7 リサの決断
クラウン様から出店のお誘いをされたのは正直、嬉しさと不安が入り混じっていた。
影からではなく、お祭りに参加できる。それは嬉しかった。
でも私が魔女と知ったら、街の皆さんはどう思うだろう……。それを考えると、すぐには返事が出来なかった。
「どうしよう……」
屋敷の裏庭で、薬の元になる草やハーブなど育てている。それらを手入れしながら、出店のことを考えていた。
水やりをしていると、葉の水滴が太陽の光に反射してキラキラしていた。
『怖がらずに、人と交流しなさい』
おばあちゃんの言葉が聞こえてくるようだ。
行商人さん達は「魔女の薬などは、とても重宝されている。出店で並べれば喜ばれるよ」と言ってくれた。
私が作った薬草は、行商人さん達にお願いしてお客様に売ってもらっている。直接、お客様がお買い求めになるのを見てみたい、と思っていた。
騎士団の隣の出店なら、変な人が寄って来ないだろう。しゃがんで、ハーブたちの世話をしながら考え込んでいた。
『でも、いつまでも|ここ《【占いの館 ネムノキ】》に引きこもってはいられない。そうだろう?』
クラウン様の言葉が、胸に刺さった。
このままではいけない。それは分かっている。
「……勇気を、出してみる?」
カモミールの花を、そっと指で触れた。
数日後、クラウン様が焼きたてのパンを持ってきてくれた。
「この間。パンの代金を払わないで、店を出て行こうとした男を捕まえたお礼と言って、パン屋のおじさんからもらった。たくさんあるので、食べきれない。もらってくれ」
「わ……。ありがとう、御座います……」
パンは自分でも焼くけれど、パン屋さんのパンは美味しい。
クラウン様は今日も見回りのついでに、【占いの館 ネムノキ】に寄ってくれたようだ。
以前、指輪を見つけたのと毒の治療のお礼と言っては、色々と良くしてくれる。
義理堅い人だ。
「あの……。いつも、気にかけて、くれて……。ありがとう御座います」
「えっ?」
私はクラウン様へお礼を言うと、驚いた声を出した。
「ご負担、でしたら。私のことは……「負担じゃない」」
「え……」
顔を上げると、クラウン様はちょっと怖い顔をしていた。
「来たいから、来ている。決して、負担ではない」
クラウン様は深く被ったフードから、指で長い前髪を横へ流した。
「あ、あの……?」
目と目が合った。
「リサさんは、俺が来るのは迷惑か?」
真剣な表情で聞かれた。――心臓が止まるかと思った。
「め、迷惑じゃ……ないです」
たぶん私は、酷い顔をしているだろう。
ドキドキして顔が真っ赤で、うまく笑えてない。
「それなら、良かった」
ホッとしたのが分かるくらいに肩の力を抜いて、クラウン様は笑顔になった。
その笑顔が素敵で……、見惚れていた。
「そうだ。出店の件、考えてくれたか?」
離れていったクラウン様の指を、目で追ってしまった。
「はっ、はい……。うまく……出来るか、心配ですが……。参加、したい……です」
良かった。参加する、と意志をちゃんと言えた。
「そうか! 良かった」
クラウン様は申込書を私に渡した。
「出店の説明と、注意事項をよく読んでサインしてくれ」
「は、い」
読んで確認してみたが、出店料はお酒一杯分くらいの低料金だった。
「街の人達で作るお祭りだから、皆で協力して毎年行われている。リサさんも協力してくれると嬉しい」
「……はい」
街の人達と仲良くなりたい。勇気を出さなければならない。
私は慎重に、申込書へサインをした。
「準備は明日から。迎えに来るよ」
「えっ?」
クラウン様は、私がサインすると直ぐに申込書をしまって「では、明日」と言って帰ってしまった。
それから入れ替わりに、行商人さん達が屋敷へ品物を持ってやってきた。
「リサちゃん。クラウン様がとても良い笑顔で帰っていったけれど、何かあったの?」
ノラおばさんは、ジャガイモとにんじんを運びながら私に聞いてきた。
「あ……。街のお祭りへ……。出店する……ことに、しました」
「まあ! それは良かったわ!」
ノラおばさんは喜んでくれた。他の行商人さん達も嬉しそうにしていた。
「ありが、とう……御座います」
私は軽く頭を下げた。
「そうか……。クラウン様が、リサさんを誘ってくれたか!」
ジョンおじさんは、微笑みながら皆と話していた。
「クラウン様なら、心配ないわね」
皆、ニコニコと微笑み嬉しそうだった。
私はこの優しい行商人さん達に、心配をかけていたのだと申し訳なく思った。
「がんばり、ます……」
緊張から小さな声になってしまった。
「無理しなくていいのよ。ほどほどにね?」
ノラおばさんは励ましてくれた。
「ああ! 今日はリサさんに、似合いそうな靴を仕入れて持ってきたぞ」
他のおじさんが新しい靴を、床に布を敷いて並べてくれた。
「わ、あ……」
色々装飾が飾り付けられた、可愛い靴ばかりだった。
ヒールは低くて、歩きやすそうな靴ばかりだった。
「気に入ったのがあったなら、試しに履いてみていいぜ」
おじさんのそう言ってくれたので、試し履きをさせてもらうことにした。
甲の部分に、小さなリボンが付いた赤い靴。
フリンジが付いた茶色い革靴。
黒い布地にキラキラしたものが付いた布の靴。
くるぶしまで長さのあるブーツ。
ふと足元を見て、普段履いている靴が破れているのに気が付いた。
きっと行商人さんのおじさんは、私の靴が破れそうなのを見て持ってきてくれたのだろう。
私はあたたかい気持ちになって、靴を選んだ。




