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アンバランサー・ユウと世界の均衡  〜唯一無二の属性<アンバランサー>を持つ少年が世界を救う!  作者: かつエッグ
第一編 「エルフの禁呪」

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その人は、アンバランサーの選択について語る

 禁呪をめぐるすべてのことが、それなりの結末をみて、ようやく、わたしたちは、わたしたちの家(ドムス・アクアリス)に帰ることができそうだ。

 弾丸列車に乗って。

 ルシア先生の転移魔法?

 使いませんでした。

 なぜなら、ルシア先生が「わたしも、その列車、いちどは乗ってみたいわ、ね、ユウ」と、ユウに頼んだから。

 それで、けっきょく、わたしたちはどうしたかというと、帰還したエルフ族と交代するように弾丸列車に乗って、まずシンドゥーの国に行き(「シンドゥーも、行ってみたいわね」とルシア先生。ルシア先生わがままである)、そこでガネーシャ様・ヴリトラ様と会見した後、エルランディア・ステーションまで戻ることになったのだ。

 ちなみに、弾丸列車は、今後ユウの力を借りて整備を進め、この世界の主要な都を、以前のように結ぶことになるようだ。


 シンドゥーでは、ダミニさんをはじめ、会う人みんながルシア先生に声をかけるので、ルシア先生はたいへん恥ずかしがっていて、ほほえましかった。

 わたしたちは、神殿に行き、ガネーシャ様の結界に招かれた。

 今回は、テーブルには、椅子が六つ。

 つまり、


「娘よ、なにか、久しぶりという気がしないな」


 当然のように、蛇身のヴリトラ様が椅子に巻き付いていた。


「当たり前です、ヴリトラ様、向こうでも四六時中、わたしに張り付いてたじゃないですか」

「そういう物言いが好きなのだ。どうだい、麗しき雷の女帝よ、この娘をわたしのところに、預けてみないか」


 ルシア先生は、小首をかしげて、すこし考えて


「そうですね…もう少し、修行をつんだら、そのあとはそういうのもありかな?」

「えっ? ルシア先生! それはないです、それは!

 わたしは先生の、それは、不肖の、かもしれないけど、弟子なんですよ!」

「先生、本気ですか? それはないよ、いくら神様のお誘いでも、ライラと別れるなんて!」


 といって、ジーナが涙ぐむ。

 ジーナ。あんたやっぱりいいやつだね…

 ルシア先生は、微笑んで、


「わたしから学ぶことがなくなったら、そういう道もありかなってことよ、ライラ」

「それなら、大丈夫です! 先生から学ぶことなんて、何十年かかっても、絶対になくなりませんから! わたし、自信があります!」

「それはそれで、どうなのかなあ…」


(しかし、世界とは不思議なもので、この先、ずっとずっと先の未来で、わたしは『紅の蛇と蜘蛛の魔導士』として、勇名を馳せることなるのだが、それはまた別の話)


「さて、ヴリトラの戯れはそのくらいにして…」


 とガネーシャ様。


「べつに、戯れではないがな」

「それくらいにして、だ。お前が口をはさむと、まったく話が進まないではないか」


 ガネーシャ様はいうが、別に怒っているようすはなく、やはりこの二人の神さまは仲がいいのだ、きっと。

 ガネーシャ様はユウに


「アンバランサー、あらためて、礼を言おう。禁呪の件、あれは本当にこの世界の危機だった。君はこの世界を救った。世界の神々を代表して、感謝する」

「だれもお前を代表には任命してないけどな」


 とヴリトラ様が軽口をたたく。

 ガネーシャ様は相手にせず


「そして、アンバランサー、お主が、ここにこうしているということは、選択をすませた、ということだな?」

「そうそう、その話!」


 ジーナが叫ぶ。


「教えてください、ユウさん、あの話の続きを」

「そうです、ユウさん、今なら話せるんですよね?」


 わたしも、ヴリトラ様がいった「命にかかわらないでもない」という言葉がずっと、重く心にひっかかっていたのだ。


「そうだね…」


 ユウが、静かに言った。


「この地にとどまると、アンバランサーに何が起こるかということだけど…」


 わたしたちは、かたずをのんで、ユウの言葉を待った。


「まず、アンバランサーには、自ら選ぶことのできる、いくつかの選択がある。

 ひとつは、使命をおえたら、元の世界にもどること。

 それから、新たな別の世界に、またアンバランサーとして赴くこと。

 最後が、そのまま、召命された世界にとどまることだ」


「やっぱり、もとの世界にも戻れるんだ…」


 と、ジーナ。


「戻れるんだそうだ。ぼくをこの世界に召命した存在、『司るもの』はそういった。しかしその場合、もともとの自分にはもどれず、まったく別の人間として生まれかわることになる」

