60 計画【最終話】
話に夢中になっているうちに、テーブルの上のカップはいつの間にか空になっていた。
「マスター、ソラ様、コーヒーのお替りはいかがですか?」
キイがコーヒーサーバを持って二人に尋ねた。ソラは、お願いします、と答えた。
ジンは、カップに注がれたコーヒーを飲みながら、ソラに尋ねる。
「それで、この後はどういう計画なんじゃ?」
「各部署との連携の取りやすさを考慮して、当面は王城住まいを続ける予定です。トロワ姫からも、そうするように要請されています。できれば、この先、半年くらいで、師匠に教養数学の残りをご教授いただきたいと考えています。トロワ姫と一緒に、ジンノ村に伺います」
「ああ、講義するのは構わんぞ。なんか、トロワ姫と仲良くなったようで、なによりじゃな」
ジンの指摘に、ソラは、ええ、まあ、とつぶやき、少し照れた表情を浮かべた。
「トロワ姫は数覚クラスの教師をやりたがっていますが、危険なので、王様は許可しないと思われます。どうやって、あきらめさせるかが悩みの種です。ナンバーズの二人も商売で忙しいので、教師は難しいかもしれません。どうやって教師を確保するかが、今の一番の課題です」
ソラが課題を挙げると、ジンは思案げな表情をして口を開く。
「数覚スキルの素質を見分けるように鑑定の魔導具を改良するには、どのみち検証実験が必要じゃ。孤児院を回るので、そこで数覚スキルが発現した子供を教師候補にしたらどうじゃ。5歳児以外で発現する可能性もある。教養数学の修得だけでいいのなら、10歳児くらいまで含めても構わんじゃろう」
ジンの提案に、ソラは目を輝かせた。
「それは素晴らしいです! 検証実験を行う際には、孤児院に同行いたします」
「坊やがいないと数覚スキルが発現しないだろうから、同行はどのみち必要じゃ」
ジンは、一息置いてから、しみじみとした口調で話し始める。
「これだけ状況が変わったというのに、坊やがワシのところに来て、まだ4か月しか経っていないのが信じられんのお」
ソラは、ジンの述懐に、ボクもそう思います、と答えた。
コーヒーを飲み干し、ソファから立ち上がって、窓辺に近づく。
窓の外には、牧場と青い空、遠くには鳥の群れ。窓からは午後の陽が少し差し込み、室内を明るく照らしている。
――窓の外の景色は、4か月前に、孤児院から師匠の家に初めて来た時と変わらない。でも、あれから、商業ギルドで働き、アンとデュオと一緒に会社を作り、そしてトロワ姫の家庭教師として王城住まい。今度は、3か国相手にスキル発現と教育の商売だ。なんてめまぐるしいんだろう。
ソラは、自身の境遇の変化に戸惑いを隠せなかった。
ジンは、遠い行く末を見据えるように、静かに展望を語る。
「ノマスに来て50年経つが、まさか数覚スキル持ちが多量に生まれることになるとは思いもしなかったのお。たった数百人の転移者でも、これだけ政治や経済に影響を与えてきたのじゃ。数万人もの数覚スキル持ちが出現すれば、歴史書に残るような大激変となるじゃろう」
――師匠の言う通りだな。世界は大きく変わる。ボクが変える。
ソラは振り返り、真っすぐにジンを見つめた。
「ノマスの歴史書にボクの名が残るよう、頑張ります」
「そうか。期待している」
――明日から忙しくなるぞ。
ソラは、ワクワクしながら、予定に頭を巡らせた。
これで完結となります。最後まで、お読みいただきまして、ありがとうございました。
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