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第6話

ラストだぜい。

アンジェリカ様はお父様の説得に成功した。王、シェスカ公、トルキア伯の三者で会談の場が持たれ、概ね話は上手くまとまったらしい。アンジェリカ様は「詳細は教えていただけなかったのですけれど、私はアラン様と結婚できるそうですわ。」と嬉しそうに頬を染めていた。

エドワード王子とアンジェリカ様の婚約解消は次の夜会で大々的に発表されるそうだ。これは気合が入りますな。ロンソワ公爵も何やら暗躍しているらしく、次の夜会の場を借りて、私とサミュエル様の婚約も発表する手筈が整っているらしい。

運命の日が刻、一刻と近付いてきた。

私のドレスは夜空のような濃紺。ベアトップで、スパンコールと銀糸が細かく縫い込まれている三段ティアードのオーバースカート。その下に覗くのはふわっとしたチュールのスカート。白のレースと藍色のリボンをアクセントにしている。藍色のリボンの花のように大きな髪飾りを付けているが、さらりとした銀糸の髪は殆ど降ろしている。化粧もしっとり淑やかな感じに施している。グロッシーな唇が一層目を引く。

サミュエル様が馬車で迎えに来てくださった。サミュエル様も紺のタキシードだ。ちょっと光沢のある生地で、斜めに縞模様の入った紺のアスコットタイを締めている。やっぱり飛び切りに格好良い。


「ティナ。今日もとっても綺麗だよ。ついに婚約だなんてドキドキするね。」

「はい。凄く嬉しいです。ついにサミュエル様と婚約…はう。」

「僕たちはきっとアランたちの添え物になるから、それはちょっと残念だけどね。でも堂々とティナを自分のものだと主張できるようになるのはすごく嬉しい。ああ、かわいい。キスしたい。」

「口紅が落ちるから今はだめです。」

「ちぇっ。まあ、これからキスなんて幾らでもできるようになるんだからいいか。」

「はい。」


私もちょっとキスしたくなりました。

十二乙女宮について王の開会の挨拶を待って、二人で壁際で戯れる。

厳かに王が入場した。

いつもの開会の挨拶が終わると同時に、「皆のものに一つ伝えておくべきことがある。」と王が切り出した。


「我が息子、第二王子のエドワードのことである。エドワードはアンジェリカ・シェスカ嬢と婚約していたのは、皆も知っていると思う。この度、エドワードとアンジェリカ嬢の婚約を解消したいと思う。」


マリー様もエドワード様も寝耳に水だったらしくすごく驚いた顔をしている。周囲もざわざわ騒めいている。アンジェリカ様に注目が集まる。今日はグリーンの美しいドレスを華麗に着こなしている。隣にはアラン様。


「アンジェリカ嬢は、アラン・トルキアと縁を結ぶことになった。事と次第によってはエドワードはシェスカ家に養子入りすることになるが…」


エドワード様がアンジェリカ様を見下した。


「ふん!俺に相手にされないからと言ってすぐに別な男に尻尾を振るとはな。マリーが言っていた通り、随分とふしだらな女だったようだな。」


あ、シェスカ公の額に青筋が…エドワード様、未来の扶養者のお嬢さんにそんなこと言っていいの?


「のう。エドワードよ。そなたはシェスカ家に養子としていくことになったら、どの娘を嫁に取るつもりか?」


王がエドワード王子に尋ねた。


「勿論、純情可憐で、健気なマリー・ハノワ男爵令嬢です。マリー…残虐なアンジェリカと婚約していたから、君を迎えに行けなかったが、今度こそ君を妻に迎え入れられる。こんなに喜ばしいことはない。」


マリー様に視線が集まる。マリー様は自分が描いていた展開と少し違っていることに戸惑っているようだが、満更でもない顔だ。運命に引き裂かれていた恋人同士だったという体で、エドワード様にすり寄っている。


「絶対にか?マリー・ハノワ男爵令嬢には、そなたが身を賭する価値があるかの?」


王は慎重にエドワード様に問い質した。あ、これあかん奴や。と私は気づいた。


「勿論です。マリーこそ至上の女性。彼女を置いて俺の隣に相応しい女性など居るものか!俺は自分の持つものすべてをマリーに賭けてもいい!」


エドワード様はマリー様の腰を抱いて堂々と宣言した。


「ほう。そこまでの覚悟があるのか。」

「はい!」

「ではエドワードは、廃嫡とする。シェスカ家の養子入りの話もなしだ。シェスカ家にはアランが婿に行く。トルキア家はアランの弟のダレンが継ぐ。そなたは一生王族を名乗ることは許さん。市井の者として、堂々とマリー嬢を娶るがよい。」


だと思った。


「なっ!?何故です!父上!」


エドワード様が驚愕の声を漏らした。


「もう貴様の父などではないわ!貴様がマリー嬢に貢ぐ為、こっそりと国庫から持ち出した額はわしの我慢の限界をはるかに超えておるわ!返済しろと言われなかったことを幸福だと思うがいい。シェスカ家にそんな不良息子を、不安の芽を付けたまま送るわけにはいかんからな。養子の話もなしじゃ。ほれ、もうお前は王子でも何でもない。マリー嬢を連れて、疾く消えよ。」


