの鼻水を拭いてあげながら、イリスはひどく申し訳無さそうにそうジュラードたちに言い、そして頭を下げた。
「そ、そんな! 頭下げなくても……だって自分の意思でそういうことをしてしまったわけじゃないんだし!」
「ローズの言うとおりよ。それにあなたが我を失って暴走し、”そうなってしまった”責任はアタシにもあるからね」
ローズの言葉に続けて、マヤが不可解な一言を発する。ユーリはマヤを見て、「お前の責任?」と首を傾げた。
「えぇ、そうなのよ。……丁度いいわね。彼も目覚めたし、昨日の夜のことでわかった事を色々話しましょうか」
そう言ったマヤに、イリスが「アーリィは?」と問いかける。アーリィは今この場に姿が無く、マヤは彼の問いかけに「今はまだ寝てるわよ」と答えた。
「魔法の使い過ぎでね。昨日はかなり無理してもらったから……でも怪我は無いから、そのうちに目を覚ますでしょう」
「そう……」
「あなたが気にする事じゃないわよ」
気遣うマヤの言葉に、イリスは僅かに笑んで「ありがとう」と返す。そうして一同はマヤの提案通りに、昨夜の出来事の確認等を行うこととなった。
ユエの部屋で話をするのは少し狭いということで広間に移動したジュラードたちは、そこで話を始めた。
「結局正気には戻ったけど、魔物の姿はそのままか……」
ローズがイリスを見ながらそう呟く。イリスは彼の言うとおり正気は戻っていたが、しかし変化した肉体は人には戻ってはいなかった。
今現在のイリスは頭に生えた二本の長い角や、尾てい骨辺りに生えたドラゴンのものに似た尻尾や、赤黒く獣のもののように変化した手足を隠すように、頭から大きな布を被って椅子に座っている。羽は自分の意思で隠せるようなのだが、それ以外はどうしようもないらしく、彼はひどく落ち込んだ様子となっていた。
「この場所ならまぁ、この姿でも別に外に出なければ大丈夫だろうけど……でも町へ行くとなるとそうはいかないよね」
イリスを見ながら、ユエがそう不安げな様子で言葉を漏らす。心は人でも見た目が異質な魔物である以上、人は彼を見れば”魔物”と認識するだろう。そうなれば危険だ。
「子どもたちも……こんな姿の私見たら、多分怖がるよ……」
落ち込んだ様子でそう呟くイリスは相当ショックを受けているのがわかり、それは見ていて気の毒に感じるほどだ。正気に戻れたとはいえ、魔物に変わってしまったのだから、ショックを受けるのは当然だろう。ローズは彼を励ますように、こう口を開いた。




