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正邪の交心  作者: 八木うさぎ
第3章 トライ・アングル
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景観の拡散

「あーあー・・・ったく、どこでミスっちまったんだ、俺の計画は?」



 頭を軽く掻きむしる天喰くんは黒ぶち眼鏡をはずして胸ポケットにしまった。そして鷺宮さんさながらに表裏のスイッチが入れ変わった、素の――――本当の自分を露にする。



 たまらず僕は一目散に逃げだした。けど天喰くんは鷺宮さんと違って即座に追いかけようとはしてこない。鋭い目付きで口を歪めて不気味に冷笑しているだけだ。



「クックック・・・仕方ねぇ、出て来い! メフィストフェレスっ!」



 そう天喰くんが叫ぶとそれに呼応して何処からともなく「ケケケケ」という、からくり人形に内蔵された歯車が醸しだす音のように単調で無機質な声が辺りを木霊した。

 再び湧きだした恐怖心を抱えたままそんな不気味な声を聞いてしまったせいで、僕はその場で立ち止まり、あたふたしながら四方八方に警戒心を注ぎ込んでしまう。



 しかし視線は五里霧中、何もとらえることができない。と、そこに二つの金属が擦れ合って生じるような冷たくて重々しい音が、なぜだか僕の喉元辺りから聞こえてきた。

 まさかと思い、体勢を微塵も動かすことなくそのままゆっくりと視点を下に移す。そこで――――驚嘆してしまう。



 僕の喉元に、三日月のように弧を描いた銀色の金属、つまり巨大な鎌の刃がいつの間にか用意されていたのだ。



 鎌の刃は霜降りが施されており、生い茂った木々が邪魔して外灯の光さえろくに届かないこの場所でもいくつもの小さな閃光を煌かせている。それが今はとても怖い。



 いとも容易く命を摘み取りそうな鎌の刃に気を取られていると、一瞬前に聞いたあの「ケケケケ」という声を左耳が間近にとらえた。喉元に向いていた視線を恐る恐る左へと移り変えてみると、魚のように丸い黄色の眼球が暗闇の中でぎょろぎょろと動き回り、最終的に僕の左目に焦点が合うとそのままねめつけていた。



「あ、わ・・・」



 動くことも許されない状況下でわなわなと震えるしかない僕を見て、その黄色い目を持つ何かはまたしてもケケケケと単調で無機質な声を上げて笑う。



 と、そこで突然僕の左手の甲から痛みを感じた。それは、牙を持つ何かの動物に噛みつかれたかのような刺激的な感触だった。



 確認しようと反射的に左手を顔の前にもってこようとして・・・そこで自覚する。僕の左手が、いや左手だけじゃなく体全体が、急に僕のいうことを聞かなくなっている事実に。

 唯一動くといったら眼球だけで、しかしそれもごく僅かだ。口が動かせないから情けない悲鳴すらももう発せられない。ほぼ完全に全身が麻痺してしまっている。

 そのせいでフォカロルのあの洗脳光線を浴びてからずっと手に持っていた僕の卵が手から抜け落ちてしまう。



「・・・動けねぇだろ?『金縛の毒牙(アスク・レピオス)』って言ってな、お前の体には今、メフィストフェレスの毒が回ってんだよ。クックック、これでもう逃げられねぇぜ?」



 ゆっくりと歩み寄ってくる天喰くんのその顔は狂喜で満ちていた。



 ・・・今になって、あの言葉が思いだされる。

 一昨日の金曜日の昼間、屋上の入り口の手前で駿河さんに言われた、あの言葉が。

 あのとき僕は、確かに忠告を受けていたはずなんだ。

 あの二人には関わらない方がいい、って。

 けれどそれを一笑に付してしまったがために今こうして窮地にたたされているわけだ。



 どうしてなのかはわからないけど、駿河さんにはわかってたんだ。

 鷺宮さんも、天喰くんも、実はドス黒い性格の持ち主だって。



「へへ。やったぜ・・・これで俺にはもう一匹の――――っ!」



 天喰くんが僕の卵を拾おうとしてしゃがみかけたその瞬間、僕から見て左から右へと横一直線に、僕と天喰くんの間に割って入るように紅の閃光――――高速での突進による残像が描かれた。天喰くんはとっさに(残像が発生した後だが)その場から跳ね除ける。



