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第12話「アベルとアルス」

少し生々しいところがあるので嫌な方は飛ばし読みして貰えると助かります。

ちなみに内容に関しては関係ないと思わず読んでいただけると次回以降の話が分かりやすくなるので少々お付き合いをお願いします。

マーシェット商会。

勇者レオの幼なじみのマーシェット・ルファードが1代で築き上げたと言われているこの世界でいちばん大きな商会。

世界中のありとあらゆる消耗品、贅沢品、その他必要部品など様々な流通に関与し今や家電メーカーや商業施設をも経営する大企業である。


ちなみにルファードという苗字は、マーシェットが死ぬまで名乗ることなかった彼の本名である。

元々はルファード商会の正式跡取りとして生まれた彼だったが実家の商会をも超えるという夢を持ち家を出た。

手っ取り早くお金を集めること様々な物品や遺物を自らの手で触れて世界中冒険できることにメリットを見出し、メグレスという怪しげな男に誘われてトレジャーハンターギルドに所属する。

ひょんなことから出会った仲間たちと奇妙な冒険を繰り広げ最終的には世界を巻き込んで危機を抜け出し自分の紹介を立ち上げそれを手腕や勇者レオとの繋がりの中で大きくして行った。


そんな彼は聖女の生まれ変わりで少しだけ特別な力を身につけていた。

そして、両性具有者だった。

彼はメグレスと結ばれ後に三人の子供を産んだ。


子供たちはメグレスの狡猾さ、マーシェットの朗らかさと賢さを受け継ぎさらに商会を大きくして行った。

そしてその子供らは商会を世界中で三つの拠点に分けた。


ロージニア、グレイス、シュリ、これら三つの大陸に分かれた商会は地域にさらに根強く拡がっていった。


ダイゴが転生して来たこの現代では、マーシェット商会と取引しない商人は居ないと言われているほどである。

大きいところでいえば、トレジャーハンターギルドとも直接提携を結んでおり、遺物の鑑定や市場操作などまでお手の物である。


そして...そんなマーシェット商会のうちロージニア大陸のロイズの街にあるロージニア本部では今日もそこを取り仕切るルファード家から分家して拡がって行った先の子孫エルファイ家の正式跡取りアルス・エルファイが奇妙な夜一を開いていた。


「あいあい!毎度あり!今日もぎょうさんええもん入ってるさかい...!じっくり見て決めてくれるとうれしいわ〜。」


「アルスさん...。お客様の前ではせめてスーツを着ましょう。」

お付である狼とヤマネコハーフの美しい淡色の髪の青年アベルが白いライオン獣人のアルスを窘める。


「ええんや!これで。俺はたった今こっちに帰ってきたばかりやさかい疲れてんねん。つーか今更やろ?」


アベルが注意するのも無理はない。

アルスの格好は光沢のあるピッチピッチのタンクトップでへそを出し下は動きやすい冒険者が履いているようなズボン...靴は冒険者用のロングブーツでズボンをその中に入れこんでいる。


「お客さんかて、わかっとるやろ?ここには今日は顔なじみしかこんのやからあんまりうるさいこと言わんといてんか〜。」


アルスは筋肉モリモリで豊満な体をしているためピチピチの服は筋肉を隆起させ、ズボンにおいては股間部分は膨らみ...みっともない。


なんというかだらしのない格好というのがふさわしいのだ。

顔馴染み向けの市場とはいえ、仮にも頭首なのだからきちんと正装をするべきというのがアベルの考えである。


「それよりアベちゃ〜ん!今夜どうや?」

アルスはアベルの肩に腕を回し手をクイッとした。


「...っまたですか!?一昨日もアクアベリーで飲みに出たばかりですし!それに!アルスさん!ココ最近取引先の方や飲み友達の方、酒場の方々から男女問わずセクハラが激しいとクレームが来てます。たまにはちゃんとしたらどうですか?」


「わかっとらんなぁ!呑みに行くんも市場調査やで。セクハラは...まぁ人の輪を広げる目的の時もある...。」


「ったく!あなたと言う人は...。」


「お!サルーベルさんそれ気になってはりますか?...今ならこんくらいでどうですか?」


アルスはアベルが怒っているのをすり抜けて商品を手に取るお客の近くに駆け寄った。


お客はトラの獣人の中年の男性だ。

アルスは絶妙な距離感で客に近づき囁き声で何かを囁いた。


「おうそうかそうか!そしたらこれいつも通りうちの店まで納品してくれるか?

