第72話「クリドールとナツティル」
いつも通り後片付けからのダイゴくんお医者さんモードを終えた俺はエーテルを飲んで伸びをした。
「ったく!新天地に来たというのにまたこれかよ!」
オール明けの体に回復魔法を打ち込み結局シャッフルはなしになった部屋(俺とモーティ以外は勝手にシャッフルしてたみたいだけど)を後にして船を降りた。
「あーじめっと爽やかな朝だなぁ!」
マリジャナルは地中海的な雰囲気の街だった。
海風吹き抜ける中俺はアルスに聞きたいことがあり話しかけようとした。
しかし...。
「止まりなさい!君!ダイゴマツカゼ!」
よくわかんない兵士のような格好をした男に俺は止められた。
「なんだ?」
「君には古代魔術を魔法した模倣を使用した疑いがかけられています。お話聞かせていただけますか?」
「....。」
おっぷす!なんてこったい!
観測者さん!?この未来は見えてますかー?
ま、多分ほっとかれてるってことはどうにかなるんだろこれ?
「わかりました。」
「それではフープルにてこちらのマリジャナルにあるルコニア領事館まで来ていただきます。」
「はい。」
一先ず抵抗しても仕方ないので俺はみんなに苦笑いだけしてその人たちについて行くことにした。
物々しい雰囲気の白い建物に俺は兵士のフープルでやってきた。
「中で研究員と観測者様がお待ちです。」
ここにも絡んでくるん?観測者...観測者と伝えることは守秘義務じゃないんだっ...け?
あーめんどくさい。
「お待ちしておりました。」
中へ入り会議室のような場所に連れてこられる。
そこには髪の長く目を閉じたまま落ち着いた調子で喋る犬獣人の女の人と...ブックデビルに飲まれた時にみたメトロ...にそっくりな男がいた。
「やぁ、待ってたぜ!勇者様。」
お前が俺にそれを言うとシャレにならないんで本気でやめてもらいたいのだけど。
「あははははは!その顔!おんもろ!」
俺の複雑な表情を見てメトロ似の男が笑う。
「もう何が何やら。」
「さ、説明してあげてよナツ!」
飄々としたその男は落ち着いた調子の女の人にそう言った。
「えぇ。私魔法研究所を取り仕切る魔法研究所庁所長のナツティルと申します。そしてこちらは。「メトロとレオが残した代理出産による子供たちからの直径の子孫にあたる賢者で今はマモ大陸の観測者クリドールでーす!あはは!お前マジで面白いね!」
ナツティルという女の人が喋ってる途中でも容赦なく喋ってくるなクリドール。
「ナツティルにクリドールね。どうせ俺の事は全部知ってると思うけど転生してきた料理人のダイゴです。」
「はっはっはっ、まだただの料理人のつもりなん!?びっくし!」
「あのーいいから説明を続けて欲しい。」
「あーはいはい!ナツは説明おっそいから僕から話すよー!
あのね、君ね率直に言うとかなりまずいことをした訳!
でも俺たちに協力するならなかったことにしてあげるよーってこと!」
「は?端折りすぎててわからんて。」
「申し訳ありません。ダイゴさん。
改めて私から説明させていただきます。
我々は貴方の素晴らしい応用力と魔力量に感服しています。
しかしながら...超えてはいけない一線を超えてしまった自覚は...おありでしょうか?
以前からギリギリ金属に触れない程度の魔法をハルートさんと試していたのはこちらも観測していました。
ハルートさんは一度それで失敗していますからそういった所はしっかり管理されていたようであなたが使っても問題ないよう魔法陣や資料を工夫してあなたに伝えていました。
なのであなたが戦闘時に使ってきたニアエンシェントマジックの応用品...は探知機は作動しましたが我々の中で協議し今後の魔法発展のために基準ギリギリ目を瞑っていました。
しかし...あなたがハルートさんを追いかけるために使ったゲートの魔法を覚えていらっしゃいますか?
あちらは完全に古代魔術の一部を起動させるためのものでして...。
我々の規定ではあなたを捉えさせていただくということになっているものですから...。」
「んー!回りくどい!もーだから僕が言った通り!君が研究やゴットサイド側の観測者達じゃないわれわれルコニアサイドの観測者について協力してくれるなら不問にするってこと!」
あーん勘弁してよぉ。めんどくさいよぉ。
「...またそれか。」
「あははは!だよねぇー!そもそもそっちの観測者サン達は君が禁忌を犯してでもハルートを追うのをわかってたはずだし特にアルス?とかいうあの白いネコチャンいるでしょ?アイツなんて多分ここまで見えてたのに君をここに連れてきたんだよ。最悪じゃなーい?」
...俺は何を信じればいい?
