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BLと旧支配者  作者: 藤井ざくろ
《旧支配者》やその眷属と関わりを持ったら大概ろくな死に方をしないものだが
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《旧支配者》

 ゲンさんはトイレから帰ってきた顔色が悪い昴に冷たい水を勧め、一息ついたところで改めて温かい紅茶を差し出した。昴は手のひらを暖めるようにティカップを持ち、少し震える声で尋ねた。

「――アレは何ですか? 真っ黒いコウモリのような、痩せた人間のような。」

「うん、赤い目が3つあったね。」

 悠太が同意して昴の言葉を継ぐと、昴は頷いた。少し怯えた様子の2人を見て、ゲンさんは神妙な面持ちで短く答える。

「有識者の間では《旧支配者》と呼ばれているわ。」

「……キュー、シハイシャ?」

 今まで1度も聞いたことがない単語に、2人は声を揃えて復唱した。ゲンさんは、本当に気が重い様子で、言葉を選びながら説明を始めた。

「人類が地球に現れる以前に、それこそ数千万とか数億年前とかいう遥かな過去に、地球に飛来してきて原始の地球を支配したという存在よ。」

 その言葉にピンときた悠太が問う。

「つまり宇宙人ってこと!? マジで!?」

 怖れながらも興味津々の悠太にゲンさんは苦笑した。

「ユウ君が知ってるグレイ型宇宙人とか、3メートルの云々とか、キャトルミューティレーションとか、エリア51とか、地球侵略計画とか、そういう関係であれば話は平和なのだけれどね。」

「え。……どういうことですか?」

 不穏な単語を混じえて尚、「話は平和」とゲンさんは宣った。

「《旧支配者》を端的に表現するなら『意思を持つ自然災害』といったところかしら。」

 2人が息を飲む。

「――でも、意志があるなら交渉とかできないんですか?」

 その問いにゲンさんは首を横に振って答えた。

「意思疎通ができたのならハッピーよね。でも、そうね……。力の差が歴然としている様子を『アリと象』に例えられるわよね。象がアリを踏み潰すとか。」

 2人が頷く。

「でもね。人間をアリに例えたとしたら、《旧支配者》は人間よ。」

 その言葉の意味を察して悠太は渋い顔をした。対して昴は意図を汲めず、「どういうことですか?」と尋ねる。ゲンさんは一息入れると、皮肉を込めた笑みを浮かべて答えた。

「象はアリの意志に関わらず踏み潰しちゃったり踏み外しちゃうだけだけどね。人間はアリが餌を欲しそうに活動していたら普通に餌を与えることもあれば、塩やタバスコを舐めるか試しに与えてみたり、難関迷路の先に強烈な甘い匂いを放つ餌を置いたり、餌に毒を混ぜたりするわね?」

 その例えに昴はゲンさんが何を言いたいのか察した。そしてゲンさんはさらに言葉を重ねていく。

「アリの巣に水を垂らしてみたり、巣の形を知るために熱したアルミを流し込むわね? 飼育するために女王アリを捕まえてプラスチック製の巣の形を模した容器に入れて観察したり、プラスチックの巣が汚れたらアリのご都合など考えずに無理やり引越しさせるとか、試しにゴキブリと戦わせるとか、違う種類のアリの巣同士を戦わせるとか。」

 ゲンさんの言外の例をも想像し、2人は背筋が凍った。「アリ」を「人間」に置き換えると、それぞれが非人道的な行いと言えた。悠太は心の中で「アリさん、昔の僕がごめんなさい。」と謝罪する。

「――何となく察してくれたりすることもあるけど、《旧支配者》が人間の望む通りに行動してくれることは、ごく稀。そのような《旧支配者》を『神』と崇める人間も少なからずいるけど、ナンセンスな話ね。愚かな行為だわ。」

 ゲンさんの言葉はオカマ特有の毒舌だろうか、辛辣だ。

「昔の日本人のように恐れの対象を『神』として崇め奉ることで災厄を鎮める目的なら解らなくもないわ。でも、何かの願望をもって《旧支配者》に祈るのなら阿呆の極致ね。基本的に人間が生み出した『神』は、人間の望みを叶え、守護し、導く存在だけれど、《旧支配者》たちに、そんな意志など微塵もないの。ここまで説明すれば分かるでしょう?」

 ゲンさんの言葉に2人は頷いた。

「さて、《旧支配者》の話を踏まえて本題よ。いつからかは判然としないけれど、白河慶が《旧支配者》のうちの一柱を信奉していたのは疑いようがないわ。そして何かしらの願望を抱き、祈りを捧げた。」

 そう言いながら、白河慶の卒業アルバムを開いた。そこには鉛筆画でクラスメイトが集合写真のように描かれているわら半紙が、見開きで貼り付けられている。糊付けされていたであろうわら半紙は予め丁寧に剥がされていて、ゲンさんはゆっくりと捲った。

「これは――。」

 見たこともない文字列、幾何学的な図形が赤黒いインクで描かれている。意味は分からない、分からないが不穏な禍々しさを感じる不思議な紋様だ。

「まだ解析は済んでないけれど《旧支配者》に祈りを捧げ、願いを成就させるための魔法陣だと思うわ。」

「赤黒いのは――血か?」

 オカキンの問いにゲンさんが頷く。

「たぶん白河慶本人のものね。敢えて見せはしないけど、他のページもわら半紙の絵の下には何かの魔法陣や《旧支配者》の姿と思しき絵、世の中への怨み言が血で書き殴られていたわ。」

 空気が重く、カウンター席の3人は押し黙る。しばらくの沈黙の後、絞り出すように悠太が声を出した。

「――この人の望みって何だったんでしょう?」

「……魔法陣の解析が終われば、彼の望みが何だったのか分かるかも知れないけど。」

 言いながらゲンさんはもう1冊のアルバムの、白河慶の写真を撫でる。すると、何十年も経って劣化した糊付けが剥がれ、写真がヒラリと床に落ちてしまった。

「あら、ごめんなさい。」

 言いながら拾い上げ、はたと手を止める。写真の裏に達筆でメモ書きがされていた。

「これは――。」

 皆がメモ書きを覗き込む。

「慶くんは、この子に想いを告げることができたのだろうか。嗚呼、叶わぬ恋のもどかしさよ。」

 ゲンさんが読み上げ、裏返し、皆で写真に写ったものを再確認する。

「白河慶と、キャンバス。」

「何か描かれてるな。人物画?」

「女子生徒かな。古い制服のおさげの女の子にみえる。髪型も古い感じだ。」

 昴の言葉に悠太が反応した。

「古い制服のおさげの女の子? ……最近、どこかで見た気がする。」

「いや、こんな制服を着てるコなんていないぞ? そこにおさげ髪なんて昭和臭いコがいたら絶対に目立つから。」

 昴のツッコミに悠太は少し考え込み、ハッと思い出した。

「これ、校長室の絵だ!」

 悠太の言葉に昴が首を傾げた。

「いや。一緒に行ったけど、こんな絵はなかったと思う。」

「そうだね。」

 悠太は昴に同意した。

「昴と一緒の時の校長室じゃなくて――。」

■ゲンさん[Gen=SAN]

身長:173cm 体重:53kg

誕生日:12月24日(やぎ座)

血液型:A型 年齢:(秘密)歳

好き:オトコ

嫌い:馬鹿

ポジション:リバ

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