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第3話 連行 ~帝国海軍の鉄の檻へ~

兵士たちの荒々しい怒声が、夜の闇を切り裂いた。

「動くな! 一歩でも動いたら撃つぞ!」

「両手を頭の後ろに置け! 早くしろ!」

天野零はゆっくりと両手を上げ、頭の後ろに回した。冷たい汗が背中を伝い落ち、喉がからからに乾いていた。

(……これは現実だ。本当に捕まった……)

すぐ後ろにいる白峰凛の震える息遣いが、背中に感じられた。彼女の体温がわずかに伝わってくるのが、今の零にとって唯一の心の支えだった。

兵士たちは手慣れた動きで彼らを拘束し始めた。太い縄が手首に食い込み、痛みが走る。

その中で、1人の若い兵士だけが少し違う反応を見せた。

二十歳前後と思われる、細身で眼鏡をかけた兵士だった。名札には「杉山 康太」と書かれている。彼は他の兵士たちより少しだけ表情が柔らかく、零たちを縛る手つきも、必要以上に乱暴にしなかった。

杉山は特に小林悠が怯えて動けないのを見て、声を低くした。

「……怖がらせてすまない。できるだけ乱暴にしないようにするから、ゆっくり歩いてくれ」

その声は、他の兵士たちに比べて明らかに優しかった。悠は驚いたように顔を上げ、わずかに頷いた。

鈴木拓海が泣きそうな声で訴えると、杉山は小さくため息をつきながら、

「わかってる。突然こんな状況だもんな……でも今は大人しく従ってくれ。長官の前で余計なことをすると危ない」と小声で囁いた。

零はチラリとその兵士を見た。

(……この人だけ、少し違う……?)

高橋大輔はぐったりしながらも、杉山に肩を支えられる形でボートに乗せられた。佐藤宏樹はまだ放心状態で、渡辺翔と山田健太は黙って従っていた。

零たちは縄で一本の列に繋がれた状態で、小型ボートに押し込まれた。狭いボートの中で潮の匂いが強烈に漂い、波に揺れるたびに胃が浮くような感覚に襲われた。

ボートが動き出すと、冷たい夜風が強く吹きつけた。

凛が隣で小声で言った。

「……零。あの眼鏡の兵士さん、少し優しそうだったよね……」

「ああ……気づいた。他の兵士とは明らかに違う」

前方に、巨大な艦影が迫ってくる。月明かりに照らされた空母「赤城」の姿は圧倒的だった。

ボートが赤城に横付けされ、縄梯子を上らされる。甲板に上がった瞬間、数十人の兵士たちの視線が一斉に突き刺さってきた。

「なんだこの連中……」

「服装が奇妙すぎる」

「女もいるぞ……工作員か?」

そんな囁きが飛び交う中、杉山だけが零たちの近くを離れずに歩いていた。彼は時々、他の兵士たちに小声で「慌てるな」「女の子を怖がらせるな」と注意しているようだった。

零たちは甲板の中央に跪かされ、待たされた。膝が冷たい鉄板に当たり、縄がさらに食い込む。

やがて、南雲忠一中将を先頭とした将校の一団が近づいてきた。

南雲は彼らを厳しく見下ろし、低い声で言った。

「報告は受け取った。……お前たちは何者だ? 所属と目的を正直に述べろ。スパイと判断すれば容赦はせん」

零が必死に言葉を探していると、杉山が南雲の後ろでわずかに眉を寄せ、気の毒そうな表情を浮かべていた。

零は喉を動かし、掠れた声で答えた。

「俺たちは……敵ではありません。ただ、突然この海に現れて……自分たちでも状況が飲み込めていないんです……」

南雲の目がさらに鋭くなった。

「訳のわからない状況だと? ふざけたことを」

雰囲気が一気に険悪になる中、杉山が小さく口を挟んだ。

「長官……彼らは武装もしておらず、明らかに民間人のようです。まずは落ち着いて話を聞いた方が……」

南雲は一瞬杉山を睨んだが、何も言わずにため息をついた。

「連れて行け。艦内の拘禁室へ。女は別室に。詳しく調べる」

兵士たちが再び彼らを立たせ、艦内の暗い鉄の通路へと連行し始めた。

零は歩きながら、背後でついてくる杉山の気配を感じていた。

(……あの兵士、杉山とか言ったか。あの人だけは、少し味方になってくれるかもしれない……)

冷たく暗い鉄の廊下を進む中、オタク8人の運命は、帝国海軍の奥深くへと飲み込まれていった。

しかし、完全に敵意だけに囲まれているわけではない——そんなわずかな希望が、零の胸に生まれ始めていた。

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