小切手を切っておくから。」


虎の男とアルスは不敵な笑みで握手を交わした。

アベルには何が起こっているのか正直よくわかっていない。

お客は商品を手に取っている時は悩んでいる様子...というよりはどんなものなのかを見定めている様子だったのにアルスのなにかの囁きで一瞬で購入を決めたのだ。

ちなみに売られているものが何であるのかアベルには分かっていない。

よく分からないガラクタのようにしか見えないのである。

そんな商売がしばらく繰り広げられたかと思うとアルスはテーブルの上に座り掃除をしていたアベルを呼びつけた。


「アベちゃーん!すまんけどチラホラ物ものーなってきたさかいそろそろ店じまいや。」


「はーい。」


店として使っていた商会のホールを片付けながらアベルは思った。

(...僕は本当にこの人に着いてきて正解だったのだろうか?)


アベルは生まれた頃、孤児院にいた。その孤児院は子供を売りに出し生計を立てていた。

両性具有で美しい見た目をしていた彼は孤児院に闇市に出されてしまい商人に買われ息子として引き取られる事となった。

そしてその義父に娼年として売り物にされていた。

義父はアベルを利用し店を大きくしローズの街の近隣にあるキノコの街メリッサでは中々有名な商人だった。


アルスもちょこちょメリッサを訪れた際にその店と取引をしていた。

アベルを娼年として売る方の商売は、本来は裏稼業的な営業をしていたがアルスは鼻が利く上、顔が広い。

そういう噂は取引をする前から知っていた。

とある日アルスはアベルの義父に自分も買いたいと申し付け実際にその日から何度かアベルを買った。


...と言っても特になにかするという訳ではなく昼間は店の手伝い、夜は娼年になる彼に自由な時間を与え、美味しいものや些細なプレゼントをするなどを繰り返した。


アベルがアルスに買われたから一年ほど経った頃...アルスは突然アベルを引き取りたいと言い出したのだ。


「高くつきますよぉ〜。」


金に目が眩んだアベルの義父はかなりふっかけた金額を言ったがアルスは涼しい顔で小切手を切りアベルの手枷を外した。


「今日からお前の自由やで。さぁどこへなり行って好きなことしぃや。」

アベルを連れ店を後にしたアルスは人のいない所でアベルにそう告げた。


アベルは...アルスに良くしてもらった恩を返したいと考えた。


「ありがとうございます...でも、僕を弟子にでもなんでもしてください。お金を全部返すことはできないけれどあなたの役に立って...恩返しします。性奴隷にでもなんでもなります。」


大粒の涙を流し土下座をするアベルを見てアルスはにっこりと笑った。


「アホやなぁ。そないしたら俺が自由にしたった意味ないやんけ。てか...性奴隷て...。俺君から見てどんなふうに見えてんのよ。」


「だめなんです。僕...一人で生きてたらきっとまた体を売ることしか出来ない。そしたらまた人攫いに攫われて闇市に行くしかない...助けてもらったのにこんなことを言うのは本当に厚かましいと思います...でも...どうか僕に仕事をください。」


消え入りそうな声で地面に頭を着いたたま涙を流すアベルをアルスは優しく立ち上がらせた。


「せやかてなぁ...。んー...どんな事でもすると誓えるか?」


アルスは困り顔でそう言うとアベルは迷わず大きな声でハイと答えた。


「よし!ええ返事や!じゃあ俺のお供になってや。もちろん...商売のな。その為には毎日たくさん勉強してもらうで?んで、俺の手伝いも毎日やるんや。まずは給仕として務めてもらう。それがようできるようになったら俺のビジネスパートナーとしてやってもらうで。」


