知らぬが仏
昴の、そしてオカキンとゲンさんの疑問に悠太は答えた。
「怪異が起こってる最中で校長室に行ったけど、その時……うん、確かにあの時、校長室の壁に飾ってあった。」
記憶を辿りながら話す悠太に、ゲンさんが相槌を打つ。
「なるほどね。現実と怪異の中での差異、たぶん、その絵がキーになるわね。」
そして顎を撫でながら、オカキンが提案を出した。
「悠坊。オレも付いて行くから、その怪異の中の校長室に行ってみようか。」
しかし悠太が答えるより早く、ゲンさんが割って入る。
「ちょっとアンタ! また動画を撮るつもりじゃないでしょうね!?」
咎めるような口調に、オカキンは戯けるように答えた。
「当然!これがオレの仕事だからな!」
「アンタ……いつか消されるわよ?」
「ウハハ。動画ならしょっちゅう消されてるけどな。」
「冗談じゃなくて、ガチの話よ。その消された動画だって、誰かの何かの警告かも知れないじゃない?」
悠太は2人のやり取りの行く末を黙って聞いているが、不穏な空気を感じて昴が割って入った。
「――ええと、すいません。動画を撮ると、何か問題があるんですか? 消されるとか何とか……動画のことじゃなくて?」
一瞬の静寂。昴以外に暗黙の了解があるのは明らかだ。オカキンが目配せをする。それを説明するのはゲンさんの役目と言えた。
「スバ君は――、今までニュースで化け物が出たとか《旧支配者》がどうとかって見たことあるかしら?」
「いいえ。――漫画とか、都市伝説とかでなら化け物とかは聞いたことありますけど。《旧支配者》というのは初めて聞きました。」
「そうね。でもスバ君は実際に怪異に襲われ、下手をしたら命を落としていた。そういう現実が恐らく幾つもあるのに全く話題にならず、もしくは作り話として扱われる。人類の歴史上にも、伝説とか神話以外にそういった逸話が無い。どうしてだと思う?」
「え……。何で、でしょう?」
今まで非日常に全く関わって来なかった昴には、想像もつかない。
「アタシにも詳細は全く分からないわ。でも何者かが情報を操作している、《旧支配者》の情報を世間の目に触れさせないようにしてるのよ。」
「ええと、それは陰謀論というものじゃないですか?」
「そうね。でも世間一般で言う『陰謀論』と違うのは、確かに、怪異現象は起きていて犠牲者も存在しているのに『何も無かった』ことにされている点よ。スバ君も体験したでしょう?」
「――。」
一般にいう陰謀論は、言説だけで全く実態がない。しかし、昴は確かに怪異現象に遭遇したのに世間では全く認知されていない。何者かが情報を操作していると思わざるを得ない。
「例えば――、ちょっと前に全世界で病気が流行してたくさんの人が亡くなったわね?」
「はい。」
昴が答え、悠太も隣で頷く。
「アレはね。病気ということにしたのよ。あの時、《旧支配者》のうちの強力な一柱が復活し、その映像がネットで流されて多くの人を恐怖で発狂させて死に至らしめたわ。」
「ええ!?」
ネットで噂される陰謀論の中でも、昴はそんな話を聞いたことがない。
「それを収拾するために『何者か』は相当に無理をしたようね。広範囲な情報操作、ネット検閲、ワクチンと称して魔術的な処理を施したものを流布させたり――、あの一件でオカルト界隈に対してようやく尻尾を晒したと言えるわね。いま、怪異ジャーナリストの松っちゃんが嬉々として調べてるわ。」
「あいつ――最近、見ねえなあと思ったら、そんな事を追っかけてたのか。それこそ俺より先に消されるんじゃね?」
オカキンの言葉にゲンさんの顔が曇る。
「あまり深入りして欲しくないわねえ。」
ため息混じりに言うと、悠太が思い出したように言った。
「そう言えば母さんが、病気が流行るちょっと前に突然、『絶対にネット禁止』とか言い出して3ヶ月くらいスマホとパソコンを取り上げられたけど、関係してるのかな?」
「あー。ユウ君のママ、そう言えば考古学の先生だったわね。どこぞで《旧支配者》発掘されたって噂が考古学者のネットワークで流れててもおかしくないわね。」
「そっか、やっぱり――。」
現実に存在するオカルト話に盛り上がり始めた3人に昴が割って入った。
「ちょ、ちょっと待って下さい!そんな危険な、大変なことが秘密にされてるって――なんか、おかしいですよ。」
自分の思いをうまく言語化できない昴に、困った顔でゲンさんが答えた。
「そうね。特にジャーナリストとかは真実を世に知らせるとか、知る権利などを振りかざして情報を広めるわね。でもね。知らぬが仏という諺があるように、知らなければ恐怖に囚われることなく心穏やかに生活を送ることができるのよ。真実を知ることが絶対に正しいと言える世の中ではないの。」
「――。」
普通の中学生が認識できる「世界」は決して広くはない。その昴が知ることができなかった「世界」を目の当たりにし、言葉を失ってしまう。と同時に、悠太の落ち着いた佇まいや言動が、先んじて「世界」へと足を踏み出していた経験から来るのだろうと昴は納得し、さらに悠太への憧れと恋慕の思いが強くなった。
「じゃあ悠坊、スバル。明日の夕方、よろしくだぜ!」
悠太とスバルは頷くが、ゲンさんがそこに釘を刺した。
「そういうことなら、アンタが保護者になるんだからね!ちゃんと怪我なく2人を安全に家に帰しなさいよ!?」
「分かってるって!」
軽い口調で返事を返すオカキンに、ゲンさんはしかめっ面を作った。
随分と間が空いてしまって申し訳無い。リアルが充実すると創作活動が疎かになる。(´・ω・`)




