第56話「ツンツン大魔王」
「ダイゴ、お疲れ様です。」
ハルートはすかさず俺にエーテルを出してくれた。
俺がちょうど飲みたかったコーラ味。
「さんきゅう!ハルートほんと助かったわ!古語は使う時は魔法陣がトリガーに必要みたいだし...。」
「ダイゴがしょっちゅう研究した内容を私にも共有してくれているからこそ今回も未然にあなたのやりたいことがわかったにすぎまさん。普段から勉強熱心でいてくれたからこそ言葉にいた全員が今生きているのです。ダイゴ、本当にお疲れ様でした。」
手を差し伸べて俺を起こしてくれたハルート...お前ってやつは!最高のダチだ!
か〜!やっぱこう出なくちゃなぁ!
つーかまって、コーラうんまっっっ。
「サンキュ!ハルート!」
「いや〜凄かったなぁ〜ダイゴくん。」
「あっそすね...アルスも...まぁなんだ...その、さんきゅーな。」
「照れとるんか!?可愛ええなぁ〜。」
アルスは俺にお礼を言われたのが余程嬉しかっのか俺を両人差し指でツンツンつしまくってくる。
あ〜うざ!
「ツンツンツンツン!このこのぉう!」
「あー!うざい!いいから素材集めろよ!あと異物も探すんだろ!?」
「あ!せやった!あはは〜!てか素材だけ集めて一旦帰らへんか?思た以上にはやく終われたし、遺物探すんわ後でええわ。主おらんくなったし明日にしようや。」
「それもそうか。俺の魔力も回復しきってないし...よし!じゃあみんな俺のそばに集まってくれ。」
俺の一言にみんなが俺の周りに集まる。
「それじゃ1度かえるぞ〜!フープル!」
虹色の光に包まれ気がつくと商会へと戻ってきていた。
俺たちが戻ってきた音を聞いて気がついたアベルが降りてきた。
「おかえりなさい!皆さん。」
「ただいまやで〜アベちゃん!」
「ただいま!アベル!」
「お疲れでしょ!今お茶を入れますから座っててください。」
「いいのか!?悪いなぁ。」
俺が戸惑ってるとアルスはニコッと笑う。
「アベちゃんたまには俺も手伝うわ。」
「え、でもアルスさんお疲れなのでは?」
「まぁなぁ...ま、アベちゃんかて疲れてるんちゃうんか?結構無茶な量の仕事残しったったから。」
「あはは..そりゃまぁ。」
「それならおあいこや!さっ、たしかお茶屋さんからとびきりのんが届いてたやろ?」
「あぁ!そういえば、いただき物のクッキーの残りもあるのでそちらもお出ししましょうか。」
「クッキー!?」
俺がクッキーという単語に反応すると俺以外の全員が吹き出した。
「んだよ!クッキーってあのクッキーってことだろ!?あれハンパなく美味かったんだから!一応俺はデザートも作れるんだぞ!その俺が言ってんだ!」
「おうおうせやな!今持ってきたるからな!口移しで食べるか?」
「きもっ!お前マジでそういうこと言うのやめろよ!せっかく舞い上がった気分が台無しだわバカタレ!クッキーに土下座しろ!床に頭を擦り付けて真剣に謝れ!」
「あっはっはっはっ!さっきフープルつこうて帰ってきた時はぐったりしとったんにそんだけ元気なら大丈夫やな。あはははは....そいじゃアベちゃん行こか。ま、クッキーもええけど今だすお茶に合いそうなのも用意してあるさかいお楽しみにやで。」
アルスはそれだけ言い残してアベルとともに上の階に消えていった。
「たまには気が利くんだな。」
「あははダイゴひどーーい!」
ボソッと言ったひとりごとにマカフィーが笑った。
それから少したってアルスとアベルが人数分のお茶を運んできた。
これは...緑茶!?