「...いいんですか?」


「好きなんやろ?物売るん。」


「....はい。本当はずっと商人になりたくて...いつか父が店をくれるってその言葉だけ...信じてきたんです。」


「分かっとるよ。君、昼間店を手伝ってる時誰よりも一生懸命掃除や商品の補充やPOP造り真剣にやっとったし...それになにより君の義理のお父ちゃんが答えられないような商品の知識もあるんやろ?君を買うてデートしてる時にいい目しとるなぁって見とったで。」


アベルはその言葉を聞き初めて自分を理解と承認してくれたアルスに一生ついて行こうと決めたのだった。


「のに...こんなにもだらしない人だったとは...。」


アルスは裸族...と言ってもパンイチで過ごすのが好きらしくお客がみんな帰ったのを確認すると服を脱ぎ散らかした。

アベルは溜息をつきながらそれを広い集める。


「アベちゃん悪いんやけど、その服らよう臭うから洗濯としといてな。」


(...サイテー!)


ちなみにその間アルスは何をしているかと言えばスマホでここ最近の様々なモノの市場価格を見ていた。

テーブルの上に横になっているところがまた行儀悪い。


「ちょっとぉ!そんな汗だくでガラステーブルの上に乗ったら汚れちゃうじゃないですかぁ。ていうか!足元灰皿あるんで気をつけてくださいよぉ。」


「ああ、悪いけどその灰皿も片しといて。俺アホやし足伸ばして蹴っ飛ばしてしまうわ。」


アベルはアルスの足の先にある灰皿を手に取ると溜息をつきながら中身を捨てそれを片付けた。


「すまんの〜。しばらくぶりの我が家やから寛いでまうわ〜。」


アベルとアルスはトレジャーハンターギルドの一員としても活躍をしている。

そのためしょっちゅう冒険に出る。

夜一をやる前の日まではだいたい冒険に出たり市場調査するために世界中を廻っている。


「アベちゃ〜ん!悪い!なんか飲むもんあるー?」


せっせと動くアベルにぐでーっとしたまま声をかけるアルス。


「はいはいたただいま〜。」


アベルは文句こそ言うものアルスの世話は嫌いではないらしい。

義父からは何かあればすぐに性暴力を受けていた。

アルスのだらしなさは半端じゃないがアベルが本当に嫌がることはしない。

それにアルスは戦闘ではあまり役に立てないアベルを守りながらダンジョンに潜る。


「はいこれ。アルスさん。」


「わかってんなぁ〜。大好きやで....

