第5話 罠職人の仮説
警察署が見えてきましたね。
あれから何度かゾンビやヴァンパイアを撃退しましたが、それ以外のモンスターには襲われませんでした。
なるべく目立たないルートを選んだのもありますが、ちょっと気になるところです。
婦警さんはどう思いますか?
「どうでもいい。無事に移動できたのなら何も問題ないだろう」
いやいや、考察は大事ですよ。
こんな世界だからこそ、頭を働かせる必要があります。
確かに不明な部分が多くて判然としませんが、それでも疑問を解消する余地はあります。
「例えば何だ」
ゾンビ化の現象です。
発症のプロセスに違和感がありました。
ダドリーさんは直前まで元気だったのに、僕のゾンビ知識を聞いた途端に豹変した。
ウイルス感染の概念を知ったことで異変が生じたのです。
あの瞬間、フィクションの設定が真実になったのではないでしょうか。
「ただの偶然だろう。あのタイミングで症状が急速に悪化しただけだ」
偶然かもしれませんし、そうではないかもしれません。
どちらにしても憶測による断定はよくないですね。
あらゆる可用性を想定しましょう。
「馬鹿馬鹿しい。話を聞いただけでゾンビになるなんて――」
今や世界全体が馬鹿馬鹿しいことになってます。
もう何が起きても不思議ではないのですよ。
婦警さん、そろそろ認めませんか。
現実は狂ってしまいました。
視野が狭いままでは、いつか命取りになりますよ。
あなただって本当は理解しているはずです。
「……そうだな」
現実を受け入れたくないのは分かります。
その上で頑張りましょう。
こうして一緒に行動しているのも何かの縁ですし、支え合うことができればと思っています。
「ははは……まさか"罠職人"に励まされる時が来るとはな。警官失格だ」
安心してください。
職業なんて関係ない世の中になりましたから。
サイコキラーとタッグを組んでも怒られませんよ。
「だといいがな」
大丈夫ですって。
こういう世界で物を言うのは暴力です。
婦警さんや僕みたいな人間は重宝されます。
文句を言う輩はまとめて殺しちゃいましょう。
「……最悪のタッグだな。反吐が出そうだ」
まあまあ、そう言わずに。
警察署でも仲良くしましょうね。
他にも生存者がいるはずですから、そこで情報収集を済ませつつ、今後の方針を決めますか。




