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「こんなはずしゃなかったのに・・・!」
正面に座る黒髪の少女が俯く。
もしや泣かせてしまったのだろうか、と心配になる。
自分と少女の間には机の上に乗ったチェス盤。
こちらの手駒である黒のナイトとビショップ2つが、白いキングを睨んでいる。
所謂チェックメイトの状態である。
どう声をかけたものか思案していると、少女が長い髪を翻しながら立ち上がった。
「今日は負けでいいわ! 次は絶対に負けないから!!」
赤く色付いた顔に薄っすらと涙を浮かべながらこちらを睨みつけ、そう宣言するとあっという間にチェス盤と駒を片付けて、彼女は教室を出て行った。
手番を入れ替えて2局指し、連敗したのだからあの久世佳乃でも敗北を認めるしかないだろう。
チェックメイトをされてもまだ負けてはいない、とは流石に誰でも思わないか。
それよりも先程彼女は何と言っただろうか。
今日は負け、次は負けない、とか。
もしや勝つまで続けるつもりなのか、もしくは納得のいく1局を指すまで終わらないのか。
一抹の不安、というには少しばかり大きく、重い何かを抱えながら窓の外に目を向けると、空は暮れかかっていた。
校舎を出て正門へ向かう最中、ふと疑問が頭に浮かぶ。
どうしてこんな事になったのだろう。
自問して即座に原因を探り当てる。
十中八九、いや間違いなく、自分の起こした気まぐれである。
教室に独り残る理由も無く、あの美少女を泣かせてしまうまでに起こった、直近の出来事を思い返しながら、夕飯の材料を買ういつものスーパーへ向かう。
途中、喫茶店の大きな窓ガラスに反射する自分が、自分の想定よりも背を丸めていたのが、何故だか無性に滑稽だと感じた。




