仲間≠思い
「んぁ。でもファッション雑誌の編集長が何で板橋に?」
カネコさんが素朴な疑問を久我山編集長に投げかける。
「取材なんですよ」
そう、久我山編集長は答える。すると小川さんが
「板橋にそんなオシャレなところあるノカ?」
と質問を被せてきた。
実のところ私も疑問に思っていた。板橋に拠点を置くアパレル企業は無いハズだ…。私が思考を巡らせてると久我山編集長が
「え~と、すごーく安く服を売ってるお店の取材の帰りなんですよ。名前は~…」
久我山編集長が人差し指をアゴに当てて天井を仰ぐ。
「んぁ。ひょっとして『ノトヤ』かな?」
「そう!そこ!スッゴク安いのね!!」
嬉しそうに久我山編集長が相づちを打つ。
「あ~。そういう事か~。タマにテレビとかの取材受けてるからやっぱ有名なんダナ。でもファッション雑誌とかに使えるモンおいてるダカ?」
「そういう所が雑誌記者の腕の見せどころなんですよ。巷で噂の激安店でどれだけコーディネートができるか?って特集記事なんで」
得意満面に久我山編集長は小川さんの質問に答える。
「んぁ。やっぱ苦労してるんだな」
カネコさんがそう言った。しかし久我山編集長は
「苦労なんてとんでもない。好きでしてる事だから楽しいですよ」
と人懐こい笑顔で切り返す。
「でも、アレなんでしょ?ワガママなモデルとかいたりして苦労してるんじゃナイカ?」
小川さんが興味本位で意地悪な質問を久我山編集長にぶつける。
「そんな事は無いですよ。皆さん素直にリクエストに応じてくれますよ」
「んぁ。やっぱ仕事だからな」
「成る程ね~」
久我山編集長とマルハチ会との談笑は和やかな空気のまま過ぎようとしたが小川さんが
「でも、ノトヤの服なんてノーブランドもいい所ダヨ。高飛車そうなモデルさんは着てくれるカ?」
と、話しを蒸し返す。
「んぁ。確かに」
「私、こんなの着れませ~ん。とか言ったりするノカ?」
今のやり取りを聞いて私はナゼかカチンときた。なんだかモデルという職業を小馬鹿にされた感じがした。
その表情を悟った久我山編集長が私を目で制する。
しかし私の心情に気付かない二人は神経を逆なでするように
「んぁ。モデルなんて着せ替え人形みたいなモンだろ、そんなのウチの隊長でもできら」
「ダメだよカネコさん。隊長は図体デカイだけだからモデルなんて無理だよ」
私はうつむいたまま二人のやり取りを聞いていた。ナゼか悔しくて堪らない。確かにモデルなんて着せ替え人形みたいなモンだ。それが図星だから悔しいのかはどうかは解らないが、とにかく何か割り切れない思いが胸に去来した。




