3話
この部活は家庭科部。
家庭科部の花形といえばやはり料理だ。
なので少々苦手ながらも僕はこの体験部活オリエンテーションに向けて料理の腕を磨いてきた!
昔は砂糖と塩を間違えたり、塩鮭に塩を振ってとんでもない塩分にしたりした事もあったが、この三日間で鍛えた三日坊主……もとい短期特訓の成果を見せる時だ。
少々徹夜しすぎて寝坊して朝ご飯抜いて倒れたりしたが、しっかり腕は上がっているはずだ。
そして今日作るメニューは……
朝ご飯!
白米に漬物、焼き魚に味噌汁!
極めつけは玉子焼き!
これでときめかない日本人など居ない!
なんて独自理論でメニューを決定したのである。
ご飯と漬物に関してはあらかじめ準備してある、よそって出すだけなので問題は無い。
調理するのは焼き魚と味噌汁、それに玉子焼きだ。
ここは部長としてカッコイイ所を見せて、是非この部活に入部してもらわないと。
なんて心の中で気合を入れる。
焼き魚と味噌汁……はちょっとハードルが高いので先ずは玉子焼きから始めよう。
などと思いつつ僕は割烹着と三角巾をつけ調理の準備に入る。
「じゃあ、始めるよ」
「ぇと、鈴木くんはそこで見ててくれるかな」
ちょっぴり先輩風を吹かせながら僕は喋る。
「ぁ、はい」
クールな感じで僕を見つめる鈴木くん。
短期特訓をしたとはいえまじまじと見つめられると、少し緊張してしまう。
とは言えこれを見てもらうために朝早くから準備してきたのだ、頑張らなきゃ。
そう思い今一度気を引き締める僕。
「先ずは……卵を」
少々おぼつかない手つきながらもパックから卵を取り出す。
特訓をする前は力加減を間違えて卵をぶちまけたり、殻が盛大にボウルに入ったりなど料理初心者あるあるをしていたが、この三日間の短期特訓で培った成果を見せる時が来た!
一時期は片手で卵を華麗に割って部長の威厳を高めようなんて事をしようとしていたが、この三日間の特訓で僕には無理だと身に染みてわかった。
ここは丁寧に一つづつ両手で割り、堅実さをアピールしよう。
少々手が震えている気もしたが、僕はなんとかボウルに卵を三つ割り入れる事が出来た。
運良く殻も入らず、僕としては上々の出来だ。
「……」
そんな僕の勇姿を新入部員候補の鈴木は静かに見ている。
菜箸で卵をかき混ぜる。
チャッチャッ
チュッチャッ
ここはなんとなくカッコよく見せれるシーンなので、すました顔で僕は卵をかき混ぜる。
ぁ、勢い余ってこぼさないように気をつけなくちゃ。
次に玉子焼き用の四角いフライパンを取り出し、コンロに火をかけてフライパンを置いたら油を引く。
火力も調整し程よく温まった所で、
「……よし」
僕は意を決して溶いた卵をフライパンに流し込む。
ジュウ……ゥウゥゥ
いい音がして卵に火が通り始める。
菜箸で軽く混ぜる、料理本に書いてあったやり方だ。
「……さて」
本来ならばここで菜箸を使い上手に巻いていく所、なのだが……
短期特訓したとはいえ菜箸で巻くなんて芸当、そんな簡単に出来るものではなく僕には出来ない作業だった。
菜箸では無くフライ返しなどを使って簡単に巻く技などもあったが、それすら僕には荷が重い作業だった。
体験部活オリエンテーションという一大イベントなのにひっくり返すのを失敗して大惨事になるというリスクを避けるために僕は新技を習得したのだ。
その名も……ブルドーザー!
「……ここだ」
上手く巻けない僕が編み出したその技は、卵をフライ返しでフライパンの端に圧縮する技!
巻かずに端に寄せることで巻いたのと同じ?効果を得る事が出来る……はずである。
端に寄せた卵が固まり始め固形になってくれば、フライ返しでなんとかひっくり返す事が出来る。
そして再び卵を追加投入、そして固まり始めたらブルドーザー!
さらにひっくり返して……程よく焦げ目がついたら出来上がり!
ひっくり返す時にぶちまけたりもしていないし焦がしてもいない、少々不格好だが一応四角い形になっているので見た目も大丈夫だ。
なんて自分の中では結構イケてる出来栄えであると、ちょっぴりドヤ顔で新入部員候補である鈴木くんを見る。
「……」
が、なんだかクールというか冷ややかな目で見られている……気がする。
ま、まぁ大きな失敗もしていないし、だ、大丈夫。
ひとまず出来上がった玉子焼きをお皿に移して、次は焼き魚に取り掛かる事にしよう。
そう思い家庭科室に設置されている冷蔵庫に向かう。
朝ご飯の焼き魚と言えば焼き鮭、その鮭が冷蔵庫に入れてある。
その鮭を冷蔵庫から取り出す……が、
「丸々一匹!」
冷蔵庫に入っていたのは切り身ではなく小ぶりの鮭丸々一匹だった。
「……どうしたんですか?」
少々驚いて大きな声を出してしまったので、鈴木くんが心配してか声をかけてくれる。
が、ここはカッコイイ所を見せなくてはいけない部活体験。
部長としての威厳を保つためにもここは冷静にならないと。
「ぁ、いや」
「何でもないよ、大丈夫」
などど先輩風を吹かせようと頑張って返事する。
「……そうですか」
鈴木くんはそう言って素直に引き下がる。
「さて……」
とは言え強がってみたものの魚なんて捌いたこともないし、焼き魚なんて切り身とか開きとか捌かれた物しか見たことがない。
冷蔵庫から取り出した小ぶりの鮭をまな板に置きながら、どうしてこうなったか頑張って思い出す。
ぁ、そうだ!魚の準備はここに来ていない残り二人の部員に頼んであったのだった。
魚は準備しておいてくれるという言葉に僕は切り身か開きのイメージしか持っていなかった。
まさか、丸々一匹冷蔵庫に入っているなんて思ってもみなかった。
まじまじとまな板の上の鮭を見つめる。
そんな僕を新入部員候補の鈴木くんも見つめる。
「ここは、やるしか……」
新部長としての威厳もあるし、新入部員候補な鈴木くんにもカッコイイ所を見せなきゃいけないし……と僕は意を決してまな板の魚を捌きにかかる。
まな板の上にいる鮭をまずは観察すると、有難い事に内臓部分は処理されている。
これなら三枚におろすか、ぶつ切りにするか、言葉しか知らない切り方でもなんとかなるかもしれない。
なんて軽い気持ちで僕は包丁を持ち、鮭に刃を入れようとした。
その瞬間、包丁を持つ僕の手を誰かが握った。
「ぅえぇ!?」
急に誰かに手を握られて変な声を上げる僕。
その手は僕の背後から出ていて、僕の右手に覆いかぶさるように同じく右手が乗っていた。
勢い余って包丁を振り回さないようになのか、ギュッと強く握られた手を僕は見つめる。
なんだか人肌が温かい。
先程まで冷蔵庫やら生魚やらを触っていたからだろうか。
「そんな使い方だと……怪我しますよ」
急に僕の左の耳元に言葉が囁かれた。