トロピカルジュース。作ってくれたん?」


「はい...まぁ。」


「気ぃ効くなぁ!俺は幸せもんや。あ、アベちゃんもキリのいいところで休みぃ〜。お風呂も先に入ってええからなぁ。」


「ありがとうございます。」


アベルは言われた通り片付けを済ませマーシェット商会ロージニア大陸のメンバーの部屋になっている上の階へと上がった。


この三階フロアは寝泊まりする者の部屋に分かれて寮のようになっている。

アベルはアルスの一番大きな部屋の隣だ。

ほぼ専用のお付の者なので何かあれば直ぐに出られるようにとアベルがアルスにその部屋を与えたのだ。

各自の部屋の中にはシャワーなどはない。

その為、共有のシャワールームと浴槽で各自風呂に入るのだが...。


アベルには両方...あるのだ。

局部だけでなく子宮や卵巣もあるし精巣もあるその為胸の膨らみもありかなり中性的な体格をしている。

両性具有自体はこの世界にそう多くないが一定の確率で産まれてくるようでそれが男性寄りなのか女性寄りなのかは思春期頃分泌されたホルモンの多さで決まるようだ。


つまりアベルの体は第三者と風呂を共有するのには適していない...。

その為彼が入浴する際には専用の立て札を扉に掛け、内側から鍵をかけるということになっている。


本来女性が入ればそのようにするという決まりだが、ここに寝泊まりしている者の中で女性は掃除の婆さんしかないのだ。

そしてその婆さんは必ず朝清掃に入る前に入浴する為、皆その時間を避けるのだ。


「げげ...。生理きちゃったよ。湯船は諦めよう...疲れてたのになあ。」

アベルが風呂に入る前にトイレで用を足そうとパンツを下ろすとそこには鮮血があった。


「はあ...腰とお腹痛い...。明日からもまた連れ回されるしあとで痛み止めを貰いに行かなくちゃ。」


アベルは大きなため息をついて戸棚からナプキンを取り出し下着に装着するとトイレを後にした。


シャワーを浴び終え部屋で髪を乾かしているとアルスがパンイチでアベルの部屋にやってきた。


「おぉ!あがっとるな!んじゃ俺も入ってしまうわ〜。」


「んもぉ!ノックぐらいしてくださいよ!僕が着替えてたらどうするつもりなんですかぁ!」


アベルはドライヤーをしながら出ていってドアの向こう側にいるアルスに向かって怒鳴った。


「ったく...もう。デリカシーないんだから。」


生理で気が立っているため普段より些細なことが気になるアベル。

そんなことを知りもせず尻を掻きながら放屁をして廊下でパンツを脱ぎながら風呂場へ行くアルス。


アベルは寝支度を整え、ベッドのに横になると疲れやら身体の重さやらが一気にやってきて気絶するように意識を失った。


次の日アベルが下の階に降りるとアルスは朝食を食べていた。


「あ!ごめんなさい。今日僕の当番でしたよね。」


「ええよ。当番とか決めたけどできる時は自分でするし。」

アルスは怒っていると言うわけでは全くないが朝でぼーっとしていてので若干冷たい言い方になってしまった。

アベルは生理中で些細なことが気になるので少しだけ表情を曇らせた。

だからと言ってそれに気がつくこともなく目をしょぼつかせながらパンをショリショリと音を立てて少しづつ食べるアルス。

しばらく二人の間には無言が入っていたがアルスが大きな欠伸をしながら口を開いた。


「ふぁ〜〜~。あ、そうや。今日明日は休みにするさかい好きなことしててえで。俺はちっと出かけるけど一緒に来るか?」


「....すみません。今日はすこし体を休ませてもいいですか?洗濯なんかもしておきたいですし。」


「おお、かまへんで。あ、そや、君がなんやこの前行っとった病院から手紙来とったで君宛てやさかいに後で書類ボックスみてみ、入れといたから。」


「ありがとうございます。明日は動けそうなのでお付き合いさせてください。」


「んなむりしなや〜。君ができる範囲でええんや今日明日休み言うたしな〜。」


アルスは歯にパンカスを着けながらニヤニヤしてそう言った。


「ありがとうございます。」


「あ、アベちゃん!そろそろ起きる思てアベちゃんの分もパン焼いてあるで〜。食べ〜。」


アルスは食べ終わって立ち上がるとオーブンの中から食パンを取り出し自分が食べた皿の上にそのまま載せるとアベルに差し出した。

アベルはうっすら嫌だったが出してもらったものにケチをつけるわけに行かないので苦笑いで返事をした。


「ありがとうございます。いただきますね。」



アベルは屁で返事をしてキッチンを後にして自分の部屋へと上がって行った。

 

