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13.A Warrior's Wish


 案内された先は赤茶色の海であった。


「これが全部レッサーパンダか……」

「違うぞ。我らはドレッドノート。れっさーなんたらと一緒にするでない」


 ヅェレイは否定するがどう見てもレッサーパンダだ。そいつらが服を着て洞窟の広場の中で犇めいている。

 気になるのは彼らの纏う衣装だ。

 ヅェレイは全身を覆うように皮鎧を身に付けているが、洞窟内に居た彼らはシャツやズボンを着ただけの軽装である。

 身分に差があったりするのだろうか。

 その辺りをそれとなく聞いてみれば、ヅェレイは笑いながら言った。


「戦士と職人とで装いが異なるのは当然であろう。工房は戦場なれども、真に生命のやり取りをするは我ら戦士。勇士殿らもそれぞれで格好は異なるものであろう? そういうことよ」


 それまで丸くした目をキラキラ輝かせてドレッドノートの群れを見ていたいももちが、そこで首を傾げる。


「戦士と職人の一族なんすよね? 職人ばかりが多くないすか?」


 この広場を埋め尽くさんとするドレッドノートは、その誰もが軽装で職人と思われる。戦士らしき重装備の姿はヅェレイを除いて誰一人としていない。

 それから長らしき姿もまた、見受けられなかった。


「うむ、この場この洞窟におるのは全て職人である。ここは我らの隠し工房でな。あやつ等が広場で待ち受けていたのは客人が珍しいものであるからよ。さてさて、長の居られる里への道を繋ごうぞ」