「そこまでしてでも、自分の世界(こきょう)を望む人もいるのね…」


 ルシア先生がつぶやく。


「あの世界樹の頂上で死にかけたとき、『司るもの』はぼくに、どれを選ぶか、聞いてきたよ。禁呪を祓ったことで、ぼくには、選択の権利が生じたと」

「それで」

「それで、ユウさんは」

 わたしとジーナがせかした。


「わたしの選択は、最初から決まっている…あのとき、あなたはそうおっしゃったわね」


 ルシア先生がいった。


「そうです、ルシアさん。あのとき、ぼくは、『司るもの』に問いかけられていた。なにを選ぶかと。

 そして、それがぼくの答えだった。つまり…」


 ルシア先生が、確信を持った声で言った。


「ユウ、あなたは、この世界を…わたしたちの世界を選んでくださったのね」


 ユウはうなずいた。


「ぼくは、この世界にとどまることを選びました。ルシアさん、あなたがいるから。それに、ライラや、ジーナや、みんながいるから…」


 ルシア先生の目から、みるみる涙があふれた。


「わたしもいるけどな」


 と茶々を入れるヴリトラ様。こんな場面でも、まったくその姿勢はぶれないからすごい。さすが神様だ。


「この世界で生きて、死んでいったアンバランサーは、ぼくの前にもいるようだしね」

「でも、ユウさんがこの世界を選んでくれたのはとてもうれしいんだけど、でもそのことで、ユウさんの身になにか、良くないことがおこるのでは?」


 わたしは聞いた。


「それについては、わたしが話そう」


 とガネーシャ様が言った。


「アンバランサーは本来、この世界にとっては異物だ。

 この世界の外から来て、この世界とは無関係であるがゆえに、そのからだは不可侵であり、この世界ではありえない超絶の力を発揮することができる。わかるな?」


 わたしたちはうなずく。


「だが、これはすべてのアンバランサーについて起こることなのだが、その世界で、彼が奮闘すればするほど、彼という存在は、その世界と結ばれていくのだ。アンバランサーと世界とのあいだに、関係ができ、わかちがたい因果やつながりが生じていく。その結果として…」

「その結果として?」

「アンバランサーと世界が接近し、お互いが異物でなくなる」


「さっぱり、わからないなあ」


 ジーナが言う。


「わかりやすく言うと、アンバランサーはアンバランサーでなくなるということだ」

「えっ! ユウさんがユウさんでなくなるということ?」

「そうではない。ユウはユウのままだ」

「?」


「つまりね」


 と、ユウが続けた。


「ぼくの持っている、アンバランサーとしての能力が、世界に同化することで、消えてしまうということ。将来のどこかで、ぼくは、アンバランサーとして持っていた力をすべて失うだろう」

「そうしたら、死んじゃうの?」


 ジーナが不安そうに聞いた。


「いや、死にはしない。今みたいな力が使えなくなり、斬られたり毒をうけたりしたら傷つき、年を取り、ああそうか、ずっと歳をとったら、そこで人間としての寿命がくるかな」


(そうか、命にかかわるとは、そういう意味だったのか…)


 わたしは納得した。

 でも、ヴリトラ様の、もってまわった言い方が悪いよ。


「すまんな、あれが、あの時点で可能なぎりぎりの言い方だったのだ」


 とヴリトラ様が、頭の中で言った。


「なーんだ、そんなことかあ」


 とジーナが言った。


「娘よ、これを、そんなことかと言うかね」


 ガネーシャ様が問い返した。


「だって、そんなの普通じゃん。みんなそうでしょう。だれだって、傷つくし、病気にもなるし、歳とったら死ぬし、できないことだっていっぱいあるし…」


「うん、たしかにそれはそうだねえ」


 とユウ。


「ああ、良かった。あたし、ユウさんがどうかなっちゃうかと思って心配したよ!」


 さっぱりした顔のジーナ。

 わたしは、そんなジーナに感動した。

 このシンプルさ。

 人にはそれぞれその人なりの価値観があり、大切なものがあり、ゆずれないこともあるのだろう。いちど手にした力がなくなることが耐え難いという、そういうアンバランサーだっているのだろうし。

 しかし、このジーナの割り切り方はどうだ。

 あんた、すごいよ。


「うん、すがすがしいね、この娘は」


 ヴリトラ様が言う。


「でも、あいかわらず、ぐだぐだ考える君も、わたしは好きだぞ」

「その、『ぐだぐだ』っていうのはやめてください! これは熟考というのです」


 わたしは言いかえした。


「まあ、力がなくなるといっても、今日明日という話でなく、長い時間のうちに、徐々に消えていくということだから、当面はなにもかわらないのだけれど」


 と、ユウは、いつものように、あっさりと言った。

 でも、その選択は、本当はすごく、すごく重いのではないだろうか?

 自分の故郷に、もどれる機会を手放し。

 すべての便利な力を失い。

 召命によって送りこまれた、自分にとって異邦のこの地で、力を失くすことも受け入れて、ずっと生きていくということは。


「ユウ…」


 と、目を潤ませたルシア先生が、ユウの手を取っていった。


「この世界を選んでくれてありがとう。わたしと、いっしょに生きていきましょう」


 そして、ルシア先生はユウにキスをした!


「おお!」


 ヴリトラ様が(私の頭の中で、こっそり)声を上げた。


「これは、とてもいい場面だ、また、世界のみんなに中継しなくていいだろうか?」


 わたしの頭の中にだけ響いたはずのその声を、なにかしら超常的な感覚で鋭くキャッチしたルシア先生が、横目でヴリトラ様をにらみ、


「やめてくださいよ!」


 厳しくたしなめたのだった。


いつも読んで下さって、ありがとうございます。あと、二回ほどで完結します。


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