学生≠社会人
そして照れ隠しからか私は大声で
「うるさい!上官がいいと言ってるんだ!!本日の会合は終了!別れ!!」
と叫んで二人を押し退けるようにして走り去った。
後ろでカネコさんが「んぁ!?」と声を上げてるのが聞こえた。
私は適当な路地に入ると呼吸を整えてからそっと様子を伺ってみた。
ファミレスの前に二人の姿は見えないのでどうやら帰った様子だ。
私は安堵の溜息を漏らすとゆっくりと自宅のマンションに向かい歩き出した。
実の話し。私の学生時代は地味だった事もあり友達と呼べる人は居ない。
そしてモデルの仕事もその頃から始めたので、友達より先に仕事上の知り合いの方が急激に増えていった。
学生の頃にできる友達と違って仕事上の知り合いは、「損」「得」でつながっている場合が多い。
学生の馴れ合い的なノリとはワケが違う。
なので正直、友達付き合いというものの、さじ加減が解らないのだ。
だから照れ隠しで小川さんとカネコさんにはあの様な態度をとってしまう。
その度に素直な反応が出来なくて本当に申し訳なく思う。
ただでさえ私みたいな得体のしれない女に付き合ってくれているのに…
などと感傷に浸っていると、どこからとも無くヘリコプターの爆音が聞こえてきた。少しうるさいな…と、思い空を見上げた。
「ちょっとあれチヌークの編隊じゃない!!どうりで…」
そう叫ぶと歩道に立ち止まりCHー47Jチヌークの三機編隊が見えなくなる迄空を見上げていた。
道ゆく人が妖しげな視線を私に向けているのも構わずに。
次の日。仕事で私は出版社の方にマネージャーさんと共に顔を出していた。次回の撮影の打ち合わせと衣装のフッティングの為だ。
広めの会議室に通されると編集者の方やスタイリストの方が忙しく動いていた。
その様子を遠巻きに見ている久我山編集長が私達の存在に気が付くと満面の笑みを振りまきながら近づいて来た。
「やぁーいらっしゃい。今度も宜しく頼むね」
私より先にマネージャーさんが久我山編集長に挨拶をすると私もそれに習うように会釈をした。
その時に繋げられた机の上に迷彩柄の服が数多く並べられているのが目に入った。
そして部屋の隅にある。ハンガーラックには既にコーディネートのすんだ洋服がかけられていた。
それらをボンヤリ見ている私の視線に久我山編集長は気付いたのか、嬉しそうに話しかけてきた。
「おっとリタちゃんいきなり気になっちゃう感じィ~」
実は今、私の頭の中は全然違う事を考えている。
「なぜ、街中で着る服に森林迷彩?ふつー都市迷彩だろ」
そんなミリタリー全開の思考を悟られない為に、久我山編集長の問いかけに慌てるように思わず同調した。
「そ、そうですね」
久我山編集長は嬉しそうに笑いながら
「さすが売れっ子は違うわね。もう着こなしの事考えてるのかしら?」
そう言うとハンガーラックから一つ洋服のかかったハンガーを取り私の首元まで持って来て軽くフッティングをしてくれた。
「う~ん。悪くはないけど何かもの足りないわね…」
そうブツブツ言うと、考え事を始めたようで先程の人懐こい笑顔から徐々に編集長の顔に戻っていった。