「キィーッキッキッ!」



 残像を辿った先には案の定、身を翻しまた僕にその不気味な正面をむけている、槍を構えたフォカロルがいた。「くっ、鷺宮の奴か! どこだ、どこにいやがるっ! メフィストフェレスっ! そいつから比護を守るんだっ!」



 守る、って・・・その言葉が誠意からきているなら良かったんだけど。本当に。

 っていうか、守ろうとするくらいなら最初から毒なんか盛らないでくれって!



 どうやらメフィストフェレスという名前らしい天喰くんの生物は、再び槍を構えて僕に目掛けて突進してきたフォカロルのその軌道上のある一点で、大鎌を振りかざして乱入してきた。



 互いの武器が衝突して甲高い悲鳴を上げる。そこでメフィストフェレスに外灯の一端が当たり、ようやくその全体像が掴めた。



 フォカロル同様、基本的に人の形を成してはいるけど身長はフォカロルの半分程しかなく、目測で百五十センチくらい。

 ヒールのついた黒いブーツは膝の少し下辺りまで伸び、尖ったつま先はカタツムリの殻のように渦を巻いている。太もも辺りに必要以上に無駄な遊びを生みだしている黒地のズボンには白い星やらハートマークやら様々なデザインが不規則に浮かび、上着にも同じ模様が見られる。

 上着は胴回りこそ遊びはなくタイトだけど両腕の裾部分が妙に生地が弛んでいるようになっている。そして両手首や首の周りには絹が雲の塊のようについていて、そこから飛びだした地肌は生気を感じさせないほどに白くて、白すぎて気持ち悪い。



 頭には黒いコンパクトなシルクハットを被り、つばの横からこじんまりとした白い耳が窺える。口元には鮮血色のハートマークをコミカルに描き、両目の周辺にはこれまたそれぞれ黒で曲線的な十字を描いていて、その中心点から除かせる黄色い眼球は真円を崩さぬまま大きく、じっと、ただじっと開かれている。

 動きはプログラムされた機械が行う作業に似たところがあって、どこか生々しくない。 



 ――――と、ここでフォカロルと対峙中のメフィストフェレスが口元のハートマークを上下に開いてケケケケと機械的に笑った。

 両目が前方一点を見つめたまま、口元だけを開いて。



 変化のない表情。読み取れない感情。それこそ生気のない機械仕掛けの人形のようで、気色の悪いフォカロルとはまた違った意味で不気味だ。

 背中には紫がかった黒色をしたコウモリの羽のような矮小な翼が二枚こじんまりと生えていて、同色の、先端がハートマークの紐のような長い尾も生えている。



 一言で言えば、それはサーカスなどで見られるピエロの格好をした悪魔のような印象を受けた。



 さっきまで確認できなかったが、その手に握り締めた『♪(八分音符)』のような形状をした鎌はライオンの首だろうと断ち切りそうなほどに大きい。柄の末端部分には蛇の頭部を髣髴とさせる装飾が施されていて、ともすれば鎌の歯の部分は蛇の尾に見えなくもない。



 フォカロルの槍の先端がメフィストフェレスの鎌の柄の一部分に受け止められ、しかし突進のエネルギーは緩和されなかったようで、二匹(って呼んでいいのかな?)は互いに対峙したまま地面を滑る。



 しばらくして二匹は止まった。だが互いの押し合いは尚も止まらない。



「キィキィ」と笑うフォカロルと、「ケケケケ」と嘲るメフィストフェレス。互いに薬物中毒者の如く不気味に笑い続けながらも、両者の押し合いは依然として均衡している。



「・・・ハァ、ハァ、・・・フォカロル! そんな奴早くやっちゃいなさいっ!」



 そこで、フォカロルの登場から一間遅れて鷺宮さんの息切れた声が乱入してきた。

 フォカロルは槍に渾身の力を込め、槍を下からアッパーのように思い切り振り上げてメフィストフェレスの鎌を頭上に跳ね上げた。



 メフィストフェレスはなんとか鎌を手放さずにはいたが両腕が上がったことで懐ががら空きになり、その隙を突いてかフォカロルは槍による攻撃の雨霰を繰りだす。

 それをメフィストフェレスはギリギリの所で防ぐ。が、たった一瞬のわずかな対応の遅れが連鎖してメフィストフェレスは後手に回り、そこからは攻撃に転じる余裕を失ったようで防戦一方だ。



