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17.Giovanni finished it overnight.



「──で、戻ってきたんすね」


 いももちが素材の一つを手にとって眺めている。

 ここは彼女のホーム。

 ウェズリの廃村でも大きめな家は家主の趣味に合わせて改装されつつあり、元の持ち主であったウラタリの空気感というものは薄れていた。

 そんないももちの家で淡いピンクのクッションに凭れてドライベリーを口にしながら、彼女に今回の冒険の顛末を語ったのが先ほどまでのこと。


 戦利品を譲り、いくらかの金銭とアイテムを受け取ったところである。


「しっかしそんな強いんすか? リザードマン」

「ああ、強いってよりも厄介、かな。足場の悪いところで集団が襲ってくるのはしんどいよ」


 シュダーナを一体仕留めた後、さらに進んだ先で群れに襲われたのだ。

 囲まれて滅多刺しにされてリスポーンとなった。どうもあの辺りに巣があったらしい。

 ズカズカと縄張りへと踏み込んだため、袋叩きにあったわけだ。


「間抜けな死に方っすけど、自分で味わうのは勘弁してほしい感じが最悪っすね」

「喰われなかっただけマシかな」

「いやそれホントに最悪なライン」


 いももち、ドン引きである。

 とは言え大型の魔物が増えてくれば喰い殺される機会は自然と多くなるものだ。

 特に狼や獅子のような四足の獣モデルは噛みつきがメインウェポンであり、結果として美味しくいただかれることになる。


 ──それはそれとして。


 いももちが嬉しそうにしていることから察するに、シュダーナを初めとした湿原エリアで入手した素材は悪くないものであるようだ。


「この村周りの素材よりも2ランクくらいは上っすね。王都で集めるならかなりの出費を覚悟しないといけなさそうっす」

「そいつは頑張った甲斐があったよ」

「でも採掘系の素材は無いんすね」

「まあそりゃ湿原だからさ。鉱石なんかがそのまんま転がっているわけないじゃないか」


 ドライベリーは悪くない出来だった。

 いももちが手慰みで作ったものらしいが、マーケットに流しても十分売れそうだ。


「そうだ」


 いももちが何かを思い出したように呟く。

 彼女がインベントリから取り出したのは、輝く宝剣。白地に金で装飾されてふんだんに宝石があしらわれたそれは、ウラタリとの一戦を終えて得た戦利品だ。

 役割の分からない──そもそも役割があるかも分からない宝剣は、いももちに預けて鑑定を頼んでいた。

 受け取った鑑定データを読む。



 [宝剣イェーミリ]。

 勇者を支えた亡き大賢者■■■■■が遺した宝剣。持ち主を───へと導く。

 水晶の刃を砕くことで[アウジミリの霊廟]への場所を示し、鞘がその入り口の鍵となる。



「思った以上にトンデモアイテムが出たな」

「ホントっすよ……」


 いももちはどこか疲れたような声で言った。

 どれだけ鑑定していっても一部の封が外せなかったそうで、肝心要の部分が覗けなかったことがたいへんなストレスとなったそうだ。


「いやホントヤバイっすよ、これ! 鑑定のスキルレベルがどんどん上がるし、その割には全然解析進まないし。いかにも厄いっすよ」


 彼女の言いたいことは分かる。

 今の進行度に見合っていると思えなかったし、入手した経路が経路だ。それこそ呪われていたとしても不思議はない。

 ただ……。

 だからと言って死蔵するのも、何か間違っているように思えてならなかった。


 宝剣イェーミリを手に取る。

 ずしりと重い。

 装飾剣だが実剣のような重量感だ。手に入れたあの時と同じ。しかし異なるのはその真価を知っていること。


 すらりと鞘から抜き放つ。

 水晶の刃が煌めく。室内照明を乱反射し、いくつもの影が産み出される。

 不可思議なのは、照明の光度を超えて反射光が煌めいているように見えたことだ。

