2話 初めての街
森から抜けてから数時間が経った。
空はすっかりオレンジに染まり、風が冷たさを帯びてくる。
相変わらず、この世界については何もわからずじまい。
そして今僕達は、森から見えた、街のそばまで来ていた。
「うわ、おっきいですね」
「こんな街、初めて来たよー」
十数メートル程の大きさの防壁が、荘厳と僕たちの前に立ちはだかる。
壁が太陽を遮り、僕達を影が覆いかぶさる。まるで包むように。
壁を沿って歩いていると、門のような場所へ辿り着いた、きっとここから入るのだろう。
門の直ぐ側には門番が二人構えて辺りを哨戒している。
そんなピリピリとした雰囲気の中、柊が考えなしに近づいて行く。
「誰だお前たちは!」
「まぁ待てよ、子供じゃないか」
「だとしてもだ!身分証を見せてもらおうか」
門番の片方は緊迫したように柊を問い詰める。
もう片方はその門番を宥めるようにまぁまぁと肩を叩く。
僕は近づき、すぐに謝る。
「すいません!うちの妹が、世間知らずでちょっと……」
「なっ!私はそんなバカじゃないもん!」
その様子を見たのか、怒り顔の門番は、手に持つ槍を引っこめてくすくすと笑った。
「なんだ、すまないな。最近はアーリエが大量発生していて警戒していたのだ。大人げもなく武器を向けてしまった事、謝らせてくれ」
「だから言ったじゃないか、お前は早とちりが過ぎるんだ」
どうやら、分かってくれたらしい。
勝手にいった柊が悪いのだがなぜか僕も少し申し訳ない気持ちになる。
「それで、この街にどんな用で?」
「入りたいな!」
「言葉足らずですよ柊、えっと。……なんだっけ」
この街に入る理由か、正直思いつかない。言ってしまえば「なんとなく」だ。
でもそんな簡単な理由で、通してもらえそうにはないし──
そんな時、助け船が来た。向こうの方はきっと無自覚なのだろうが。
「もしかしてあれか?冒険者になりに来たのか?」
「……!!あ、そうです!冒険者になりに来たんでした!」
「え?うん!そうなんだー」
という感じで無理やり話をつなげる。
それに対し、門番はムムム、と頭に手を当て悩ませる。
「なるほどな、よし!それじゃあこれを押させてくれ!」
「えっと、これは?」
門番が手に持っているのは、スタンプのような物、というかまるっきりスタンプだ。
押させてということは、あれか。水族館とかの再入場みたいにきっと何か意味のあることなのだろう。
快く僕達はそれを了承して、手の甲にスタンプをした。
「よし、これでいいだろ。そしてこれを渡しておく!」
「ええっと、これは……」
手に渡されたのは、何の変哲も無い白い封筒である。日も暮れ紅く模様替えをした空の景色にそれを透かすと、見慣れない様な文字がうっすらと読み取れる。なぜか読めはするが。
そしてこれは一体何の封筒なのだろう?という疑問に対し丁度よく説明が入る。
「それは冒険者学校への招待状だな、君達も冒険者になるためにこの街に来たのだろう?ここは冒険者身分証の発行できる数少ない都市だからな。身分証の無い者はまずそこに行って欲しい」
なるほどそういうことか、でも役所とかじゃなくて学校なのか──異世界特有の制度と見てもいいのだろうか。
「これくらいで良いだろう、では!中に入っていいぞ」
「おお!入れるんだね!」
「じゃあ行きましょう」
街の中へと、一歩足を踏み入れた。
「おおーっ!」
最初に柊が驚嘆の声を漏らす。
街の中は、今まで僕たちの知る町の風景とは大きく異なるものであった。
荷馬車を引く不思議な生き物。店の呼び込むをする商人、耳のや尻尾などが生えた人型の……獣人?亜人?であろうか。少し目線を上に向けると剣や鎧などのシンボルの刻まれた看板などが見える。武具屋だろうか。
とにかく元の世界、日本では見慣れないものばかりで二人の興奮度は上がっていく。
「すごいですね……」
「だねー!ワクワクするなぁ」
そのほかにも色々と目を引くものはあったが正直このまま見ていたらきりがないような気がした。
取り敢えず、封筒に書かれている「冒険者学校」という場所に行ってみようと思う。
側に都合よくある街の地図を見てみる。
今居る所が商店街の大通り、真っ直ぐ進むと突き当たりのT字路があるから、そっちを左に曲がって少し行ったところに冒険者学校があるのか。
とりあえず行ってみよう。
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「なるほど、よし。地図通りに到着しましたね」
「なんでこんなすぐ辿り着けるのー」
「柊が方向音痴なんです。お陰で来るのに二倍くらい時間かかりました」
「えー、そうかなぁ」
北を上、南を下、左を東で右を西と読む時点で色々おかしいだろう。
自分の向いてる方角も分からないから余計迷うし、道に関してはこれから柊の言葉に従うのはやめようと、心の中でひっそり思った。
学校の見た目は、小学校とかよりは大学に近い雰囲気といった感じだ。
元の世界にある赤レンガ倉庫に似た色がベースとなっており、少し高級感がある。こういう所って、引け目を感じて入りづらいっていうか……まぁ、考えても仕方ない。
校門のそばまで寄ると、杖をついた老人がいた。
その老人は、僕たちに気づくと、体をプルプルと動かしながらこちらを見て言う。
「ほほ、入学希望者かの?招待状を見せてくれんか」
「ああ、はい。これでいいですか?」
先ほど門番から渡された封筒を、その老人に慎重に差し出した。
老人は、それを受け取り封の中を確認すると、頷く。
「それじゃ、入るが良い。説明──聞くかの?」
「説明、ですか。はい!お願いします」
そもそも冒険者学校がどういった施設なのかも知らないのだから。
この世界のことについて知るのも併せて聞いておいた方が今後役に立つだろう。
「この冒険者学校は、一週間に渡るプログラムを遂行すると同時に、身分証であるカードを手に入れることを目的としておる。一般的に、基本的な身分を証明するものとして冒険者のライセンスを取得するということは大半の人生においての通過儀礼みたいな感じじゃからの」
つまり、元の世界でいう運転免許証を取るみたいな感じだろうか。
基本的に冒険者として道を進む者よりそういった身分を確立する目的で来る人が多いらしい。
一週間であるのもそういうことなのだろう。
「ちなみに冒険者を極めようと思ったら専門の学校もあるでの、代表的なアドベンチャー学院は体術、魔法学科などの複合施設となっておりそこから排出される──とと、これは今の話には関係なかったの」
なるほど、大体のことはわかった。
一週間に渡る授業を行い、それに対してカードを手に入れるという感じなのだろう。
しかしまずは聞いておかねばならないことがある、重要なことだ。
「宿泊やカード発行とか、お金ってどれくらい必要でしょうか?」
そうだ、大事な事だ。ヨルスさんから5万マートを貰ったが、足りないと如何しようも無い。借金とかは絶対に嫌だ。
マートって言うのはこの世界の通貨単位であり、日本円とほぼ同等の価値らしい、門番さんにこっそり聞いたことだ。
「それは国が支払ってくれるから問題ナシじゃ!税金により、学費、宿泊費などは無償なんじゃよ」
「えっ、すごくないですか!?というか宿泊費まで!?」
「学院内に寮がある、そこで一週間過ごしてもらうのじゃ」
なんという神待遇なのだろう。しっかりお金が回っているんだな……。
となれば、もう心配することは何もない。
僕達は、冒険者学校に泊まり、カードを手に入れる事になったのだ。




