わたしは、プラチナカードを手に入れる。
「こちらが、カードの更新コーナーになります」
フェリシアさんに連れられていった部屋は、わたしたちの町のそれとよく似ていた。
ちがうのは、広い部屋に、魔水晶石を使った更新用の機械が、ずらっと何台も並んでいるところで、大勢の冒険者たちが、その機械におのおの自分のカードを差し込んでいる。
「おっ、お前がんばったなあ」
「うーん、ランクアップには、少し足りなかったかあ…」
などという会話も聞こえてくる。
「うーん、これはまるで、えーてぃーえむ? せるふれじ?」
ユウが、例によって、わけのわからないことをいう。
「さ、やりますか? 使い方はおわかりですか?」
「向こうとおなじですよね?」
フェリシアさんにうながされて、ジーナが自分のカードを機械に差し込む。
右手の指先を、魔水晶石に当てる。
すると、
ウィーン…
静かな音がして、魔水晶石が光り、空間にパネルが出現、情報の文字が流れる。
「まあ!」
フェリシアさんが、目を丸くして驚く。
「ジーナさん、あなた、お若いのにすごいわ。
えっ? なに、この数? えっ? この魔物って…。
いったい、どんなクエストをこなしたの?」
「えへへ、まあ、いろいろと…」
やがて、機械が止まり、静かにカードが吐き出される。
「あっ、カードの色が」
そう、出てきたカードは、入れたときとは違い、いかにも高級そうな銀色に輝いていた。
「げっ、プラチナカード」
後ろからその様子をみた冒険者が、目を丸くしている。
「ジーナさん、おめでとう、ランクアップで、カードも階級があがりました。すごいです、プラチナです」
「やったあ!」
「ん、ジーナさん? その名前きいたことがあるような…」
フェリシアさんはつぶやきながら、
「では、あなたも」
わたしをうながす。
「はい」
わたしも、自分のカードをさしこみ、指を魔水晶石にあてて
ウィーン…
「ライラさんね。うわっ、あなたもすごいわね!
魔力が尋常でないことになってるし、えっ? ちょっとこれは…
こんなの、わたくし、みたこともないんですが」
「すみません…まあ、いろいろと事情がありまして」
「いや、あやまることではなくて…」
そして、吐き出されてきたのは、わたしもジーナとおなじ、プラチナのカード。
「あっ、ライラ、あんたのもあたしと同じだよ。やったねえ!」
「うーん、目の前で二人もプラチナカードが出るなんて…」
フェリシアさんがうなり、
「またか、またプラチナ…?!」
後ろではさっきの冒険者が腰をぬかしそうに驚いている。
「プラチナカードはすごいんですね?」
ユウがフェリシアさんに聞く。
「それはもちろん! この上のカードと言ったら、もう、ミスリルとオリハルコンしかないですから」
「あ、でも、あたし、レジェンドのカード見たことあるよ」
ジーナがポロリと言う。
「レ、レジェンド?!」
フェリシアさんが興奮して
「レジェンドのカードなんて、わたしだってみたことないですよ。いま、世界で何人の人がもってるか、十本の指で数えられるくらいの特別なカードですよ! いったい、どなたですか、そのカードの持ち主?!」
ジーナにつめよる。
「あ、その…つまり、師匠の」
そこで、フェリシアさんがはっと気がつき、ユウに
「あなた、ひょっとして、ユウさんですか?」
「ええ、そうですが…?」
「ライラさん、ジーナさん、ユウさんの三人組で…アリシアのことを知っていて…ということは、つまり、あなたたちは!」
フェリシアさんが声を張り上げる。
「『雷の女帝のしもべ』のみなさんですね?!」
「あ…そんな、大きな声ださないで。ぼくたち、なるべく目立ちたくないんで…」
しかしフェリシアさんの興奮はおさまらず
「そうですかー、そうなんですねー、ということは、レジェンドカードの持ち主は、『麗しの雷の女帝』ルシア様ですね! なるほど、なるほど。それはそうなりますよね、納得しました。ライラさん、あなたの魔力も、女帝の後継者なら当然です!」
いつのまに、女帝の後継者というのが公式見解になってしまっているのか…。
それに、カード更新の部屋にいる冒険者たちの間に「雷の女帝のしもべ」「女帝の後継者」というささやきが、さあっと広がっていったのもなんとかしてほしい。
「そうでしたかー、『雷の女帝のしもべ』のみなさんでしたかー。それなら、ちょっとお願いがあるので、今から別室にきていただけますか?」
フェリシアさんが言う。
「うーん、あまり良い予感はしないけど、いやとはいえそうにない雰囲気ですよね…」
「あっ、そうだ、その前に、ユウさん、あなたもカードの更新を」
「いやっ、それは…みなさんに迷惑をかけるといけないので…」
「だいじょうぶ、アリシアから聞いていますが、ここの機械は、あちらより、もっと高価で性能がいいものですから、安心して更新して下さい!」
「えっ、もっと高価? うーん、それは余計に心配だなあ」
「まかせてください、ぜひ、ぜひどうぞ」
妹どうよう、ぐいぐいせまるフェリシアさんに押し切られて、ユウも更新をすることになった。
「フェリシアさん、なにかあったらごめんなさい」
「なにをいってるんですか、大丈夫です、…たぶん」
ユウはカードをさしこみ、そして、おそるおそる指を魔水晶石に乗せて
ウィーン…
機械が静かにうなりだす。
「ん? 今回はいけそうか?」
しかし、
ぶわん!
