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国王の宮廷医師 小さな改革の前進Ⅵ

ストレーエンセは王妃の為に宮廷人を一掃しようと国王と廷臣達に政敵を排除しようと動く。

「マルグレーテ!

 御願いだ!

 王妃陛下から国王陛下に私を解任する宣言を撤回するように言ってくれ!

 もしもの時に王妃の傍にお前をつけたんだから。

 ここで失脚する訳にはいかない!!

 側近達や大臣達にも懇願したのだけど話すら聞いてくれない!

 すべてあの宮廷医のせいだ!!

 貴族でもないのに生意気に国政に口を出してきて!

 大臣達ですら引き込んで!!

 まだ!まだ!宮廷を去る訳にはいけな

 い!!

 マルグレーテ!!

 御前だけが頼りだ!!」


マルグレーテはもううんざりと言わんばかりに、深いため息と共に兄を軽蔑の目線を投げた。

「…お兄様!

 随分とかってな言い分ですわね。

 あんなに嫌っていた王妃陛下に助言してほしい?

 国王陛下に王妃陛下の中傷を散々言いふらし、お二人の仲を裂いて罪のあらん限りをつくしたお兄様を?

 誰が助けると?

 逮捕される訳でもなく。

 処刑される訳でもなく。

 ただ宮廷を去る。

 それだけの事です」


空気が凍りつかんばかりに兄のホルクの顔は青ざめる。

宮廷の重鎮達からは突き放され、兄弟や親戚のつてを頼ったものの何の策をたてられないまま最後の頼りの妹から拒否される。

絶望の淵に叩きつけられた気分で吐き気さえした。


「マルグレーテ!! 

 御前は知っているはずだ。

 私が今の地位を築くのにどれだけの労力と

 財力を使ったか!

 私がどんなにかあの暗君の機嫌を窺ってきたかを。

 御前は知っているではないか?」


「…?

 存じませんわ。

 お兄様はただご自身の為にお好きな様に陛下を操っておいだっただけではありませんでしたか?

 ただ国王陛下を悪の道に引きずり込んだだけではありませんか!

 今更私にどうにかしてほしいなど…。

 私にはどうする事も出来ませんわ。

 残念ながら」


「マルグレーテ!!

 なあ〜。

 御前まだ根に持っているのか?

 あの時の事を…。

 あれはな…御前の為でもあったんだ。

 御前も貴族の娘だった。

 わかるだろ!」


「何をおっしゃっているのか?

 お兄様の自業自得です。

 私は知りません。

 宮廷女官長として忙しいの。

 これで失礼いたしますわ」


さも煩わしと氷の様な眼差しで兄を見ると、勢いよくスカートの裾を翻し部屋を去る。

残されたのは放心状態で立ち尽くすホルク伯爵だった。


「マルグ……マルグレーテ!!」


悲痛な兄の声をまるで聞こえないのかハイヒールの音が豪華で美しい内装で飾られたホルク伯爵邸の居間に虚しいほど木霊した。


当のマルグレーテは清々していた。


長兄に比べて野心家のこの兄は、自分の恋人がしがない貧乏貴族の子息だと言うだけで、無理やり別れさせた張本人だった。

恋人の父親に巨額の投資を持ち掛け大きな負債を負わせ、それを破綻させたのだ。

しかも元から損害しかでない投資で、詐欺まがいの話だった。

ホルク伯爵の策略とも知らずに借金の催促に耐え兼ねた所、ブルジョア階級の平民の娘を子息と結婚させる事で借金をチャラにさせたのだ。

勿論それはホルク伯爵とその娘の父親との策略だった。

マルグレーテも突然恋人から別れ話を切り出され、理由もはっきりしないまま相手は知らない女と結婚してしまった。

心痛の中自分も兄の薦めで、今の夫と結婚した後事の真相を偶然知ってしまったのだった。

いずれこの兄に復讐したいと胸に刻んで、宮廷生活を送り、今ようやく復讐を遂げて満足し兄の邸宅を後にした。


****************************************



私がホルク伯爵の宮廷追放を知ったのは、すでに彼が宮廷を去った後の事だった。

そうストルーエンセがいや………。

フィリップが言っていた吉報はまさにこれだったと直感したわ。


ホルク伯爵がいなくなった宮廷では、私に対する宮廷人達の態度が明らかに違った。

私からすると目の上のたんこぶだったホルク伯爵が排除された事で、私への風当たりは弱くなったの。

なによりも夫の私への態度が明らかに違ってきたわ。

公式な場所で夫は今まで一度もした事のない腕を組んで常に傍にいるしかも上機嫌だ。

私にまるで恋でもしているかのように柔らかな微笑みを湛えている。

最近の精神状態は幾分落ち着ているようね。

怖いくらい。


それが決定打だったのか?

皆私がいると、恭しく丁寧な所作で敬意を表してくれるようになった。

今までの苦労や苦痛はいったい何だったのか?

あの虐げられていた宮廷生活は嘘だったのか?とすら思える。


しかも息子は将来の国王で私はその母よ。

夫が逝去しその時に息子が成人に満たない場合は母后として摂政になる可能性があるの。

一転して息子の教育に私の意見が通るようになった。

まだまだ可愛い盛り、以前はイギリスの政治的影響を受けかねないと尽く王太子には関与出来なかった。

でも今は違う。

一緒にいると穏やかな気持ちになって2人で宮廷生活を送り続くのも悪くはないと思ってしまう。

真っ赤で柔らかな頬、丸々太った健康そうな身体を抱き上げる。

未来の国王に帝王学を教育するのに母は必要ないと定期的な面会しか出来なかった。

産んだだけ。

自分で育てたかった。

どんなにこの時を待っていたかを。


柔らかな肌が体温が。

私を幸せの果てに連れていってくれる。

ぽかぽか体温を確かめるように強く抱きしめる。

この瞬間がずっと続けばいいのに………。

連れて行く?連れて行こうか?



「マ…ママ?」

ふんわりとした幸せが私を包み込む。

ストルーエンセはこれからいつでも自由に息子の部屋を訪問出来、彼の教育係や侍従、侍女の選定から細かな指導に至るまで関与出来るようにすると言ったわ。


全ては好転していった。

ストルーエンセ……いやフィリップの戦略によってすべては彼の力によって………。


でもその彼とは大きな問題が立ちはだかっているの。








恋人とのある問題の解決法とは?

次回王妃の覚悟と新たな展開への序章へ。

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