第40話 希望への旅立ち
次回更新は10月24日(土)の予定です。
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重苦しい空気を振り払うべくエミルさんは、アタシの肩からそっと手を離し、ゆっくりと一歩前へ出て村長の前に立った。
「村長、彼らを導くのは私がやります。勇者は魔族に狙われ続けるなら、それに抗う力をエルフの郷で手に入れるべきです」
「うむ、よろしく頼むよ……と言うわけだ、ヘディンくん」
村長の呼びかけにヘディンは「はい、お願いします」と答え、エミルさんと固く手を握り合った。
結局、アタシの思いは何も叶わず、十人集まったこの部屋で独りだけでいるようだった。
「ヘディンさん、お願いがあります。村の修繕を終えるまで、出発は待って欲しいのです」
エミルさんはヘディンの手を握りながら、穏やかな口調で頼んでいた。
「えぇ、構いません。僕らもお手伝いさせてください。あと、十五歳を超えたばかりの僕に、敬称はつけなくていいですよ」
「手伝ってくださるのは大変ありがたいお話です。では私もこれからは旅の仲間となるのですから、敬称は互いになしということで……」
話がまとまり二人の頬は緩んだところで、村長はエルフの郷について話した。
「ヘディンくん、エミルさんは知っているが、我々が導いたとしても確実に隠れ郷に行けるわけではないことは理解しておいてくれ」
「どういうことだ?」
「俺たちが導けるのは、隠れ郷に入るための入り口にすぎないところなんだよ」
バリルさんの問いに、クローさんが答えるとモーリスが後を続けた。
「その入り口から先に行けるかは、あちらさん次第。運なのか何かは知らないけど……」
「そのせいか最後の案内は郷には辿り着けなかったみたいだよ……」
デッホは体を伸ばしながら言った。
「だから期待しすぎないでくれ……」
ダニールさんが最後に申し訳なさそうに呟いた。
皆で村の修繕と旅立ちの準備を話し合い、魔族には負けないと気合を入れていたが、アタシにはもう一度、頑張ろうという気はなかった。
必ず辿り着けるわけではない場所へ、アタシたちの祖先はどうしてその役目を負っているのか今は誰もわからない。
だけどアタシたちの村は女神の恩恵を一番受けていると、言った人がいるらしい。
(アタシにはもう……関係ない……)
どうしたって、生命系魔法は使えそうにないし、エミルさんから教わらないんじゃ頑張る気も起きない。
アタシはこの先どうしようかなんてボーッと考えていると、ナヴィがアタシの肩に手をやり気遣ってくれた。
「リッピ、大丈夫? なんか気が入ってないように見えるよ?」
「うん……確かに……」
ナヴィと目も合わせず無気力に返答した。
「ちょっと、ごめん! リッピと散歩に出てる」
突然ナヴィが部屋のみんなに言うと、アタシの手を取って強引に周りに人がいなさそうな場所まで連れ出した。
「ちょ、ちょっと、ナヴィ……どうしたの……」
「リッピこそ……全然らしくないよ。まぁ、当然だけど……あそこにいても辛いでしょ? 後は男どもに任せてればいいのよ」
アタシは「ははは……」と薄い笑い声で気持ちを誤魔化したが、すぐに本音が出てしまった。
「ナヴィが羨ましい……」
「エミルさんと旅に出ること?」
アタシはどう答えようかと思ったが、どうとも答えられるものでもなかったので、そのままナヴィに気持ちを投げることにした。
「旅もそうだけど、ナヴィはアタシなんかより可愛いし、生命系魔法で敵を圧倒できるし、カッコいいし、そ……それに、胸の大きさとか年下なのにアタシより大人っぽいし……何もかも羨ましい……エミルさんは多分、そんなナヴィのこと……」
アタシの目に涙が浮かび始め、我慢できなくなりそうになった。
「ちょーい、ちょい、ちょい、リッピ待って……エミルさんのタイプってわたしなの?」
ナヴィはアタシの両肩をゆっくりと何度か叩き、アタシの顔を覗き込むように聞いた。
「え……聞いたことないけど……でも、男の人なら絶対ナヴィを選ぶよね?」
「それって、リッピが勝手に思ってるだけじゃない……あと、わたしの意思は聞かないの?」
「いや……エミルさんみたいな人なら、全ての女性が好きになるでしょ?」
アタシの答えを聞いたナヴィは、大きくため息を吐いてから言った。