「うわっ、きた!」
ブワンブワンブワンブワン!!
機械が激しく振動をはじめ、色とりどりの文字がめまぐるしく空間にながれ、文字は部屋全体にあふれだし、振動は他の更新機械にも波及し、
「うわあっ!」
「なにこれ?」
「おかしい、機械がこわれた!」
更新の間の、あちこちから叫びが上がり、
とうとう、
バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ!
「あーっ、魔水晶石が消えたっ!」
「ど、どうして?!」
まきぞえになり、部屋にあった、すべての機械の魔水晶石が消滅。
ゲフッ
ユウの目の前の機械は、カードをやっとのことで吐き出すと、崩れて砂になってしまった。
「はははは…なるほど、こうなるんですね」
フェリシアさんが力なく笑った。
「ああ、やっちゃった…でも」
ユウは、自分のカードを拾いあげた。
それは、材質も何もわからない、だれもみたことのない真っ白いカードで。
「このカードはなんと呼ぶべきなんでしょうね」
「それは…」
フェリシアさんがいった。
「等級ーー『アンバランサー』…。そういうしかないでしょうね…」
(ちなみに、ユウのアンバランサーカードは、なんと、これ以降、どこのギルドの更新機械でも、機械をこわさずに使えるようになりました。さすが、王都の最新の更新機械、自分を犠牲にしても、りっぱに任務を果たしたようです)
「やってくれましたねぇ…」
ギルドの、豪勢な調度品に囲まれた応接室。
目の前には、ギルド長とフェリシアさん。
ギルド長は、笑顔であるが、その笑いは心なしか引きつっている。
「さすがは、アンバランサー…」
「すみません…」
ユウがあやまる。
「いえ、かまいませんよ、これくらい。まあ、たかだか、ギルドの最高級の更新機械が十二台、いかれてしまっただけのことですから。そのうちの一台にいたっては、砂になってしまいましたなあ…あれはもう直しようがありませんね(ニコリ)さて、それはそれとして」
恰幅の良いギルド長は、にこやかに言うが、「それはそれとして」という言葉には「こんなことになったわけですからねえ、いやとは言わせませんよ」というメッセージが明らかにこめられていて
「ひとつ、お願いをきいてもらえませんか」
「どんなことでしょうか?」
「今日、ここでは、パーティの実力審査が行われていましてね」
「ああ、それで、あの喚声が」
とジーナ。
「そうです、奥に闘技場があるのですが、そこで実施しています」
「うーん…なんとなく嫌な予感が」
「どうでしょう、あなたがた『雷の女帝のしもべ』の皆さんに、審査官を務めていただくというのは?」
「「ええーっ、あたしたちが審査官?!」」
わたしとジーナはびっくりして声をあげた。
それはいくらなんでも、わたしたちみたいなかけだしが…。
実力不足では?
そういうと、
「なにをおっしゃいます、プラチナカードをお持ちの方が。ご活躍ぶりは、うかがっておりますよ。なんの問題もありません」
「あのー、ところで、審査官て、なにするんですか?」
ジーナが聞いた。
「じっと椅子かなんかに座って、受験者が技を出すのをみて、旗をさっとあげて…」
(それは審判だよジーナ…)
わたしは心の中で思った。
「いやいや、そんなことは。第一、それでは、みなさんも退屈でしょう」
「へっ?」
わたしは思わず
「ということは、ひょっとして…」
「そうです」
ギルド長は微笑んだ。
「ここは冒険者ギルドですからね、受験者に甘くてはなりません。もちろん、みなさんには、実戦形式で、受験者とお手合わせしていただきたい。上級者の実力を見せつけてやるわけです」
「えーっ?!」
「うわあ、試合できるの? なんか面白そう! いいじゃん」
「ちょっとジーナ、あんた何を言ってるのよ!」
「ええー? 椅子にすわってながめてるより、よっぽど面白いよ/そうだ、こいつは、腕がなるのう」
「イリニスティスまで出てきちゃって…だめだ、こりゃ…」
「怪我人がでたら?」
ユウが冷静にきく。
「怪我人?」
ギルド長の目が、ぎょろりと光り
「実力審査を受けようという冒険者は、それくらい覚悟の上ですよ。そもそも、その覚悟がないようなものは、冒険者になるべきではない」
すぐに、顔をほころばせ
「ま、死なないていどにやってくだされば。回復魔術師もいますし。もっとも、あなたたちくらいの実力があれば、手加減も思いのままでしょうが…うわっはっは」
ギルド長、機械を壊したこと、やっぱり怒ってるんじゃないのかなあ…。
もはや断ることもできず、とうとうわたしたちは、王都冒険者ギルドで、精鋭の冒険者たちと手合わせをすることになってしまったのでした…。
いつも読んで下さってありがとうございます。まあ、こうなりますよね。「星の船」はいつ出てくるんだ、というご不満はごもっともですが、しばらくは、気楽におつきあいください。
面白いぞ、次が読みたいぞ、そう思われたら、応援お願いしますね!
イリニスティス:うはは、血祭りだ!
ジーナ:血祭りはダメ!