 眩く輝く刃はまるで自身が光源であるかのようで。


「マジで砕くんすか? 勿体なくない?」


 いももちが弱々しく止める。

 確かに見事な宝剣だ。売ればいくらになることやら。

 いや飾っておくだけでも。

 そんな気持ちが全く無いとは言えない。

 しかしそれはきっと、求めているものと異なる道行きだ。


 ──故に。だからこそ。


 これ以上躊躇うことなく。

 ひと思いに。

 水晶の刃を叩き割る。


 ガシャン──。


 甲高い破砕音とともに、爆発的な光量でもって虹の暴風が吹き荒れた。幻想的でありながらも、あまりの眩さに視界が潰される。


 光の嵐は数秒続いた。あるいは数十秒だったかもしれない。

 くらくらとする頭を押さえ、目をしばたたかせる。二人揃ってだ。

 手元に残ったのは宝剣の柄と鞘。それからマップに記された真っ赤な光点。


 滅茶苦茶に遠い。

 死に戻りをしたシュダーナの巣があった地点までの道のりを1として、光点までは8から9といったところ。そう易々と辿り着かせてはくれないようだ。


「奇跡的に方向は合っている」

「ほーん、北の方にあるんすね」

「ああ、のんびり目指すさ」


 北方は手付かずの未開拓領域と言って良い。

 精霊はもちろんのこと、NPCである人間たちもほぼノータッチであるのだ。


 それは魔王の影響が残るためであった。

 北方のさらに向こう。極北にて決起した魔王は魔物の軍勢を率いて南下。人間たちの生存圏を押しやりながらひたすらに前進した。

 そのために人間たちは大陸南方に押し込められている。勇者に討たれてなお、色濃く残る魔王の残滓が北方を染め上げているが故に。


 自然、口元が歪んでいくことを自覚した。

 弧を描く口角。冒険心が刺激されていた。

 それは未知への挑戦。塗り替えられた世界を既知へと変えるための旅路。新たな地平を切り拓くための祈りの踏破。

 小難しいことを考えずとも、知らない場所の旅は心躍るものだろう。

 それが名実ともに冒険となればなおのこと。


「行くんすね」


 いももちがこちらを見ていた。

 彼女はあーはいはい分かった分かった、と言わんばかりにしたり顔で頷いている。


「行くんなら、今の装備じゃ足りないのは分かるっすよね?」

「……まあ、そうだね」


 耳に痛い指摘だ。

 明らかになった範囲でも二段階、その先を考えればもっとレベルが上の装備を要求されるだろうフィールドだ。冒険をするにも最低限の装いというものがある。

 ボスドロップであっても、まともな防具はオーバーオールだけの着の身着のままで進んでいったのは準備不足も甚だしかった。


「前に見せてもらったあの金属。加工できるレベルには届いてないんでそれまでの繋ぎを用意します」

「助かるよ」

「あくまでも繋ぎっすから。ちゃんと更新させてくださいね」


 いももちが渡してきたのはプロテクターだ。

 身体の各部を覆うようになっているが、鎧ほど隙ない状態にはならない。補助的な装備である。

 予算や素材の余裕がそれほどない状況で、防具一式を用立てるための工夫だろう。

 早速、オーバーオールの上から着用してみる。



 [パロウジル・プロテクター]。

 粗悪な魔法合金であるパロウジルを加工して作られたプロテクター。ある程度の斬撃・衝撃・腐食耐性を有する。ただし、10℃以下では脆くなる特性を持つ。

 本作品は装甲の肉抜きをすることで軽量化を実現。刺突攻撃への耐性弱化と引き替えに、運動性能への悪影響をかなり低減している。



 金属製の防具ながら、実際に着用した感想としてはかなり動きやすい。軽い上に動作の邪魔をしないのだ。その代わりに防御力の面では控えめらしいが……。

 有ると無いとでは大違いだろう。


「良い仕事するね」

「まあ、当然っすね!」


ご覧いただきありがとうございます。

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