1話
「……空が青い」
仰向けに寝そべり空を仰ぐ。
朝の涼しげな風が優しく僕の頬を撫でてくれる。
爽やかな草木の香りが漂う高原の草原……なら気持ちいい朝なのだが、ここは違う。
ここは……
校門である。
僕はこの高校の二年生佐藤 現実。
この春に所属している部活の部長に選出されて、しっかりしなきゃ……と思ってます。
今日、勧誘目的の部活紹介と部活体験オリエンテーションがあるのでその準備の為に朝早く学校に来た……所までは良かったのだけれど。
何故か僕はこの校門で立てなくなって倒れているのである。
いや、理由はわかっているんだ。
張り切りすぎて朝ご飯を食べ忘れてしまい、お腹が空き過ぎてここで倒れているのだ。
朝早くてみんなが登校する様な時間ではない。
なので幸か不幸か、まだこの校門を誰も通らない。
なんにせよ新部長である僕のこんな痴態を誰かに見られる訳にはいかない。
僕は気合を入れて立ち上がろうとするも、力が入らない。
まぁ、手や口は普通に動くので重症といった訳ではないのは自分でもわかる。
もうちょっと寝そべってエネルギー回復すれば立ち上がれる……はずだ。
「……空が青い」
ちょっぴり現実逃避しながら体力を回復させようと頑張る僕。
すると……
「うぉっ!」
これは僕以外の声?と思った瞬間、寝そべった僕に躓いた様でバランスを崩した人が僕の上にのしかかる。
「うぁあっ!」
急に人にのしかかられて、僕も変な声をあげる。
「……」
閉じていた目をゆっくり開けると、黒髪で顔の整った……同じ制服?この高校の生徒であろう人の顔が目の前にある。
「……ぁ、おはよう」
とりあえず朝なので僕は寝そべったまま反射的に挨拶をする。
「おはよう、って」
「なぜここで寝てる……んです?」
僕のブレザー制服のネクタイを見て敬語に切り替えるその男子。
僕の通うこの高校では学年でネクタイの色が変わる。
と言うか、学年と一緒にスライドして行くと言った方が正しいのか。
とにかく二年である僕のネクタイの色は青。
僕の胸の上から立ち上がった男子のネクタイの色は赤、一年生である。
ちなみに三年は緑色である。
なんて考えていると、その男子は僕を見て呟く。
「怪我、か急病……ですか?人を呼んだ方がいい?」
そう僕に話しかけた男子は以外と身長があり、僕の身長165センチより高い感じで180位はありそうだ。
そんな事を考えていたら……
グゥ〜ゥゥゥゥゥッ!
盛大に僕のお腹の音が鳴る。
「……もしかして」
「お腹空いて動けない、とか?……」
ちょっぴり呆れた様な感じで話すその背の高い後輩男子。
「……ぁ、うん」
「そんな感じ」
新部長になったばかりなのにこんな痴態を見られてしまい軽くショックを受けながらも返事する僕。
なんとか立ち上がりこの場を走り去りたい、がまだエネルギーが足らない。
と、涙目になりそうな所を堪える僕。
「……」
そんな僕を静かに見つめるその男子。
そう思った矢先、僕の口に何か突っ込まれる。
「ふがっ!」
突然口を塞がれて変な声を上げる僕。
「ん?」
口元から香る香ばしい香り……海苔?
いや、海苔に巻かれたこれは……おにぎりだ!
「うまっ!」
程よい塩味と香ばしい海苔の香り。
口の中でほどける程度に絶妙な握り加減で作られたおにぎり。
モグモグ
パクパク
あっという間にそのおにぎりを平らげた僕。
適合食材なのかみるみる内にエネルギーが回復していくのがわかる。
「美味しい!」
「このおにぎり凄く美味しい!」
おにぎりを口に突っ込んでくれた背の高い後輩男子に向かって叫ぶ。
「そう、ならそんな所で寝てないで」
「さっさと立ち上がった方がいいのでは」
美味しいと言って貰った事に少し嬉しかったのか、先程より優しい口調で僕にそう言う。
「ぁ、そうだね」
体力の回復した僕はすぐさま立ち上がる。
元気になって立ち上がった僕をみたその背の高い後輩男子は、少し安心した顔ですぐに僕に向かって話かける。
「……じゃ」
そう言って立ち去ろうとする。
「ぁ、ちょっと待って!」
そんな後輩男子を僕は引き留め、自分のカバンをまさぐる。
ゴソゴソ
「こんなのしかないけれど」
「おにぎりのお礼」
そう言ってその後輩男子の手にカバンから取り出した物を手渡す。
「……これは」
「ツチノコ?」
それは自作のつちのこ縫いキーホルダー。
お礼が思いつかなく、咄嗟にカバンの中にあった自作の縫いキャラキーホルダーを手渡したのだ。
「うん、美味しかった」
「ありがとう!」
僕は精一杯美味しさとお礼をその背の高い後輩男子に伝える。
「……別に」
「……じゃ」
素っ気ない態度を取りつつもキーホルダーを受け取り、その場を去って行く背の高い後輩男子。
その男子が去り際に一言。
「ごはん粒、ついてる」
「ぁ、ぇ?」
僕はすぐさま口元のごはん粒を確認する。
「ぁ、ありがとう」
口元にあったごはん粒を取りながらお礼を言おうと再び顔を上げるが、そこにはもうその後輩は居なかった。
僕は指についたごはん粒を再び口に入れ、食べながら朝の風を感じていた。