「ったく。ほんと下品なんだからァ。」


文句言いながらもアルスの焼いたパンの焦げを落として美味しくいただいた。


「うわっ!まだ苦っ!」


一方アルスはその頃部屋でいかがわしい雑誌を読んでいた。


「んふふー。今月のグラビア...ええのぉ。スマホより本やわやっぱり...。」


そしてひとしきり楽しんでスッキリしたあとは筋トレし着替えるとランニングに出かけた。

こういう日のルーティンとしてこの後は市場調査...その後は戦闘訓練、市場でのコミュケーション、また自分の出資している会社店舗の店舗巡回を行う。



パンを食べ終えたアベルは、婦人科から来た手紙をチェックしていた。


「よし...異常はなさそう。」

長い間ピルを飲んでいた影響もあり病気のリスクを踏まえアベルは婦人科に通っている。

ちなみに両性具有の場合人にもよるが通常であれば50日~60日くらい周期で生理がやってくる。

通常の女性の半分のスピードとはいえ生理が来たら商売にならないその為ピルなどでのコントロールを義父に強いられていたため婦人科系の異常がないかをチェックしているようだ。

ちなみにピルの影響もありアベルに関しては男性機能の方はかなり弱いらしく両性具有にもかかわらずかなり男性的なところ弱い上に本体も萎縮してしまっている。

それでもアベルはなるべく男として生きたいと思っているので逆らえない自分の女性的な部分とはかなり葛藤しているらしい。


「はぁ...。お腹痛い、薬貰いに行かないと。」


アベルは立ち上がると街へ出て薬屋に痛めどめを貰いに行った。


薬屋に寄った帰り、グロサリーショップで生理用品を買い揃えているとアルスに声をかけられた。


「アーベちゃん。何こうとるん?」


「う、うわあああ!アルスさん。びっくりした。」


咄嗟にカゴを後ろに隠すアベル。


「俺には見せれんもんかぁ?えろいアイテムかぁ!?」


アルスが茶化すとアベルは顔を赤らめてしまった。


「僕が...望まないものです。」


「....すまん。俺、ノンデリやからほんとやばい時は怒ってええからな。あ、今打ち合わせ中やった。アベちゃんの顔みたら嬉しくて声かけてもうたわ。もう戻るな。」


「お仕事中すみません。」


「何を謝っとるん?俺が声をかけたさかいに。気にせんどき、あ言うとくからレジでそれただにしてもらい。じゃまた家でな。」


アルスはそれだけ言うとバックヤードに消えていった。


アベルは自分の情けなさに恥ずかしくて涙が出そうだった。

アルスは優しいのに突き放すようなことをしてしまった自分が嫌なのだ。

...恐らくアルスは何気なくやっているだけなので何も気にしていないであろうが。


しかし、女性性が強くなってしまっているアベルには些細なことが自責に繋がってしまう。

(せっかく拾ってもらったんだ...弱いままのぼくでいたくない。)

しかし、アベルは意志が強い。

なんとかアルスの邪魔にならないように少しでも役に立ちたいと考え、グロッサリーストアを出たあと帰りに本屋で魔導書を買った。


アルスが用意してくれた自分用のスマホでオンライン魔法教室の予約もとった。


痛み止めを飲み横になりながらアベルは今日本読んだ。

文字は孤児院自体に覚えたので読めるし書ける。

共通語も普通に喋れる。

しかし魔導書となると専門用語も多くいちいち分からないことをスマホで調べながら魔法の基礎を頭に叩きこまなければならない。


初級魔法や簡単な占星術、また回復魔術においても普通は学校で習う。

しかしアベルは学校に通うことができなかった。

アルスはある程度魔法は使えるが教えられるほどではない。何より専門は東洋気術の為なかなか魔術を使う機会もないらしい。


「んで...ここがこうなるからこの術式は...。」

アベルは口に出しながら必死に魔術の術式と仕組みを理解しようとしていた。


「あーん!だめだぁ。わかんない...えーと....?ここのスペルは....こうだからえーと...。」


そんなこんなしているうちすっかりと夕方になってしまった。

魔導レッスンの予約は夜からなのでそれまでに最低限の知識を頭に入れておきたい。

アベルは時間まで必死に基礎的な知識を頭に無理やり詰め込んだ。


「こんばんわ、魔術講師ベルです。本日はよろしくお願いします。」


「はい、よろしくお願いします。」


そこから三時間ほどのスマホを通じてオンラインで行われた講師にアベルは、より火、水、土、回復の基礎魔術はなんとか発動くらいはできるようになった。


「これで風が出来るようになれば簡単に氷の魔術ができるようになります。初級、中級のうちは難しく考えすぎず...元からプログラミングされた言語そのものを思うかべて魔力を込めてみてください。それではまた次回のご予約をお待ちしております。」