「あのね、リッピ……それはあなただけの世界の話よ。わたしはエミルさんみたいな堅物そうなのは、ハッキリ言って嫌よ」
アタシは目を丸くしてナヴィの顔をしばらく見つめた。
そして、思い出したかのように「えぇぇーっ!」と大きな声で叫んでいた。
「なんで? あんな綺麗な男の人、見たことないよ?」
アタシは理由が知りたくてナヴィに問い詰めた。
「綺麗だとは思うけど、それは……その……」
急にナヴィがまごまごした態度になった。
「こ……恋人はもういるから……」
顔を赤らめて体をもじもじとしていた。
アタシはナヴィの恋人が気になりさらに突っ込んだ。
「えっ……それって、まさか……バリルさん?」
「リッピ……今、本気であなたを張り倒しそうになったわよ……」
本当の答えをわかっていながら、あえて違う答えを言っていた。
アタシとナヴィは顔を見合わせて、一気に噴き出し大笑いした。
「アハハハッ……やっぱないか~」
「アハハハ~……酷すぎない? リッピが熊~ッって叫んでたやつとか……」
涙を流して二人で大笑いした後、アタシはナヴィに羨ましい理由のもう一つを打ち明けた。
「アタシね、エミルさんがいなくなってしまったら、もう村の外へ出ることができなくなりそうなの……」
ナヴィにアタシがエミルさんのいる教会の手伝いになった経緯と、村の外に出るための掟を教えた。
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「……ずっと生命系魔法の訓練もしてきたけど、結局、習得できないからアタシはもう村の外へはいけないんだよ……」
ナヴィに打ち明けると、スッキリした気持ちになって、アタシは「う~ん」と伸びをした。
ナヴィはアタシの手を取って、真剣な眼差しで語った。
「リッピ、生命系の魔力はわたしたちの基本になるのよ。わたしからしてみれば精霊系魔法を自在に使えるあなたの方が凄い。わたしはそっちは全くだからね。だからね、火柱魔法の指先程度の灯火でいいのなら、わたしが旅立ちの日までに教えてあげる……任せて!」
ナヴィは人差し指をピンと立てると「火柱魔法」と唱え、小さな火を起こした。
「この程度の火だけど大丈夫かしら?」
「確かに……信号玉を上げるためならいいと思うけど……戦闘には……」
「そりゃあ、向かないよね……でも、掟の条件には十分でしょ? 戦闘で使えるものじゃなくて、信号玉のためとしか聞いてないんでしょ?」
「アタシにできる……かな?」
「この程度……リッピなら楽勝よ!」
ナヴィの笑顔につられて、アタシもできる、という自信がじわじわと湧いてきた。
アタシが勝手にライバルだと思い込んでいたナヴィは、かけがえのない親友へと変わっていた。
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それから村の修繕は男たちに任せ、アタシはナヴィに火柱魔法を教えてもらった。
ナヴィの教え方が上手いこともあり、わずか二日で使えるようになった。
アタシが戦闘でも使えるほどの威力を捨て、限りなく効果を小さくすることで魔法の発動をしやすくした成果だった。
旅立ちを迎えるまでにアタシは他に使えそうな生命系魔法も教わり、少しは使えるようになっていた。
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旅立ちの日、村人全員で見送りをした。
「それでは、エミルさん、ヘディンくん、バリルさん、ナヴィアナさん、お気をつけて……」
「村長、リッピ、教会のこと、よろしく頼みます」
「それは、引き続きアタシが村の人に教えて管理しておくよ。エミルさんも体を大事にね」
「それでは、お世話になりました! どうかお元気で!」
皆がそれぞれ世話になったと礼を言い、互いの無事と励ましの言葉であふれかえっていた。
ヘディンたちは勇者として、きっと隠れ郷に辿り着けるとアタシは信じていた。
「ナヴィ! また一緒に夜の散歩しようね!」
遠ざかる前に、ナヴィに伝え忘れていた事を叫ぶと、ナヴィは「約束ね!」と大きく手を振り、笑顔でアタシたちの村を後にした。
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