第13話「ぐっどもーにんぐ」
テントや食事の用意が終わるといよいよキャンプそのものって感じになった。
焚き火は本当は焚き火台でやりたいけど魔法でつけた炎だしコントロール出来るから危なくないですよね。
あぁ〜なんかつまんない。
「ハルート!今日は何鍋にしようか。」
キャンプと言えば、カレー!カップ麺!
のイメージだが剣と魔法のこの世界ではのんびりカレーなど作るのはナンセンスらしく準備も片付けも簡単な鍋が主流らしい。
結界用の魔石が流通してるんだからカレーもっと流行っても良くないか?
「そうですね、昨日の初めの方にダイゴがゴリゴリ倒していたラビッターの肉があります。君がキャンプの用意をしてくれてる間に血抜きなどの下処理は済ませておきました。これと昨日の宿で貰った地元野菜がありますのでそれを使いましょうか。」
ラビッターはうさぎ型の魔物で角がある。
ドラ〇エの一角うさぎみたいに角が生えている
しかも可愛くて鳥のようようにピヨピヨ鳴く。
でも獰猛で誰にでも襲いかかってくるのでめんどくさい。
ていうかさぁ、鍋じゃなくてコンフィにしたいよぉ。スキレット使いたかったよぉ。
二羽分もあるからコンフィじゃなくてもフレンチなら色々やりようがあるよな。
おそらくもう鍋用に切ってしまっているだろうから無理だけどミートミンサーや他にも食材が揃ってればファルスにして...ってイカンイカンそんなことを考え出したらキリがない。
「それから昨日の村で手作りのスパイスを貰いました。名産品なんだそうです。今日はこれを生かしたいのですがダイゴならどうしますか?」
「...。白ワインある?」
「ありますよ。」
「んー。それならまずもも肉は漬けよう。1時間かそこら付けておけば十分だと思う。調味料は何がある?」
「オリーブオイル、ブイヨン、ガラムマサラ、貰ったスパイスなど...結構色々あります。」
「ローズマリーはある?」
「もちろんあります。」
「それなら...ワインに漬けマリネしたラパンをソテして...残った白ワインでデグラッセ...それから。」
「メルディアンがお得意なんですか?」
あ、こっちで言うところのフレンチだっけ?
「あぁ、そうなんだ。」
「私も1番好きなのはメルディアンなんです。」
「まじ!?将来俺とレストランやらない!?」
「ダイゴ...。そう言って貰えるのを待っていました。」
俺が恐る恐る聞くとハルートは待っていましたと言わんばかりに喜んだ顔をした。
「やったぁ!これでもう一人従業員ゲット!」
俺はいつか来る自分の店を持つ日が大層楽しみになった。
だってこいつは努力で積み上げてきたものもあるがなにより勉強狂いで繊細な違いにも気がつける男なのだ。
「そのためにはまず資金を集めて料理ギルドの依頼もこなして行かないとですね。」
「だな!よーし!頑張るぞー!」
久しぶりの料理に俺はワクワクしていた。
本当はハルートにも手伝ってもらった方が早いのだけれど今日はひとりでやらせてもらった。
久しぶりのパッセはアクを取るだけなのに手が喜んでいるのを感じた。
自分で作る料理を人に食べてもらう俺にとってはそこも楽しいポイントである。
完成した料理はもうフレンチそのもの。
うんうん、これだよ俺様の求めていたものはさ。
ここにバゲットかブールがあれば完璧なんだけど今はないので我慢してみるか。
「ブール...欲しいですね。」
「あぁ...ラパンにはブールだよな。」
メルディアン好きのハルートはよく分かっているな。
こういう所に料理人としてのセンスが出るんだよな。
マリネしていた時から数えたら結構な時間を料理に使ってしまって夜はすっかり更けていた。
「あぁ!ねみ〜。さすがに今日はもう寝るわ。」