講習は終わりスマホの明かりだけが部屋の中を照らしていた。

アベルは夢中になっていた為部屋の明かりもつけずに練習をしていたことに今気がついた。

そこで試しに光の魔術を試すとあかりを浮かび上がらせることができた。

魔力不足ですぐに消えてしまったがアベルにとっては大きな一歩だ。


その光を見ながらにんまりしてアベルは満足しながら眠りについた。


「ぎゃああああ!なにこれー!」

翌朝目が覚めたアベルは真っ赤に染ったシーツを見て叫んだ。


「もぉ...最悪。本当最悪。なんでこんなんなるの??」


泣きながらシーツを外しパンツを下ろすと羽付きのナプキンは見るも無惨に真っ赤に染まりドロドロの血の塊が横から溢れていた。

「羽付きなら...溢れないと思ったのに...二日目の出血舐めてた。」


アベルは新しいナプキンをタンスから出したパンツに当てそれに履き替えると、パンツとシーツとズボンを水道で軽く、水洗いして、

昨日洗うことの出来なかった溜まっている洗濯物と共にランドリーエリアにやってきた。


「...。サイテー、アベルさんのくさい服も洗い忘れてたし。二日経ってえぐい匂いになってるし....。おまけに洗濯機誰か使ってるし。」


アルスの商会の洗濯エリアにある洗濯機は一つ。乾燥機も一つ。空いてなければ使えない。

仕方が無いので街のランドリーまでやってきたアベル。


そこには何故か洗濯物を持ったアルスがいた。


「あはは。アベちゃんも来たんかぁ。俺年甲斐もなく夢精してもうた。だれか洗濯機つこてたからしゃーなしでここに来たんや。アベちゃんもエロい夢でも見たんか?」


「...答えないとダメですか?」

のほほんとするアルスを睨みつけるアベル。


「すまんな...また俺やな事言った?」


「別にいいです。あーお腹痛い。」


「アベちゃんそれ置いとき。嫌じゃなかったら俺が一緒に洗っとくわ。」


「...多分生臭いんでいいです。」


「あっはっはっ!俺のんもアベちゃんのとはちゃうけど生臭いでぇ。お腹痛いんやろ?休んどき?」


「....。」


「女の子日やろ...?あーこれ聞くんもセクハラか!?あちゃぁ〜あかんな俺。」


ひとりでてんやわんやするアルスを見てアベルは思わず吹き出した。


「ぷっ...いいですよ。むしろアルスさんこそ忙しいんですから僕に洗濯預けていいですよ。」


「...ほんまに?この後打ち合わせ入ってねん。帰って着替えなあかんからそれだとほんま助かる...。でもほんまにいいん?」


「良いですよ。」


「ありがとぉ〜。お昼一緒に出かけような。客船がこの街に来るねんて商売になりそうなええ冒険者いたらつかまえよう思ってんねん。面白そうやろ?」


「はははアルスさんお仕事のことばっかり。いいですよ行きましょう。」


「あ、でもお腹痛かったら無理せんでええからな。」


「大丈夫です。昨日よりは出血よ量少ないですし、お腹痛いのも痛み止めでどうにかなりますから。それに僕はアルスさんのお手伝いをする為にここまで着いてきたんですから。」


