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国王の宮廷医師 小さな改革の前進Ⅲ

突然前世の恋人だと名乗る宮廷医に王妃は激しく動揺する。


「…?フィ…リ…プ……?」


脳内に電流が流れる感覚に襲われ、身体は石の様に膠着して動かない。


忘れるはずがない。

忘れられるはずはないその名。

フィリップの名を………貴方を………。

私の前世の恋人の名。


彼はまだ幼い頃父の幼い侍従として城に滞在していた。

父には侍従の少年達に気安く接してはいけないと言われていたけれど、あまりの美しい少年に好奇心が勝ったの。

私から誰もいない隙を見計らって話しかけて以来、私達は度々秘密に会っては遊んだ。


大人にいけないといわれれば余計会いたくなるの。

私達は早朝の庭で、黄昏時の丘で、月光の明かりの中ので秘密のおしゃべりしたものだった。

約束した前日は胸がドキドキしてなかなか眠れなかったわ。


そんな楽しいほろ苦い日常が続くものだと思っていた。

でも別れは突然やってきた。

彼は別れを言い出せず、私は別れの挨拶も出来ず、誰にも彼が去った事も聞けなかった。

寝台で大泣きしたわ。

それっきり彼とは二度と会う事はなかった。

ほろ苦い少女時代の今思えば初恋だった。


その彼に再会したのは不幸にも、嫌いな従兄妹と結婚させられ、長女の誕生記念の祝賀に彼が現れたの。


胸の中で何かが蠢いたわ。

甘美で危険な甘いドキドキした胸の高鳴りと感情を押し殺してホスト役を務めた。


彼にとって幼い頃の私との思い出を今も忘れずにいるか?

そんなのわからなかったから、その日は彼を見ても知らないふりをしていた。


実は彼、義父の公娼であったプラーテン伯爵夫人の秘密の恋人になっていたそうよ。

彼女から義父を通じ、プファルツ公爵家の職業軍人の職にありつけた。

だからハノーファー宮廷にはよく出入りしていたの。


人がいない時を見計らって彼は私に近づいてきた。

始めは公子妃として一線を越える事はなかった。

懐かしい思い出話をしたわ。

けれど時が経ち私の置かれた立場が不幸なものを知って、同情し優しく接してくれた。

私は嬉しくて人妻で公子妃である事を忘れたいと思うあまり、徐々に愚痴って慰めてもらっていた。

当然距離は近くなって私達は秘密の恋人関係になったわ。

当時も今も夫の浮気や愛人、妾は容認されていた正式な愛人の地位さえ許されていた。

だけど妻の不倫はご法度。

非難され場合によっては離婚や幽閉すらあった。

だけど私達は止まるすべを知らなかった。

狂おしいほどお互いを求め合い、彼なしでは生きていけないほど激しい熱に冒されていた。

あの日々を思うと身体が炎で焼き尽くされるのではと思うくらいの熱におかされる。




「……ゾフ…ゾフィー」

ストルーエンセの声であの日々からふっと我に帰り今を感じる。


「…何を……おっしゃって………検討もつきませんわ」


「ゾフィー!

 君も感じているはずだ。

 私を!!」


「…………。

 私はカロリーネ・マティルデ・ア・ストアブリタニエンです。

 イギリスのジョージ3世の妹にして、この国の王妃です」


「ゾフィー!!

 会いたかった。

 私の全て!

 どうか認めてほしい。

 あの日々を。

 私は貴女を愛し貴女の私を愛してくれた。

 そしてザクセンに逃避行をしようとしたんだ。

 でなければ……。あんな事は企てない。

 愛している。

 今も以前も貴女だけを!!」


「いいえ。私はキャロライン・マチルダ……。」


「待ってくれ!!」


私は完全に取り乱して、結い上げた髪が乱れるほど激しく首を振る。

彼を拒否したものの心は大きく揺さぶられ、この場を去るという選択肢しか思いつかなかった。

これ以上ここにいてはいけない。

瞬間的にスカートを翻して私室の寝室へと闇の中から去った。


それしか思いつかない。

その時の私には………。



残されたのは強い風の吹く庭園にストルーエンセだけだった。

右手をぎゅっと強く握りしめて鋭い瞳を王妃の背に向けながらも誓った。


絶対に逃さない。

私の貴女。

私の永遠の恋人。

ゾフィー・ドロテア君は僕の全て。

キャロライン・マチルダであったも。

僕の全てだ。





あまりの告白にその場を去った王妃。

これからどうなるのか?

次回は、2週間後金曜日更新予定です!

ご愛読ありがとうございます。引き続き宜しくお願い申し上げます。

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