国王の宮廷医師 小さな改革の前進Ⅳ
突然前世の恋人と告白してきたストルーエンセにキャロラインマチルダ王妃は衝撃を受けて去ってしまった。
「…wu..! へ……へい…陛下!
へ……王…私の……ラトゥール……が……。
waa〜〜〜!!」
前世の恋人を名乗る宮廷医師から逃れ、息を切らせて戻った私を待ち受けていたのは……。
ドレスの裾が床の埃で汚れているのも気にも止めず、泣き崩れ放心状態で床に倒れ込んだアイベンの姿だった。
さっきまでの動揺は瞬間に消え去り、この悲惨な彼女にどう接したらいいのか?
頭が混乱して言葉が見当たらない。
周りを見渡してもどうしていいのかわからずに立ち尽くしている侍女達がソワソワとしている。
…あÞ……そう言えば陛下が…確かラトゥールの首都追放を言ってたわね。
あまりの自分に起きた出来事にすっかり忘れていた。
でも私のせいかもしれないけれど、元はアイベンがラトゥールといたいための偽装工作だったから。
私は更に面倒な事に巻き込まれた訳ね………。
宮廷医師の衝撃の告白に。
アイベンの傷心の姿。
もうどこかに消えたい気分。
それでも何とかしないと……。
項垂れたアイベンの肩を優しく出来るだけ優しくつつみ込むようにして小さな声で語りかける。
「アイベン。
なんて言ったらいいか……。
ごめんなさいね。
こうなるかもしれないと先手を打てばよかったわ」
「へ…陛……陛下。
私が浅はかな考えをしたから。
私が愚かでいたらなかったのですわ。
ラ…トゥール…ラ…」
瞳に涙を浮かべて、それは止まる事がないほど頬に伝っていく。
その光景は強烈な後悔と責任感が私に襲いかけるのには十分。
今ひとり納得は出来ないけれど、事態を収拾しないといけないんだけど……。
私は彼女を抱きしめながら途法に暮れ果てて思わずため息が漏れる。
アイベンに起こった愛の別れ。
そして私に起こった信じられない出来事にも。
でもここで彼女の神経を逆なでするのは得策じゃないわ。
私への恨みを買うとまた問題が大きくなるもの……。
宥めるように優しく大切にアイベンをつつみ込みその腕に抱き寄せる。
そうね。
私もそうだったわ。
失って初めて本当に愛していたと、そしてその行為がいかに愚かだったかを知ったわ。
「アイベン。
まずは落ち着いて。
今後の対策を考えましょうね。
私が動くとまた宮廷が騒がしくなるわ。
貴女は彼の足取りを調べて。
船か馬車か。
彼の容姿ならすぐにわかるでしょうから」
泣きじゃくったアイベンの赤い瞳が、その絶望の果てに少しだけ光が差し掛かったように見えた。
「はい陛下……。
このような厄介事に……陛下を巻き込んで
誠に申し訳ございません。」
ようやくハンカチで目頭をおさえながらも何とか冷静さを保とうとする姿でほっとして僅かにため息を吐く。
「いいのよ。アイベン。
貴女の幸せを常に願っています」
本当に本当に……心からそう思っているの。
「陛下………」
彼女は私のスカートの裾を指先に抓んだ。
それに唇に当て敬意を示してくれた。
彼女はかけがいのない忠実な侍女になってくれるだろうと少し慰められる。
青白い顔色が痛々しいものの、さきほどの激しい動揺の色は消え去っていた。
やや悲しげな微笑みを湛えアイベンは品位を保ちながらカーテシーをして部屋を退出していった。
ようやく事態の収拾が出来て軽くため息を漏らしてしまった。
恋愛事は厄介。
巻き込み事故はもう沢山よ。
でも同じくらい彼女の愛も貫けるように願っているわ。
疲れたので落ち着かせる為にハーブティーを飲もうとマチルダを呼ぼうと思ったの。
テーブル脇の呼び出しベルを手に取った。
「陛下!!」
マチルダの甲高い声がした。
その方向へ顔を向ける。
バン!!
耳を切り裂く強烈な爆音に耳を手で覆う。
突風に飛ばされんばかりに開いた扉から突然現れたのはマチルダ。
今にも死にそうな表情で全速力で私へと向かっている。
ドン!
私に衝突!
そのままマチルダをかかえるようにベットに逆さまに倒れ込む。
「waaawuon〜〜〜」
部屋中木霊する号泣するマチルダ。
もう次から次へとどういう事?
アベイルより年少だから甲高いそれは鼓膜を破らんばかりに泣き叫んでる。
やめ〜て!マチルダ!!
まったく!
今日はなんなの?!
もうやってられないわ。
でもここで感情的になっては駄目。
まずはこの子を落ち着かせないと。
「マチルダ?
何があったの?
話して頂戴あなたの助けになるわ。
ねぇ〜マチルダ」
「陛下!」
あれっ?
陛下?
尊称で呼んでだっけっ?
この子?
「なぁぁに………マチルダ?」
「絶対叶えてくれますか?」
「ええ」
「絶対?」
「ええ。
私に出来る事ならばね」
「はい陛下しか。
出来ません」
「そう。
わかったわ。
何かしら?」
「へ…へい……スト……セ…恋…くださ…」
「は?聞こえないわ。
なんて言ったの?」
「陛下…陛下…ストルーエンセ…殿…」
「ストルーエンセの?」
「ストルーエンセ殿の恋人になってあげてください!」
「………はぁ~~~~~~~~」
ななに…なに言っているの?
マチルダ?
貴女?大丈夫かしら?
あんなに不倫を軽蔑して憎んで信仰が全てだったマチルダの言動とは思えないのに?
臣下の恋人??
私の頭は真っ白。
何も思い浮かばない。
厚い曇、深い霧がかかったかのように。
何にも……。
「ストルーエンセ殿が陛下を愛している。
この気持ちを抑えきれないって。
陛下に告白したらむげにされ。
軽蔑の眼で見られて。
私に死にたいとまで。
私の前で短剣を喉に突き立てて!」
「……そ…」
それは演技よ。
きっと……。
そのまま言葉にせずにぐっと飲み込んだ。
あぁ〜言えない。
マチルダには絶対に。
「マチルダ。
ねっ!
落ち着いて、2人でゆっくり話しましょうね」
「私…わた…ストルーエンセ殿を愛しているのです。
彼の幸せなら何でも叶えてあげたい。
陛下!
陛下は国王陛下と不仲でいらっしゃいますよね。
ストルーエンセ殿はお2人の仲介をして差し上げたいって。
陛下にも宮廷で重んじられますわ。
陛下!」
あ〜あっ……。
興奮して手がつけられないわ。
どうしたらいいの~~~~~!!
邪魔され恋人を失ったアベイルをようやく落ち着かせた矢先突然のマチルダのお願いに。
キャロラインマチルダ王妃はどうするのか?




