19.The half-dragon bestows martial power.
あれからさらに三度の試行を経て、湿地を安定して抜けられるルートが構築できた。そして挑み続けること、既に両手の指では足りない数に。
底なし沼、対処できないほどのシュダーナが屯する巣、ガスの吹き溜まり。それらを避けて森まで到達することは容易になったが、しかしその後が上手く行かない。
抜けた先の森が大変な難所であったのだ。
単純な話である。出てくる魔物が強いのだ。
湿地に潜むシュダーナなど目ではない。
隠密、暗殺、罠、狙撃。
逃げようにも追跡を振り切れず、数で押し潰されることも肉体スペックで圧殺されることもしばしばあった。
ひたすらに強い。
出てくる魔物を何かしら1体でも仕留められれば、それだけでレベルが上昇した。どうにもならない格の差を思い知らされる。
湿地帯の時点で2ランクは上の素材だと、いももちから聞かされていたことを思い出す。
さらにその先へと踏み込んだのだ。
森に居る魔物たちがより格上の存在であることは当然の話であった。
何度も挑戦した。
全てで敗走した。敗走は温い表現だった。敗死である。
食い殺され、叩き潰され。
ルートを構築するまでと、構築してからと。
何体かまでなら対処が出来るのだ。
しかしそれも数が増すか、回数が嵩むかすると忽ち手に余る。
「──お仲間の姿も見ないことだしな」
精霊たちは森までやって来ない。
湿地帯までならごく少数見かけるようになったが、そこを抜けて森まで来ると狩り場として美味しくないという話が広まっているようだ。
実際その通りで、死に戻りを繰り返す現状は若干の赤字だ。時折湿地での狩りを混ぜることで収支のバランスを保っているわけである。
さて、今回も森への挑戦である。
30レベルが見えてきたことで、いよいよ適正なエリアに迫っている実感はあれどもまだ遠く。
一戦一戦が気を抜けない。
毒鱗粉で周囲を汚染するアルブランという蛾やメザイトなる食人植物は容易い方で、森に適応してより堅固な鱗と分厚い筋肉を纏ったシュダーナ亜種、大型の豹に似たペレティマなどは中々に堪える部類だ。
そして他にも数種類の厄介な魔物は居るが、森の頂点は間違いなく奴だと決まっているものがいる。
[《黄鱗銅角》ウヴェヒューラ]。
まず間違いなくボス個体だろう。
遠目で見ると筋骨隆々な鬼にも似たその全身は、名の通り黄色い鱗に覆われたシュダーナである。
銅色の一本角が鈍く輝き、3メートルを超える巨躯は恐ろしいほどの威圧感を漂わせている。その見た目に違わぬ膂力で、初遭遇の時には上半身を一撃でミンチにされた。
木の陰に身を隠してこっそりと覗けば、ウヴェヒューラは何かの肉を食らっている。
じっとりとした手汗を拭い、剣鉈をそっと抜く。
まだ見つかっていない。だが何時見つかるかも分からない。
ウヴェヒューラを避けて進むことは可能だ。
森を抜ける道筋は複数存在する。
しかし他のルートでは安定しないのだ。
と言うか、ウヴェヒューラの居る場所が辿り着けている中で最も奥になる。ここが突破口であるのは間違いなかった。
ここを安定して抜けられないようでは、更に先へと進むことは難しい。
隠れたまま回り込んで、木の枝によじ登る。
そうして枝伝いに奴の頭上をとろうと動く。ゆっくりと、慎重にだ。
中々上手いこと位置取りができない。数メートル離れた枝の上に陣取って様子を見るのが精一杯だった。
仕方なく、ウヴェヒューラが大きな隙を見せるのを待つことにする。
が。
ウヴェヒューラは何やら違和を感じ取ったのか周囲を見回し始めた。その動きは明らかに怪しんでいるものだ。
例えここで森の奥に向かって逃げ出したとしても、奴はそれに気付いて追い掛けてくるだろう。そして私は捕まるに違いない。
ボスと身体能力を比較するなどナンセンスだ。
そして奴は、既に確信を抱いているのだろう。
のそりと立ち上がったウヴェヒューラは、食事を中断して何かを探し始めた。何か、ではない。
探しているのは侵入者だ。
縄張りを侵す余所者の存在を許すわけにはいかないのである。
失敗だ。奇襲をかけて戦闘を優位に進めようという目論みは瓦解した。
ウヴェヒューラは徐々にこちらへと歩を進める。
取りこぼすことのないように、あちらこちらへ視線を向けながらも足取りは淀みない。
これは無理だ。
観念して、枝から降りる。
そうしてウヴェヒューラの前に姿をさらした。
剣鉈を身体の前に構え、抵抗の意思だけははっきりとさせたままである。
「ククルルル……」
ウヴェヒューラが立ち止まった。
こちらをじっと観察している。
「クルル……、ルゥ……精、霊?」
掠れた発声。
目を見開いてまじまじと見る。
「精、霊……?」
ウヴェヒューラだ。
奴が発した言葉だった。
ウヴェヒューラはこちらに問いかけながら、右手で指差しまでした。
コミュニケーションをとろうとする意思は明らかだ。
「……精霊?」
三度目の発声はそれまでよりも滑らかで、かつ僅かばかりの怒気が感じられた。
慌てて答える。
身振り手振りを交えて精霊である、と。
ウヴェヒューラはその答えに満足したのか頷き、さらに言った。
「精霊、弱い。弱い。……ヒューラ、教える。お願い、勇者、嬉しい。教える。精霊」
さらにウヴェヒューラは自身とこちらとを交互に指差す。
「精霊、弱い、武器、使う。弱い、武器、ヒューラ、教える、強い、強い。お願い、勇者、嬉しい、ヒューラ、嬉しい」
辿々しく発せられる語句の繋がり。
それを頭の中で組み合わせれば、ボスモンスターとは思えない提案が明らかとなる。
──ウヴェヒューラは何かしらの"技術"を伝授しようとしているのだ。それも勇者の願いを叶えるために。
勇者が生前にウヴェヒューラとどのような関係であって、一体どのように取り引きを持ち掛けたのかはうかがい知れない。
だが、目的地への道中で全く別の事柄の手がかりを得るのは大変気持ちが良かった。
「武器、小さい、弱い。精霊、武器、大きい、使う。使う。ヒューラ、教える強い。ヒューラ、教える、武器」
明らかな教導の意思。
感じ取ったそれに従い、手にした剣鉈を降ろすとウィンドウがポップする。
「ヒューラ、待つ。武器、大きい、使う。ヒューラ、待つ、教える。約束」
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『インヘリタンス・クエスト:星の輝きを紡いで』
竜に最も近付いた英雄であるウヴェヒューラ。彼は永い永い生の集大成として、己れの技術を受け継ぐ者が現れることを望んでいる。
勇者ではダメだ。賢者でも、聖女でもダメだ。
ウヴェヒューラの業を継ぐには力が、理性が、それらに倍する狂気が要る。
発生条件
・ウヴェヒューラとの邂逅
・近接武器の装備
・ウヴェヒューラに倒される
進行条件
・ウヴェヒューラの納得する武器を用意する
・ウヴェヒューラとの模擬戦
達成条件
・ウヴェヒューラの業を修得する
・ウヴェヒューラが納得する業前になる
評価点
・修得した業の完成度
・修行の態度
・学ぶ姿勢
・修得までに要した時間
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