 互いの武器の衝突音が絶え間なく鼓膜を擦る。何度かそんな攻防を繰り返している内にフォカロルの一突きがとうとうメフィストフェレスの喉元にお見舞いされた。「ギィェアアッ!」という断末魔が散る。



 鷺宮さんは邪悪に満ちた勝利の笑みを浮かべ、フォカロルは目の前にいる串刺し状態のメフィストフェレスをこれ見よがしに槍ごと持ち上げて手足の力も抜けて垂れ下がった無様な亡骸を眺めながらまたしても唇で弧を描いている。

 対する天喰くんは、メフィストフェレスの敗北に愕然としているのか俯いている。勝負はついたみたいだ。鷺宮さんの・・・勝ちだ。



 かと思われた、そのとき。



 息絶えたはずのメフィストフェレスがあろうことかぐったりとした頭を起こして「ケケケケ」と、まるでビックリ箱から飛びだした顔のようにフォカロルに顔を揺らしながら近づけ、またしても無表情のまま盛大に笑いだしたのだ。



 それに続いて俯き状態の天喰くんが顔を上げて、醜悪な笑顔で高らかに笑いだす。



 ふと気付けばメフィストフェレスの肉体がどうしてか風船の如く膨張しだしていた。あっという間にフォカロルをも上回るほどにまで膨らんで――――パン! と音を立てて破裂。すると本来なら飛び散るであろうはずのメフィストフェレスの肉体がシャボン玉のような小さい球体――――泡の群れとなって宙に漂っていたのだ。



 幻想的な泡の迷宮に言葉を失う鷺宮さん。泡の渦中にあるフォカロルも首を振る。



 そんな光景を若干遠くから見ていた僕の目が、鈍い輝きを放つ白銀の大鎌をとらえた。大鎌だけは泡に変化せずにいて、しかし泡と一緒に宙を漂っている。



 しばらくして鎌は使用者がいないのにもかかわらずひとりでに地面に対して垂直に立て掛けた時計の針のように回転しだした。それに連動して、耳を塞がずにはいられないほどのなんとも耳障りな音が鎌を中心として同心円状に広がりだす。



 っく、こ、この音は・・・そうだ、観覧車に乗っているときに、それにさっきフォカロルに殺されそうになった直前でどこからか聞こえてきた、あの音だ。 



「うっ、ああっ!」



 至近距離からの不快音に鷺宮さんはたまらず耳を塞いでその場にしゃがみ込んでしまい、フォカロルも柄になく顔を顰めている。類に漏れなくもちろん僕も耳にきているけど身動きが取れないので無防備のまま聞き続けるしかなく、この中でダメージは恐らく一番大きいに違いない。このままだと本当に鼓膜が破れそうだ。



 と、そこで苦痛によって細めていた目である光景を見た。



 不思議なことに、メフィストフェレスの主であるはずの天喰くんもこの音に対して両手で耳を塞ぎ顔を歪めているのだ。



「っく! 『銀鎌の独奏(ケリュ・ケイオン)』はもういい! さっさとやるんだ、メフィストフェレス!」



 その言葉を皮切りに漂っていた泡がフォカロルに付着しだし、纏わりつくように収束を始めた。同時に大鎌も不可思議な動きを止めてフォカロルの背後へと自ら移動しだす。



 徐々に密集・圧縮していく泡は次第に形をなしていって・・・全ての泡が集まり終えるとそれは色身を帯び、元通りメフィストフェレスへと構成された。



 フォカロルの腰に両足を巻きつけて、メフィストフェレスはまるで背負われているかのような状態になっている。その右手には呼び寄せられたように迫っていた大鎌が収まり、霜降りの刃がフォカロルの喉元に突きつけられていた。