片付けまで終わらせた俺は欠伸をしながらテントに入ろうとする。
「そうですか。私は星空を見ながら1つ歌を奏でてから寝ますので先に休んでいてください。」
そうだ!こいつ!吟遊詩人だった。忘れてた。
「そうかい、おやすみ。」
「はい、おやすみなさい。」
俺は、テントの中に入り寝袋に包まれる。
テントの外側ではハルートがハープを奏で優しい歌声を夜空に静かに響かせている。
...目を閉じるとなんだか高揚感に包まれる。
ハルートが外で奏でている夜の調べのせいなのか俺がフレンチを久々に作ったからなのかはわからない。
外から聞こえるその優しいそのメロディはなんだか懐かしい気分にもしてくれる。
その日は久しぶりに子供の頃の夢を見た。
「父さん!今年の夏休みこそどっかに行こうよ!」
「すまんな、大護。今年はミシュランが家に取材に来るんだ。その準備で忙しいから難しいんだよ。」
「父さんの嘘つき!」
「ごめんな。大護。」
困り笑いをしていつでも強かで真っ直ぐだった父。
俺の憧れだった。
「だめだ!大護!高校を卒業したらフランスに行きなさい。」
場面が切り替わり進路相談をしていたシーンになった。
優しい父はあまり怒らなかったけれど俺が店をつぐと決めてからは厳しいことを言うことも増えた。
再び場面は切り替わり俺が父の店で働くようになった頃に変わった。
「大護!君のお父さんが...遥斗さんが...シェフが...。」
これは...父さんが死んじゃった日かな。
「すぐに病院に行ってあげなさい!」
スーシェフの舞川さん俺にいつも厳しくて怒ってばかりだった。
父にすらいつも怒ってたし...たぶん甘いところがある父を支えていたのはこの人だよね。
...今俺思ったのだけどハルートって父さんにどこか似ている。
名前もハルートで父さんはハルト...偶然かな。
...あいつはこっちの世界で生まれてるし違うよな。
つーか何歳なんだ?だいぶ若く見えるけど明らかに俺よりは年下だよな。
父さんが事故で死んだ日を俯瞰してみながら俺は物思いに耽っていた。
というかあれから6年か...。
その後父の店は舞川さんが継ぐことになりそうだったが本人が辞退し閉店。
そうして俺はホテルの本格フレンチで修行の日々。
5年以上かけてやっと上り詰めたシェフの座...。
俺にとってはクソ長く感じていたが、業界的には異例の早さだった。
そりゃ周りから恨まれるわな。
まぁ死んじゃったんで何もカンケーないんですけどね。
「ふぁ〜あ。」
次の日目を覚ますとハルートはいつも通り美しい顔で眠っていた。
なんちゅー綺麗な顔しとんねん。
ルカちゃんは面食いなんだなぁ、俺じゃ勝ち目ね〜や。
俺ってば可愛い顔ではあるけどこんなに美人では無いしなによりハルートと違って短足のちんちくりんなのである。
「おはようございます。ダイゴ。」
俺がデカめの欠伸をした音で目が覚めたのかハルートが体を起こす。
「おはよう。ハルート。」
朝の挨拶をハルートにした俺は、懐かしい夢を見て父の姿を久しぶりに見てなんとなーく気分のいい。
外に出て思い切り伸びをしてみた。
朝の空気を思い切り肺に吸い込んで吐き出すと、こっそり買っておいたコーヒーセットでコーヒーを淹れた。
...無駄遣いじゃないよ、ミルとコーヒー豆とハンドドリップ用のフィルターとだけだもん。
「ハルート!コーヒーが入ったよー。のもーぜ。」
テントでぽや〜っとしてるハルートに声をかけ俺たちは朝のコーヒーを楽しむ。
朝飯に食べられるものはなかったけどコーヒーだけで結構満足。
今日こそ、火山であたらしい魔法を試せたらいいなぁ。
俺はそんなことを思いながらぼーっとべらぼうに晴れ渡った空を眺めてた。