 広場に一歩踏み入ると、赤茶色の毛玉の海がバッと割れる。一直線に伸びた道。そこをヅェレイが進んでいく。

 その後をおっかなびっくり着いていけば、洞窟の奥で扉を見つけた。


「悪いが精霊の大きさではないのだ。我らの出入りに使うものであるが故」


 高さ1メートルほどの扉。

 これまでの洞窟は天井が2メートルはあったのだから、これだけ小さく作られている。ドレッドノート用という話だし、それも当然だろう。

 促されるままに扉を潜り抜け、長の待つ場所へと向かう。


 薄々察している。いももちもだろう。

 ドレッドノートの持つ高い技術力、恐らく彼らは空間を飛び越えて繋げられるだろう。

 だからきっとこの先は特別なエリア。

 始めたてである今の進行度で踏み込んで良いものかと不安にはなるが……。ここで退くなどあり得ない。

 ゲームだからこそ出来る場当たり的な対応。それの何が悪い。今が無理なら、未来に投げ渡すのだ。責任なぞ知るものか。

 ただ、真剣に今を楽しめ。

 畢竟、娯楽であるが故に。




 ◇




「おお……、お待ちしておりましたぞ。勇士殿」


 レッサーパンダ──いや、ドレッドノートの老いは見たところで分からないが、それでもこの長と呼ばれるドレッドノートの生命がそう永く保たないだろうことは理解できた。

 床に伏して甲斐甲斐しく看病をされる彼は、往時は頼り甲斐のあるリーダーだったのだろう。

 周りのお付きが纏う空気感が悔しさを雄弁に語り、明るく堂々としていたヅェレイが目線を下げたまま直視しないようにしている。

 部屋の中は痛々しく寒々しかった。

 まるでもう死んでしまったかのような。そんな息の詰まる様子であるのだ。


 もしかすると、当の本人が一番明るいのかもしれない。


 そう思わせるほどに、ドレッドノートたちは暗かった。


「いやはや、歓待できずに申し訳ない。見ての通り、死に体でしてな。医者が言うにはもって10日というところでしょうか」


 笑おうとしたのだろう。口を開けた長はケホケホと咳き込んだ。

 表情筋の乏しいドレッドノートは笑う時、大きく口を開けて笑い声を出す。それが彼らの笑いであるのだ。

 もうそれが出来ないくらいに弱っている。


 改めて長の容態を確認する。

 目はほとんど見えておらず、咳は止まらない。時には血を吐き、ガタガタと震えることもあった。全身の関節が絶えず悲鳴を上げていて、発熱がまるで治まらない。

 医者は既に匙を投げてしまっていた。

 曰く、こんなものは医者の領分ではない。と。


 その言葉に全くの同意見だ。


「病に侵された上、醜く老いさらばえたこの身なれど、かつては一族きっての戦士でしてな。駆け抜けた戦場も、溜め込んだ財も数知れず……」


 咳き込みつつも長が話し出す。

 自慢話、とは思えなかった。何かを切り出すための前振りに聞こえる。


 周りのドレッドノートたちも神妙な面持ちだ。まるで遺言を聞くかのごとく。

 一言一句聞き逃すまいと、誰もが身動ぎ一つしない。


「……ここに新たな勇士殿をお迎えし、さらにはそれを我が孫ヅェレイが為したとは正に僥倖、幸甚この上なきこと。して、この老骨に最後の願いがございます。どうかお聞きくださらぬか──」


 見えぬはずの目がこちらを見た。

 発せられる熱意に唾を飲む。今にも死にそうな生き物の放つ圧ではなかった。

 背を押されるように是と答える。


「おお、おお……。我らの身体は畜生なれど、理知に身を固め己れを律して生きております。然れど、世は恐ろしい。魔道に堕ちるも已む無しと、そう思わずにもいられないのです」


「長……!」


 ヅェレイが驚きに震える。


 ──分かるよ。突然敬愛する人が弱さを吐露したとあれば、それを間近で目にしたのなら、世界が歪んだようにすら思えるだろうさ。……私もそうだった。


 ぐしぐしと顔を乱暴に拭うヅェレイを横目に、長へ話の続きを促す。肝心のところをまだ聞いていない。おおよそ何がやって来るのかは予想できているものの。


「……我らドレッドノートは勇気ある一族。どうかその誇りを胸に刻んだまま逝かせてはくれませぬか。病に苦しみ床に伏しての死など御免被る。戦士として、立って死にたい。そう願ってしまうのです。あるいはそれこそが魔道への誘いであるやもしれぬとしても……。どうか、どうか……」


 突如、長が布団をはね除けて、上半身をむくりと起こす。白い毛の混じった手がこちらへ伸ばされる。その手は微かに震えていて、弱々しいと言う他ない。

 だが。だがその思いは力強い。

 純粋で美しい誓い。


 気付けばその手をとっていた。

 握りしめて、高らかに謳う。


「応とも! このキリィクが、長の永き旅路に相応しき終わりをもたらそう!」


 カチリ、と胸の奥で何かが填まるような感触がした。気力が膨れ上がる。全身に活力が満ち、期待感に心が躍る。


 悪いね、いももち。

 彼を、彼らを放ってはいられないんだ。


 ちらりと振り向き視線をやると、呆気にとられていた彼女はへらりと笑顔を浮かべた。


「やりたいようにやれば良いんじゃないっすかね。 ……でも、勝てるんすか?」


「勝つよ。この私の全てを懸けて」






────────

『ディートアシナリオ:猛き汝よ、勇士たれ』


 余命幾ばくもないドレッドノートの長、ドルバンスヴルウヌ。

 彼の願いは、戦いの果てにその生命を散らすことだった。

 同族殺しを禁忌とするドレッドノートたちはこの願いを叶えられず、偶さか招かれた勇士に全てが委ねられる。


 長との決闘、その終わりに勇士は一体何を見るのか──。



 発生条件。

 ・長が存命の内にドレッドノートと出会い、里まで招かれる。

 ・長に勇士と認められる。


 進行条件。

 ・長の頼みを聞き入れる。

 ・──不明──。


 達成条件。

 ・長との決闘に勝利する。

 ・ドルバンスヴルウヌの最期を看取る。


 評価点。

 ・決闘の勝敗。

 ・決闘の内容。

 ・──不明──。

 ・勇士としての発言。

 ・──不明──。

 ・──不明──。




ご覧いただきありがとうございます。

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