「ハァ、ハァ・・・っ! こうなったら仕方ないわ。フォカロルっ!『禁断の果実(ファム・ファタール)』よ!」



 鷺宮さんはまだ耳にふたをした状態のまま、悲痛な声で叫んだ。すると苦い表情のフォカロルの右手の槍がそれになるのと同じ工程を経て再び鷲の生首へと姿を変える。

 フォカロルは喉元に鎌の刃を突きつけられた状態のまま鷲の生首を自身の背後――――つまりメフィストフェレスの顔へとおおざっぱに用意し、僕にしたように紅光をメフィストフェレスに浴びせかようとしてるようだ。そのまま徐々に煌いていく・・・。



 ヤバいと思った僕は咄嗟に反応して目を瞑り(すでに目を閉じ気味だったし)、なんとか光の凝視を避けることができたけど・・・あれじゃあメフィストフェレスはひとたまりもないんじゃないか? そう思ってゆっくりと視線をあげてみると、



 メフィストフェレスは何でもないようにピンピンしていて、「ケケケケ」と特に変わった様子もなく依然と無表情のまま笑っているだけだった。

 結果からして、禁断の果実とかいうあの洗脳光線はどうやら失敗に終わったらしい。



 ・・・でもどうしてだろう? あんな至近距離からだったのに?



 苦虫を噛むような表情で舌打ちをする鷺宮さんに対し、天喰くんは余裕綽々、すでに勝利を確信しているような顔で偉そうに講釈をたれだす。



「無駄だぜ鷺宮。比護とじゃれあってんのを観察させてもらったお陰で俺はもうお前の化け物が持つ力の大まかな見当がついてんだよ。(このとき天喰くんはなんでかちらっと僕を見てクックック、と意味深に微笑する)。それに――――お前は気付いていないだろうが、そもそもお前のじゃ俺のメフィストフェレスには絶対に勝てねぇんだよ。『あるモノ』がそれ如実に物語ってるんだぜ? 決定的な実力差って奴をなぁ」

「は、はぁ? あんた何言ってんのよっ!」

「クックック、気付いてねぇんなら別にいいさ。なんなら――――今からじっくりと教えてややろうかっ?」



 その天喰くんの言葉を皮切りに、メフィストフォレスの猛攻が始まった。



 劣勢だったあれは演技だったのか、まるでさっきまでとは比較にならないくらい鎌を振りかざすその速度が素早くなっていて、しかもそれが断続的に行われている。



 フォカロルは鷲の生首を再度紅色の槍に変化させて抵抗してみせるも、死神の鎌を振るその勢いに徐々に押され始め、鷲の生首にも次第に傷が目立ち始めだした。



「っ・・・うっ・・・」



 それに伴って、鷺宮さんの容態になにやら変化が見られた。フォカロルが負った傷の部分と同じ(?)右手の甲を左手で押さえて痛がっている素振りを見せたのだ。



「何よ、これ・・・あたし、どうしちゃったの?」

「? ああ、そうかお前、これについても知らなかったんだな。いいぜ、ついでにもう一つ教えておいてやるよ。卵から生まれた生物が傷ついたとき、その痛みはなぁ、卵の所有者に共有されるんだぜ」



 天喰くんは身の程知らずの愚か者を遥か天空から見下す神のように上からものを言う。それと同時に、メフィストフェレスの右足による蹴りがフォカロルの左脇腹に直撃した。蹴りをいれたのはフォカロルの半分程しかない身の丈にもかかわらず、フォカロルは振りかざされた鉄槌でも喰らったかのように真横に飛ばされた。

 そしてまたしてもその衝撃が主にも伝わったらしく、「くっ!」と鷺宮さんは顔を顰めながら、今度は左脇腹を抱えるようにしてその場で地面に膝をつけてしまう。



「な? 俺の言ったとおりだろ? クックック・・・これでわかったろうが。お前のじゃ俺のメフィストフェレスには勝てねぇってことがよぉ。まぁ歯向かうのは結構だが、そろそろ諦めてくんねぇと・・・その自慢の可愛いお顔がどうなっても知らねぇぜ? ハーッハッハッ!」