「マルジニアのお茶屋さんから仕入れた焙煎仕立てのとびっきりの緑茶やで!一緒におまけでもろた煎餅持ってきたわ。あとみんなの疲れ取れるかなぁおもてマルジニアのインセンス...まぁお線香言うんやけど持ってきた。マナの流れ整えてくれるで。」
「僕は、ダイゴさんが褒めてくれていたクッキーとこの前のお店の紅茶を淹れる準備をしてあります。お煎餅で物足りなかったらそっちもたのしみましょ!」
うんうん、アベルは癒しだねぇ。
緑茶は焙煎仕立てということもあり華やかな香りがふんわりとホールに広がっていた。
あぁ..これこれ。
これまた美しい焼き物の湯のみに入ったそれは湯気をもくもくと立てている。
あっつあつだ!最高だぜ。
湯呑みを手に取り俺は一口それを口に含む。
どうやら煎茶のようだ。
適度な苦味の奥に深い甘みと旨みがあり飲まなくても感じるほどの香りが口に含むことによって口腔から鼻腔へと抜けていく。
喉や食堂を暑いまま通過するのがとても心地いい。
茶色の皿に乗った煎餅もひとつ手に取ってみた。
まずは光に透かしてみる、しっかりと厚みが均一なことが分かる。
歪な膨らみこそあるものの美しい形を保っている。
持ち上げただけでも醤油とごまの香りが鼻をくすぐってヨダレが出てくる。
たまらなくなって俺は1口かじりついた。
硬すぎず軟すぎず噛み砕きやすいが、形もばらばらになりにくい程度には硬さがある。
しっかりと口の中で噛み締めるとまずは香ばしい醤油と煎られた胡麻の香り...こりゃ美味い。
唾液と絡んでいくとでんぷんが加水分解され強い甘みに変わる。
香ばしさと塩味と甘みが上手く調和して緑茶でそれをさっぱりさせる。
緑茶を飲み込んだ後に残る余韻の香りと苦味の奥にある甘さが地味に見えるこの組み合わせを大層華やかにしてくれる。
「かぁ〜んめ〜!」
俺がしみじみ旨みに溺れているとハルートはまたクスクス笑ってた。
そんなに面白いですかい?俺の間抜け面が。
「おいしい〜!あたしこのお茶好きかも!」
マカフィーは初めての緑茶に感動しててシャルは黙々と煎餅をボリボリ食べどこでもない場所を見つめている。
美味しい時ってのは世界側変わっても誰でもああなるんだなぁ。
モーティは熱々のお茶を飲めずに覚ましていてルカは耳を下げてのほほんとした顔をしている。
アルスはハルートに返してもらったスマホをすごい勢いで触って何やら仕事をしているしアベルはタブレットでなにか作業をしている。
あっという間に煎餅は終わってしまい緑茶も飲み終わってしまいアベルがすぐに紅茶とクッキーを持ってきてくれた。
俺が箱ごと持ってきてとお願いしたのでアベルは包装紙に包まれたままのそれをホールのテーブルへと持ってきた。
「おぉ!」
クッキーの箱は水色と白のストライプの包装紙に包まれていてそれを丁寧に空けると可愛らしいピンクの蓋に茶色の下敷きの箱が顕になった。
蓋をゆっくり開けると透明な個包装に包まれた美しいクッキーたちがピンクや黄色のペーパークッションの上で輝いている。
あぁ!これは...置き方や魅せ方も完璧だ!
ますますこれの作り手を俺の店に引き込みたい。
「ダイゴさん、ここのお店たったふたりだけでやっている小さなお菓子屋さんなのに世界中からお客さんが殺到するんです。
ネット注文は一切受け付けてなくてその日店に行かないと買えないって言うレアリティがある上、食べていただいたのでご存知かと思うのですが上品な味を求めて毎日店の前には行列が!しかも...類似品は誰も真似ができなくて一切ないとか...。行列もルールがあって回転の一時間前からしか並んでは行けない近くの宿泊施設を逼迫してはいけないなど...厳格に地域に根付いてるのでそこのネットワークで品のないお客さんは買えないという徹底ぶりなんです。」
「うおおおおおお!」
「わっ、びっくりした。」
「ごめん、あまりにトレビアンすぎて叫んじゃったよ。何から何まで俺の好みだ。職人ってのはそうでなくちゃな。」
「色々済んだら直接この店に行きたい。どこにあるんだ?」
「メルディル国の中にある小さな街でベージパムーンという街です。そこは劇団もあってそっちで有名な街なんですよ。」
「ベージパムーン!?それってムーンの生まれ故郷で彼が演劇で有名なった街の!?」
会話にルカが割り込んできた。
「なんそれ?ムーン?」
俺がぽひゃ〜とした顔で聞き返すと今度はマカフィーがすごい熱量で答えてきた。
「ルナ•ムーン•ベンファードだよ!いまや世界中を飛び回る有名な劇団の団員!すごいんだよ!アクロバテイックな演技や七変化する声や表情どんな役もこなしてしまうその演技力!いまやこの世界でその前を知らないものはいないってほどなんだから!」
「ん〜へぇ...シャル知ってた?」
「知らん!」
「聞く相手が悪いよ!」
「ちょ!マカフィーどいういう意味だ!コラ!」
「だってそうでしょ!?さんざんあたしが話してたのに覚えてないんだもん!」
「そうだったか?スマンスマン。」
「とにかく!ダイゴさん!すごい人が生まれた街ってことですよ!私もトリックスターとして彼には一目置いてるんです。」
ルカまですごい熱の入りようだなぁ。
「アルス、ルナなんちゃらとはしりあいだったりしないわけ?」
「んー?もちろん大事な取引相手やで。よう飲みに行くし。」
俺が冗談で聞いたつもりだったのにアルスの奴は仕事をスマホでこなしながらさらりとそう答えた。
「ヴェーーーーー!」
ルカはすごい声で驚いててマカフィは飛んで跳ねてる。
「今すぐ!会わせて!どうか!アルスさん!」
「ん〜最近あんまし連絡とってへんしたまにはここに呼ぶのもありなんかな...まぁ後で予定聞いてみるさかいまってり。」
「キャー!会えるの!?ムーンに?」
「キャーキャー。」
ルカとマカフィーは手を取りあって喜んでる。
よかったねぇ〜。
お菓子のことから逸れてすっかりと興味をなくした俺はふたりが喜ぶのを血糖値が上がってきたのと戻ってきた疲れによる眠気に襲われながらぼんやり見ていた。
その後は仕事中のアルスとアベル抜きでみんなで大衆浴場へ行き帰りにモーティと解散して商会に戻ってくると俺たちはすぐさま泥のように眠ってしまった。
大変な一日だったなぁ。