「ええ子やなぁ〜。んじゃすまんけどまた後でな。」


そう言い残し栗の花の香りのパンツとズボンをアベルに渡すとアルスはランニングがてら紹介に戻って行った。


アベルはニコニコしながら洗濯が終わるのを待った。

アルスに気を使ってもらったのが嬉しかったのだ。

乾燥までが終わるとアベルは商会に戻り掃除などを済ませシャワー室が空いているのを確認しシャワーを浴び汚してしまった浴室を掃除して身なりを整えた。


アルスが迎えに来てくれるのを待つ間、魔導書を読み直し昨日の復習をした。


「たっだいま〜。アベちゃんちょっときぃ〜。」


戻ってきたアルスに呼び出されたアベルは彼の部屋へと行く。


「遅なってすまんの〜。すまんついでなんやけど俺のお願いもう一個聞いてくれへんか?」


ニヤニヤと笑いなにやら体の後ろに隠しているアルス。


「...ことと次第によってはお断りしますが、なんです?」


「ありがと〜聞いてくれるん。ふふふ、これよこれ!」


そう言ってアルスが差し出したのは綺麗な赤いドレスだ。


「アベちゃんすまんけどこれ着てくれ。」


「....嫌です。」


「いや〜〜旅人誘うんに君の美貌が必要なんや〜女のかっこしたないんは分かるけど協力してや〜。」


アルスはアベルが自分に女性性があるということを理解させられるのが嫌だということを認知している。

にもかかわらず商売のためにはこうやって気軽にアベルを利用しようとする。

その度アベルが渋りアルスが土下座し渋々アベルが着るというのがお約束。


「僕男ですよ?こういうのはちょっと。」


「そこをなんとか!最後の1回や!」


「はぁ...もうこれ多分堂々巡りですね。いいですよ。そのかわり後で僕のお願いも一つ聞いてくださいね。あと絶対お金に変えてくださいね。」


大きな溜め息をつきながらも赤いドレスを受け取るアベル。


「はぁ...トイレは定期的に行かせてくださいね。漏れたら足に血が垂れるんで。」


「ひぃいい....聞いただけで痛そうや。わかった!やばそうなら言うて。俺が間を繋ぐわ。」


「はい。じゃ着替えてくるんで。ついでに化粧もしてくるんで下で待ってて下さい。」


「おう!覗かへんから安心してな!ほんまむむッッッッちゃ気になるけどな!あははははは。」


(アルスさん...あんたって人はもう...。)


アベルは呆れ返り返事もせずに自分の部屋へと戻って行った。


アベルは化粧には慣れている。

娼年をしていた時は毎日していたから。

上手くできなければバカにされてしまうから。


化粧を終えたアベルはナプキンを取り替えアルスが持ってきたドレスに着替える。

髪を巻き耳にはピアスを着け義父時代に娼年の証としてつけられた刻印を消すためにブレスレットをはめる。


「よしっ、こんなところか。」


ヒールを手に持ち裸足で下に降りるとアルスもカチッとした格好でソファに座っていた。


「お待たせしました。」


「おお〜めっちゃかわええなぁ〜。今日は変な虫が付きすぎないようにこの指輪しとき。アベちゃんのサイズに合わして作ってある。俺とは夫婦っていう設定や。さぁて稼ぐで〜。」


鬣をオールバックにして整った顔で無邪気ににこりと笑うアベル。

アルスはそれを見てあぁ...こりゃ女の噂が耐えんわけだなどと考えていた。

ちなみに周りにはアベルは男だと説明しているので性別のことを知っているのは掃除のおばさんとアルスだけである。


「ほな、行くで。アベちゃんヒールは歩きづらいやろ?船着まで瞬間移動するさかい手握っとき。」


アルスはそう言うと気を練り始めた。

気術にはマナを使用し魔法のように作用する祈祷術というものと本当に気だけを使う身体術があるが瞬間移動は祈祷術の方だ。

マナと練った気を合わせて使う為、気を扱える物ならフープルよりも難易度が低い。

とは言え、相当の熟練でないと普通は使えない。


「呼吸整ってきたわ。そろそろ行くで。」


差し出されたアルスの手をアベルはしっかりと掴み、二人は赤い光の中に包まれて消えていった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

多分誰やねんこいつってなるんですけど...アベルもアルスも私のお気に入りだったりします。これからも変なやつらが沢山出てくるんで覚えといてもらえると助かります。

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