「あはは!そんな悲しい顔しないで!
じゃあいいこと教えてあげるよ。
あの人たちはね、僕たちと彼らが直接接触するようなことになれば世界大戦が起こるってわかってるから君を使ってどうにかしようとしてるんだよ。一応僕たちも神に全て背いてるわけではないからさ!戦争は避けたいとも思ってるよ。だから君がどれだけふたつの勢力の観測者に挟まれて上手くやれるかにかかってんじゃないのかな?」
「...お前らにもアルス達側にも事情があるから言えることも言えないこともあるし自分でよく考えろってこと?」
「そーそー!君物分りいいなー!そんな感じ!」
「...わかったよ。ただしお前らは俺の仲間まで巻き込まないでくれよ。」
「ははははは!なーに言ってんの?最初マカフィちゃんがなんて言ってたか覚えてる?
僕たちをアクアベリーまで運んだのはメトロに似た男の人だってそう言ってなかった?」
「それってまさか。」
「そうそう僕ちゃんデース!マカフィーちゃんアベルちゃん、モーティ君。全部意味があってひとつになってるんだよ。君たちは運命に翻弄されながら収束されてるに過ぎない!あのルカとかいう女の子は少し想定がだけどおそらくアルス君側になにか意図があるんだろうし。」
....クソッタレがよ。
「ダイゴさん。単刀直入に申し上げます。
古代魔術の研究に協力してください。」
いきなりナツティルに話を戻されて俺の頭も意識も着いてこなかったけど拒否する権利なんか俺にはないんだろうな。
「...あぁ。わかった。」
「ありがとうございます。お話のわかる方でよかったわ。それではスマホの連絡先を交換しましょ!
私たちがあなたが必要だと思った時にお呼び出しします。場合によってはお迎えに上がるのでいつでも動けるようにしておいて下さいね。」
....はぁどうしてこうなるかね。
「向こう側の観測者の怪しいドールーおじさんも僕たちのことはよく思ってないし関わりあってることはもう分かってるだろうなぁと思うけど。君はどちらからも逃げられないよ。上手くやらないと世界が揺れる。
平和に暮らしたかったらせいぜい君はどちらとも敵対しないことだね。」
....あーもう本当に最悪。
めんどくさいとかそういう次元じゃない。
俺は物語の主人公じゃない...。
なんでどいつもこいつもみんな勝手なんだ。
本当にいい加減にして欲しい。
なぁ神様俺は自由に生きていいんじゃなかったのかい?
アルスも裏切ったわけでは無いし契約違反とかでもない。
だからアルスを責めることも出来ない。
もう疲れた。
「...まぁそう重く捉えずにさ。世界の琴線にほんの少し触れるだけ。あとは君の人生を生きればいい。僕たち観測者と違って君には罰もないし。さっ、話は済んだから僕が仲間たちのところに送ってあげるね。」
ポンポンしゃべるクリドールに俺は気圧されるがまま気圧され頭で分解できないうちに港に帰ってきた。
「ダイゴ!お帰り。」
みんなは俺を待っていてくれた。
ただアルスはこの場にいなかった。
...なんかもう信じるのにも疲れたから今は一旦考えるのを辞めておくことにした。
船の音と遠くにある砂浜から聞こえてくる誰かのはしゃぐ声。
...絶望しても仕方ない。
海風になびく髪がマズルにかかるほど長くなったんだとなんとなくぼーっと考えていた。
「さっ!ほら!行こう!今は世界も魔法も関係ない!遊びに来たんだからあたしとモーティとシャルとベルとルカちゃんみんな居るから!だからダイゴはダイゴで居てね!」
残酷だけれど優しいそのマカフィーの言葉は何があったかも聞かないくせに見透かしたようなその愛らしい声が...。
海に沈んでいくみたいに溺れそうな心を掬いあげてくれた。
そうだ。遊ばなくちゃな。
俺はマリジャナルの少し黄みがかかった青空を眺めて今は全て忘れてみることにした。




