表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/61

Side Act.6:テレジアの報告 その3

 「入室を許可する」

 「……ハッ」


 国王陛下へのいつもの報告の為、また衛兵に取り次いでもらってからの入室。

 今日の衛兵は、個人的にあまり仲良くない者が立っているため、お互いのやり取りも少し素っ気ない。


 とは言え、仕事は仕事なので事務的なやり取りをしつつ、私は国王陛下の執務室へと入り、ピンと姿勢を伸ばして敬礼をする。


 「テレジア、定期報告に参りました」

 「来たか」


 国王陛下……イグナティオス王は読書の最中だったようで、私が入室した途端、読んでいた本にしおりを挟み、机の上に置いた。


 「報告しろ」


 そして、いつものように私に対して報告を促してくる。


 「ハッ、報告します。クリスティアネ王女殿下のおかれましては、ご学業、ご体調ともに良好です。王立魔術学院伝統の魔導祭の開催が2ヶ月に迫っている中、ご学友一同と共に準備や競技の練習などに励まれており、精神的にも比較的穏やかな日常を送られております」


 国王陛下に対してやや早口で答えるが、それでも一語一句聞き取るのがこのお方の凄いところだ。

 国王陛下は「うむ」と頷くと、私の言葉を待つ前に口を開いた。


 「遮るようで悪いが、例の決闘と男子学生の件はどうなっておるのだ?」


 きたか……。

 正直余り聞かれたくない話題だ。

 確かに、3ヶ月ほど前に報告した内容で、ブラウ伯爵家の嫡男……イウリオス・パウロス・ブラウとあの男の決闘騒ぎについて報告し、その際、あの男が姫様の弱みを握っている、などとブラウが言ったことについても報告した。


 無論、姫様の弱みを握っているなどは嘘でしょう、と言っておいたが、国王陛下はどうも気がかりであるようだ。


 「ハッ、今現在においては、両者とも過剰な接触はありません。殿下ご自身におかれましても、気にしておられないご様子です」


 決闘騒ぎ以来、あの男とブラウの接触はかなり少ない。

 これはそのままのことを報告したが、姫様のことに関しては少し怪しい報告となった。

 というのも、普段から姫様は気丈に振舞われているが、私と二人の時になると物憂い気な顔をしていることが多い。

 毎日あれほど行っていた課外活動後の密会も、あの男が馬術の練習に時間を多く使うようになったことでその回数が激減したのだ。

 私としては歓迎すべきことなのだが、姫様はあの男と会えなくなったことで目に見えて落ち込んでしまった。


 正直、あの決闘の話があった時、私はチャンスだと思った。

 これであの男が負ければ、姫様に近づくことが無くなり、自然と、お互いの想いが冷めるのではないか、と期待したのだ。

 だが、あの男の執念とも言える猛練習を、姫様と遠くから見ているだけで私は何とも言えない気持ちになってきた。


 「……そうか。私の方でもその学生……ベルホルト・ハルトマンについて調べさせた」


 しかしあの男にとって災難なのは、この方に名前を覚えられたことだろう。

 あの男は、知らない間にこの国の王に目を付けられてしまったのだ。


 「このハルトマンという学生兄妹、かの”剣皇”フェリクスの弟子だそうだ」

 「あの”剣皇”……ですか?」


 まさか……あの男が?

 確かに、あの男とカーリナは、学院に入学する前に2年も旅をしていたらしいが……。

 まさかその時の剣術の先生があの”剣皇”とは……。

 奴が剣を振るう姿など見たこともないのだが、本当なのだろうか?

 本当なら、少し、羨ましい……。


 「しかしそれが事実であれどうであれ、どうでもいい。決闘に勝とうが負けようがどうでもいい。一地方の兵士の子がクリスティアネに想い煩うなど、言語同断だ。今後も、監視の目を緩めるな」

 「ハッ、承知いたしました」


 厳しい表情で国王陛下は言い切ると、深いため息を吐いて椅子に座り込んだ。


 「マイオス港からの報告では、ここ数日、イルマタル海で”光のカーテン”なる物が空に現れたという。議会では魔神が復活する前触れだと大騒ぎだ。そちらのことに対して対策を取らねばならんのに、余計な問題を増やされてもらっては困る」


 どうやら国王陛下は、自分の娘のことより魔神のことが気になる様子。

 一国の王としては当然の思考なのであろうが、娘の細事や恋慕を、”余計な問題”と称したのだ。

 父として、それはどうなのだろうか?


 ……所詮王の娘など、政略結婚などの政治的な道具に過ぎないのだろう。

 ならあの男と一緒になる方が姫様も幸せに……。

 いや、余計なことは考えるな。


 「……もうよいぞ」

 「ハッ」


 どうやらこれで話が終わったようで、私は敬礼をして退室する。

 そして姫様が待っておられるサロンへと戻る最中、私はアレコレと考えた。

 あの男のことが、隠しきれなくなってきたな、と。


 もし、国王陛下が姫様とあの男の気持ちを知った時、どういう行動に出るのかは容易に想像がつく。

 その結果、姫様が大いに傷つくことも……。

 だからこそ、穏便に別れさせようと色々考えていたのだが、結局何も手を打つことが出来なかったのだ。

 

 そして、気が付けば魔導祭まで……あの男の決闘まであと2ヶ月に迫った。

 本来なら、姫様に気付かれぬようブラウに協力し、あの男が負けるように仕向けなければならないのだろう。

 そうすれば、すべてが丸く収まる。

 姫様は余計な心の傷を負わなくて済むだろうし、あの男も諦めが付くはずだ。


 だが、本当にそれでいのだろうか?

 ……実のところ、私もどうしたいのかが分からなくなってきた。

 それが……あの男と別れることが、姫様の幸せになるのかどうか。


 自然体で、本当に良い顔をされるようになったのも、あの男と出会ってからなのだから……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