#36〔オムニ〕
中に足を踏み入れ、俺たちは再び驚愕する。
煌びやかに光る数々の装飾、大きすぎるにも関わらずそれを感じさせないシャンデリア。黒を基調とした西洋風の内装は、俺たちの目を奪うのに十二分だった。
「400年前に放棄させたのではないのか?」
「そ、のはすだ。」
全く廃れていないそれは時の流れを一切感じさせない。それこそ、昨日完成したと言われれば信じてしまうほどに。
「あれは?」
リールが明後日の方向を向いて言う。それに釣られるように、俺とドゴゴルもそちらを向く。
そこにいたのは小さな何かだ。モニョモニョと動いている。
「幼虫?」
側まで近づいてドゴゴルが言った。凡そ5〜10センチほどの白い幼虫のような生き物だった。
『お前らは誰なんだ?』
高い声が脳内に響いた。小学生のような声だ。
「少しここの王に用事があってな。」
『なんて言ったんだ?念話で言ってくれなきゃわかんねぇぞ。』
『悪いな。俺たちはここの王に用事があって来たんだ。』
『王? ………あぁ、聖騎士様のことだな。今は眠っておられるぞ。』
『それは聞いている。』
『ふーん、まぁ好きにしなよ。僕には止める権利も力もないからな。』
『君たちはなんていうか種族なんだ?』
純粋な疑問を口にする。
『僕はオムニって種族だぞ。そんなのも知らないのか。』
「知ってたか?」
ドゴゴルとリールに聞いてみる。
「んや、聞いたことがないな。」
「俺もだ。」
『どんな種族なんだ?』
どうやら誰も知らないようなので問うてみる。
『………… 僕たちは何の力も持たない。一応魔物として認識されてるけど、戦闘スキルが1つもない。できることといえば、こうやってゴミを食べて寝るだけ。そんな惨めな種族さ。』
『なるほど。』
取り敢えずそう返すが……
「おいどうすんだ、重めの話になっちまったぞ。」
「知るかってんだよ。」
「知らないね。」
クソっ!この薄情者め!!
ただ——
『ゴミを食うって結構役に立つんじゃないのか?』
城の内装が綺麗なのは恐らくオムニ達のお陰だろう。この状態を維持して来たという事実だけで、この種族が何の役にも立ってないだなんてことはない。
『? なんでだ。こんな能力は無い方がやっぱ良いほどだろ?』
『こんなに綺麗な状態にしてくれてるのはお前らなんだろう?素晴らしいじゃないか。』
『ぬ? 綺麗?この状態が?1つもゴミがないのに?』
ん?なんか噛み合ってなくない?ないよね!?
『…… ゴミがないからだろう?』
『『は?』』
『何を言っている。ゴミがあるのが綺麗なのだろう?』
『いやいや、ゴミは無い方がいいから。』
『こんな殺風景な状態が綺麗とは……同じ虫として感性を疑うぞ。』
『いやいやいやそれはこっちのセリフだ!』
こればっかりは譲れない。人間たちから「虫はゴミがある方が好き」なんて捉えられたらたまったものではない。
いや、虫ならむしろそっちが正しいのか?ゴミにハエ集るし。あれ?俺がおかしいの?
あっ、そうだ。俺は現実では人間なんだった。
ちょっとばかし危ない展開だなこれ。
『ゴホン、この議論はまた後ほどな。』
『うむ。』
『じゃあ俺たちは用事があるので王の元へ向かう。じゃあな。』
『ならば……ならば僕も連れてけ。』
背後から声が聞こえた。
『あ、案内ならばできるし、戦うのは無理なのだが、その、あの、色々と役に立つから!絶対役に立——』
必死の訴えを遮ったのはドゴゴルの手だ。
『そこまで言う必要はない。よろしく頼む。』
表情があるならばきっと満面の笑みを浮かべているだろう。いや、もしかしたら表情はあるけど俺が読み取れていないだけなのか?
コックローチに続きオムニの表情も読み取れるようになろうと決意する。蠍は……後回しだ。リールしかいないからな。
ブーンとオムニの元へ飛び、背に乗せた。
『名前はなんて言うんだ?』
『僕の名前はフィル!よろしくな!』
『俺はカジ、このでかいのがドゴゴル、左の蠍がリールだ。こっちこそ、よろしくな。』
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またしても仲間が増えた。俺は微かに重くなった右肩を一瞥してから足を踏み出した。
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