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8.夜刀祀と芹沢梢

 全治二週間。


 それが、俺が都市伝説に関わった顛末だった。


 重傷の割に治療期間がえらく少ないが、それが公安零課の恐ろしいところだった。


 治療技術と治癒能力。


 なんでも、この程度の怪我ならそのくらいで傷跡も残さず感知させられるらしい。それどころか、四肢切断だけでなく完全になくなってしまっても対応できるんだとか。


 どうなっているんだと言いたかったが、言っても意味がないので言わないことにした。


 そのおかげで、今こうして動くことができるんだしな。


 そこは素直に感謝すべきだろう。


「戦人君、準備はいい? 状況説明(ブリーフィング)をしようと思うんだけど」


「ああ。分かった」


 その声を聞いて、資料を見るために梢の横に歩み寄る。


 今の装備は、俺用にカスタマイズされた壱式装備。それまでと異なるのは、フェイスガードを装着していないことと、この装備に対してアンバランスな日本刀を腰から提げている、ということだろうか。


 骸骨侍――フツヌシが俺に託してくれた、彼の魂。


 戦いに囚われ、黒く暗い感情に心を塗り潰されていた俺がどこまでできるかは分からないが、できるだけのことはやってみようと思う。


 土蜘蛛みたいに、ならないように。


 結局のところ、祀は土蜘蛛の計画――こっくりさんを利用して、新しい信仰対象として自分の信仰を取り戻すこと――を手伝ってはいたが、成功するとは思っていなかったらしい。祀は頭が良いからな。ただでさえ宗教感の薄い現代日本で信仰を得ることの不可能性を理解していたのだろう。


 だからこそ、祀は所々で意図的に情報を流し、俺を焚きつけていたんだ。


 俺の妄執を、解決するために。


 だから、もしかしたら、俺が土蜘蛛を斃すというところまでが、祀が企てた本当の計画だったのかもしれない。


 なんにしても、祀にはいくら感謝してもし足りない。


 祀のおかげで、俺は暗い闇の中で光を掴むことができたのだから。


 いつか礼をしないとな。


 ……だけど、どれだけ取り繕うとも、祀が事件の中心人物だったのは間違いない。


 本人に悪気はなかったとはいえ、事件の片棒を担いだ祀は――


「梢。説明のためとはいえ、戦人に少し近すぎじゃないかい?」


「そんなことないの。祀ちゃんは考えすぎなの」


 襦袢に緋袴。巫女装束の腰に十束剣を提げた状態で、俺の隣で梢と火花を散らしていた。


 と言うか、お前ら、仕事中に喧嘩すんなよ。


「…………はぁ」


 公安零課は、正式には存在していない……法律で裁くことのできない存在に対抗するための組織だ。

 事件の後で気付いたのだが、それはつまり、事件を起こした犯人を裁くための法律もない、ということでもある。


 だから祀は捕まることもなく、どういうわけだか公安零課預かりとなったのだ。


 有用な人材を確保したかった、ということなのだろう。


 先祖代々の巫女というだけのことはあって霊力も高いらしく、またそういった存在に対する知識もあるため、確かに公安零課の人材としては優秀だろうけど。 


 ま、俺としては、祀が捕まらなくて良かったと、安心したんだけどな。


 まずは俺と同じように見習いから、ということで、今は祀と三人で仕事現場にいるのだが。


「…………」


 無言で睨みあう、祀と梢。


 この二人、何故だか相性が悪いようで、よくこんな感じに喧嘩をしている。


 喧嘩するほど仲が良いとも言うし、それはそれで親愛の裏返しなのかもしれないが……喧嘩のたびに、間で板挟みにされる俺はたまったもんじゃない。


 俺としては、二人には仲良くしてほしいんだよ。かなり切実に。


 今日も、任務前だというのに睨みあっていた二人だが、今回は少しばかり様子が違った。


 どういうつもりか知らないが……おもむろに、梢が俺の右腕に抱きついてきたのだ。


「……なにしてるんだ、梢」


「なんでもないの」


 いや、なんでもないわけあるか。


 いいからとっとと離れろ。


「嫌なの。離れたくないの」


「……む」


 ほら。お前がそんなことするから、祀も怒って……って、おい。


 祀よ。なぜお前まで、俺の左腕に抱きつくんだ?


 訳のわからないところで張り合うなよ。


「……梢。戦人が迷惑してるだろ? 早く離れたらどうだい?」


「祀ちゃんこそ。離れないと、状況説明(ブリーフィング)ができないの」


「いや、どっちがどうとかじゃない。二人とも離れろ」


「嫌なの」


「戦人。悪いけど、君の願いでもこればかりは叶えられない」


「私、この仕事が終わったら、戦人君に頭撫でてもらうの」


「それはボクの特権だ。戦人に頭を撫でられる権利はボクのものだ」


 お前らな。


 抱きつかれる俺の身にもなってみろよ。


 ……その、当たってるんだよ。


 両腕に……柔らかいものが。


 なんでもないように、平静を保つのも大変なんだぞ。


「……今日の任務は、怪人KBの退治なの」


「新しい都市伝説だね。かつて流行った怪人Aの亜種と言うべきか。でも、その特徴は――」


 おいお前ら、このまま状況説明(ブリーフィング)すんのかよ。アホか。


 あーあー、もう、勘弁してくれ。


 こんなんで、仕事になるのかよ。








 ……でも、まぁ。


 戦いの合間にこんな平和も――悪く、ないもんだな。




というわけで、この物語は以上で幕となります。


ここまで読んでくださった皆さま、ありがとうございます。



さて。


あらすじの方にも書いていますが、この話は第18回電撃大賞に応募し、一次選考を通過したお話です。


審査員様からの選評により、このお話の長所も短所も指摘されているわけですが、このお話を通して読んでいただけた皆さまの目には、このお話はどう映っていたのでしょうか。


いい時間つぶしになったのか、読んで損をしたのか、それともなにか思うところがあったのか。


そういう率直な感想を伝えていただけると、次の投稿を狙う私としては助かります。


また、『このお話を読んで良かった』と思っていだだければ、作者冥利に尽きるというものです。


できれば皆さまの中に、少しでも良いものだったという結果を残せればいいのですが、ね。


そのあたりはおそらく、このお話を読んでくださった皆さまの方が詳しいかと存じます。




ついでに、宣伝をば。


同サイトにて、魔法少女リリカルなのはシリーズを題材とした二次創作SS『魔法少女リリカルなのは ViVid symphony』を投稿させていただいています。


タイトル通り、高町なのはの娘である高町ヴィヴィオが主人公の物語です。


この戦闘狂のお話を読んで少しでも興味を持っていただけたのであれば、目を通していただけると幸いです。




それでは、長くなってしまいましたが。


この話を読んでくださった方々、そしてこの話を書くにあたって助言等いただいた方々への多大なる感謝をもちまして、あとがきを終わらせていただきます。


次は『魔法少女リリカルなのは ViVid symphony』、あるいはまだ別の『お話』にて、再び皆さまと相見えることを心待ちにしております。



では。


ここで出会う物語が、皆さまにとって良き話であることを願って。


天海澄でした。

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