 嘲り調で皮肉を言う最低の言葉ではあったけど、ある意味今の台詞は天喰くんの今日最大の優しさだろう。しかし逆に解釈すれば、今のは『これ以上たてついてきたらもうどうなっても知らないぞ』という脅迫の意味も込められているに違いない。

 対する鷺宮さんは緊迫した面持ちを一瞬解くと、



「・・・どうやらそうみたいね。確かにあたしは今、追い詰められているみたい」



 なぜか微笑しながらそう呟く。――――そして、



「だけどね・・・今のあたしは昔みたいなただ弱い存在じゃない・・・もう今のあたしには、一人だけでも戦いぬける力があるんだっ!」



 勇ましく咆え、闘志をかけらもなくしてはいないようだった。

 鷺宮さんがどういうつもりで何を言っているのか僕にはその言葉の真意が全くわからなかったけど、とにかくこの状況下でも鷺宮さんの目はまだ光を失っていないようだ。

 それに鼓舞されてか、防戦一方だったフォカロルが腰の右側に備えていた脇差くらいの三叉の刀剣に素早く左手に持ち構え、そのまま渾身の一撃を繰りだした。



 結局それはメフィストフェレスの構える鎌で防がれてしまったけど、接触した鎌の柄の一端を僅かに削ぎ落とす。



 それがまた妙なことに、喉元を貫かれても奇術のような回避をして無傷でいたはずのメフィストフェレスがどうしてか今の攻撃にはそれができなかったらしい。それに伴って、「・・・ぐっ」と、天喰くんが悲痛な声を洩らす。



「くっ、・・・クックック。さすがに、油断しすぎちまったか・・・」

「フン! この鷺宮瑠姫を、甘く見てもらっちゃ困るわよ!」

「・・・上等だぜ鷺宮。やれっ! メフィストフェレスっ!」



 嘲り顔から一気に憤怒の表情に変わった天喰くんは指揮官のように右手をかざして攻撃命令を下す。当のメフィストフェレスも自分が負傷したことに相当苛立っているのかケケケケというあの笑いを一切せず、しかし目は依然として一点を見つめたままだが口元だけ歯軋りしているように歪ませて一心不乱にフォカロルへと迫った。



 フォカロルは地の利――――というか空の利を活かすためにか巨大な片翼を羽ばたかせて空に舞い上がり遠ざかっていく。それをメフィストフェレスが強靭な脚力で数々のアトラクションを足場にして飛び跳ねるように追いかける。



 遠ざかっていく二匹の怪物の動向を見守るために、それぞれの主も移動を開始する。



 そんなこんなで・・・僕の卵の所有権を賭けた戦いのはずなのに、当の僕がここに一人取り残されてしまった。



 でもまあ確かに、野放しにしたってそれほどの問題にはならないのかもしれない。

 あの二人にとって目下の敵は僕じゃなくお互い同士だ。まずは同じ宝を狙う者の始末を優先して、それからじっくりと卵を奪えばいい、ってところなんだろう・・・。



 って、そんなの冗談じゃない。今の内になんとかして逃げなきゃ!

 でも、体が――――、



「・・・え? アレ?」



 おかしい。いや、おかしいわけじゃないんだけど・・・今までがウソのように、不思議と体が動く。

 動くけど・・・なぜだかうまくは動かせない。若干の痺れが残っている。

 確か、天喰くんは「メフィストフェレスの毒が――――」って言っていたような気がするけど・・・じゃあその毒の効果が切れた、ってことなのかな?



 フォカロルのあの洗脳光線にも何かしらの発動条件みたいなのがあるみたいだったし、きっとメフィストフェレスの毒にも条件か制限があったのかもしれない。

 なんかよくわからないけど、まあつまり今、逃げられるわけだ。



 そうして僕は痺れが残った足で十分に周囲を警戒しながら、しかし注意散漫になるほどにまでいそいそと、できる限り全力で入場口を目指した。


タイトルの意味は、「三角関係が反転した」という意味を込めています。

自分で言うのもなんですが、全然マッチしてないですね・・・。

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