光の裏側 6
日が落ち、夕食を食べ終えた後の孤児院は各々就寝時間まで自由行動となるのが通常の流れだ。
子どもたちは就寝の二十一時まで、孤児院内で遊び始める。そしてその一方でローズたちは、約束どおり訪問してきたレイヴンと共に”禍憑き”の治療についての話し合いを再び始めた。
「さて、じゃあ”禍憑き”について今まででわかったことをまとめようと思うんだけど」
広間に集まったジュラード、ローズ、ユーリ、レイヴン、ユエ、ラプラ、を前に、マヤがそう声をかける。そして彼女は何か足りない存在に気づき、「あれ?」と言った。
「アーリィは?」
姿が見えないアーリィについてマヤが問うと、ユーリが「ジュラードの妹んとこ」と答える。
「なんか仲良しになったみたいで。メシの後からずっとうさぎもどき交えて遊んでるぜ」
「あ、そう。まぁそういう理由なら、無理にこっち来させるのも気が引けるわね……」
一時は容態が危なくなったリリンだったが、つい二時間ほど前に目を覚ました。そして回復魔法の効果なのか、その後はだいぶ体調がいいようで、ベッドの上でうさことアーリィとなにやら楽しそうに遊んでいる。
「ウネは子どもたちの面倒見てるし……レイリス、じゃないわね、イリスは洗濯中っと。そんじゃこのメンツで話し合いね」
マヤはそう言うと、「じゃあまずは今まででわかったことのまとめね」と言って、ローズにメモを取るように指示する。ローズは紙に彼女の言う事を書き始めた。
「まず”禍憑き”に関係ありそうなことで気になる事は、この辺りのマナが異常に濃いと言う事ね。それに関連して、この辺りで異様な魔物が出るようになったってのも気になるわ」
「マナの異変と魔物については関連があると断言してしまっても構わないでしょう。私たちの研究で、マナの変化によってその地域の魔物に変化が起きることはあるとわかっていますし」
「じゃあ異様な魔物の出現は、マナの変化が原因ってことで決まりね」
ラプラの言葉を聞き、マヤはそう結論付ける。ついでにという感じで、彼女はラプラに聞いた。
「あなたはマナが体に与える影響については詳しくないの?」
するとマヤに聞かれたラプラは、「そうですねぇ」と少し考えて から、再び口を開く。
「それについては専門ではないので詳しくはありませんが、知りえる範囲の知識でよろしければお話しますよ」
「何でもいいわ、ちょっと言ってみて」
マヤの返事を聞き、ラプラは「わかりました」と頷く。
「まず一般的にマナは人体に少なからず影響を与える事はわかっています。プラスの影響がほとんどですが、例えばヒューマンの肉体にアトラメノク属性のマナが合わない為に一時的に体調を崩すというマイナスの影響も存在します」
「それはアタシたちも知ってるわね」
「そうですか。では反対に私たち魔族がこちら側に来ても体調を崩す事はほとんどない理由はご存知でしょうか?」
問われ、マヤは「ウネは適応能力が高いから、自然と適応してるんじゃないかって言ってたわね」と答える。ラプラはそれに「それが正解ですよ」と返した。
「そのとおりです、適応しているんですよ。私たち魔族はヒューマンほど繁殖能力が高くない代わりに、強靭な肉体と適応能力で生存率を高めている種なのです。魔物ほどではありませんが、その場の環境になるべく迅速に適応するよう細胞が働くのです」
結果マナが変わればそのマナに適応するように変わるのが自分たちなのだとラプラは語る。つまりそういう意味では魔族は人間よりマナに対して影響を受けやすいとも言えると、そう彼は語った。
「なるほどね。じゃあやっぱり……」
「やっぱり?」
メモしていた手を止め、ローズはマヤに疑問の眼差しを向ける。それに対してマヤは、「この病気の原因はマナなのよ」と返した。
「アタシが心当たりのある病気もそれが理由だし……うん、ますますアレな気がするわ」
「アレってなんだ? お前だけ一人納得するなよ」
ジュラードが説明を求める視線を向けながらそうマヤに言うと、マヤは「これから説明してわよ」と彼に返事する。
「でもその前にわかったことのまとめが先ね。病気に何となく心当たりはあっても、治療法まではアタシも知らないから、それを考えていかなきゃいけないし」
マヤは「わかったことから治療法が見えてくるかもしれないからね」と言い、今までわかったことについての話を再開させる。
「で、”禍憑き”は今の段階では ゲシュだけが発病する」
マヤはそう言うと、レイヴンに確認するように「そうよね?」と聞く。レイヴンは「えぇ」と彼女の言葉に頷いた。
「断言は出来ませんが、おそらくゲシュのみの病なのでしょう」
「ってことはさぁ、ローズもあぶねーのか?」
レイヴンの言葉を聞き、ユーリがふと思った事を口にする。ローズはメモしていた手を止め、顔を上げた。
「そうなのか?」
「いや、俺に聞かれても……」
自分を見て問うローズに、ユーリは困った様子でそう返事する。ローズは『じゃあ』といった感じでレイヴンを見た。
「あの、私もゲシュなんだが……その病気になる可能性があるってことだろうか?」
ローズの問いに、レイヴンは「ゲシュであるならば、残念ながらその可能性は否定できませんね」と正直に答える。
「しかしゲシュであれば必ず発病する病とは限りません。今の段階では何とも言えませんが……ジュラード君も可能性はありますが、しかし今のところ病を発病していませんし」
確かにジュラードは”禍憑き”にかかっていない。ウネが以前『個人差があるのかもしれない』と言っていたが、そのとおりなのだろうかとジュラードは思った。
「ん、待てよ……? アーリィも……なのか?」
一応肉体はゲシュであるアーリィは可能性に入るのかどうか疑問になり、ユーリはそう呟きながらマヤの方を見る。するとマヤは「悪いけどわからないわ」と彼に言葉を返した。
「肉体がゲシュである限り、アーリィも可能性が無いとは言い切れないわね」
「マジかよ……」
ちょっとショックを受けたように、ユーリは苦い顔をする。しかし今はこれ以上この病に侵される者が出ないことを祈るくらしか出来ず、ユーリは小さく溜息を吐いた。
「そして今の段階で考えられる原因はマナよ。レイヴン先生の検査で、発病した二人からマナのアレルギー反応が出てる。この地域一帯のマナの異常と、おそらく関係があるんでしょう」
実際にこの場所に来て、そして”禍憑き”の患者を見て、結構多くのことがわかってきた。まだ解決には至ってないが、しかし原因の追究はこうして進んでいる。
「もう一つ重要な情報がありますね。一時的な症状緩和の効果しかな いのかもしれませんが、治癒術で病状が良くなるという結果が出ています」
「そうね。それも重要な情報よね」
ラプラとマヤのやり取りを聞き、ローズは無言で紙にペンを走らす。