国庫から…それって普通に横領だよね。犯罪者じゃん。やだー。しかも一人の女性に貢ぐ為とか…しょっぱい。そういえばマリー様見るたびいいドレスに最高の宝飾品を身につけてたよね。それって貢がれたものだったのかな?噂では郊外にどでかい薔薇園を買ってもらったとか聞いたけど。

エドワード様は、助けを求めるようにマリー様を見た。


「申し訳ございません、エドワード様…私、実は、ハロルド様に心を寄せていて…」


マリー様の見事な掌返し。マリー様はぎゅっとハロルド様の手を握ってウルウルした瞳でハロルド様を見上げた。


「マリー…君のことは僕が守ってみせる。」


ハロルド様がマリー様を愛おしげに抱き締めた。エドワード様ががくりと膝をついた。


「ほう!君はハロルドを選んでくれたのか!」


ロンソワ公爵がマリー様に微笑みかけた。ああ、もう先の展開が手に取るようにわかる。


「はいっ!私、ずっとハロルド様のことをお慕いしていて…」

「気の多い子だが、一生添い遂げてくれるかね?」


ロンソワ公爵が優しげにマリー様に問いかけた。


「勿論です!」


マリー様が笑顔で答えた。


「ではここで我が、ロンソワ家も重大発表をしよう。ハロルドは廃嫡。我がロンソワ家の嫡子はサミュエル。そしてサミュエルの婚約者は白銀の乙女、システィーナ・ティリル嬢だ。ハロルドとは絶縁する。今日よりロンソワ家の名を名乗ることは許さん。」


ロンソワ公爵がイイ笑顔で発表した。


「ティナ…君に永遠の愛を誓うよ。」


サミュエル様が跪いて私の左手を取り、薬指にダイヤのついた婚約指輪を嵌めた。


「サミュエル様…私もサミュエル様に永遠の愛を誓います。」


展開はともかく、サミュエル様の誓いは嬉しくてポッと頬を赤らめた。プロポーズしてくれるサミュエル様格好良い。ときめく。神秘的な灰色の瞳が熱を宿して私を見つめている。同じ熱を返せるようにじっと見つめた。


「父上!何故ですか!!」


収まりがつかないのはハロルド様だ。廃嫡は青天の霹靂だったのだろう。


「何故?何故だと…?貴様の胸に手を当てて考えてみよ。貴様が数々のご令嬢にしてきた行い。口に出すのも憚られるわ。正直この場でこの発言をすること自体が我が家の恥よ。」


ロンソワ公爵が積年の恨みを吐き出すようにハロルド様に怒りをぶつけた。


「そ、それは、真実の愛を見つけていなかったからで…」

「では真実の愛を見つけたあと貴様の乱行は治まっていたか?」

「……。」

「信じらんない!ハロルド様浮気してたの!?」


マリー様が目を怒らせた。


「だ、だって君はエドワードと…だから僕は自分を慰めるために…」


浮気していたらしい。根本の女好きは変わらなかったらしいな。


「ともあれマリー嬢は先ほど『一生添い遂げる』と誓ったわけだから、二人でどこへなりとも行くがよい。」


ロンソワ公爵が言った。マリー様が助けを求めるように取り巻き達に視線を彷徨わせた。


「わ、私実は、アルジャーノン様が…」


サミュエル様がぷっと噴き出した。


「あはは。取り巻き諸君もいい加減学んだ方がいいと思うよ。マリー嬢は金銭と爵位順に君たちを指名してるという事実にね?本当に愛されてると思えるなら脳内はお花畑だね。」


それは多分残酷な真実。指名されたアルジャーノン様も微妙な顔をしている。


「おかしい…絶対おかしいわこんなの!私は主人公ヒロインなのよ!?幸福を約束されているはずなのよ!本当ならエドワード様が王位を継いで、私が王妃になるはずだったのに!!」


ヒロインだってさ。本当にゲーム感覚なんだな。

ロゼッタ王妃が笑いだした。


「おほほ。貴女が王妃?お臍でお茶が沸かせそうですわ。王妃教育はそんな生易しいものではなくってよ?貴女は男性を篭絡するのがお上手なようだけれど、王妃の資質と娼婦の資質は違いましてよ?」


マリー様が真っ赤になって怒った。


「何よ!モブの癖にえらそーに!」


いやいや、えらそーなんじゃなくて偉いんだよ?この子わかってるのかなあ、相手は王族だって…わかってないんだろうなあ…


「不愉快な小娘だこと。貴女さえ現れなければ、エドワードだって道を誤らなかったでしょうにね。もういいわ。摘み出して。平民男性2人もね。」

「そうじゃな、楽しい夜会のひと時をこんな不愉快な事柄で消費するのも皆に悪い。さっさと摘み出すがよい。」


ロゼッタ王妃の言葉に陛下も頷いた。

エドワード様、ハロルド様、マリー様が兵士に引きずられて出て行った。マリー様は最後までギャンギャンと「私が主人公ヒロインなのに!」と喚いていた。

私はサミュエル様としっかり3回ダンスを踊って、情報収集…と思ったが、今日はお祝いの言葉が多すぎて情報収集は出来なかった。社交界デビューでいきなりサミュエル様にべろちゅーされたのはみんな知っているが、それでもサミュエル様は嫡男ではないから、もしかしたら自分にもチャンスがあるかも…と淡い期待を抱いていた男性陣が男泣きしながらお祝いしてくれた。ハートブレイクらしい。



***

私たちはハントリー音楽祭で気持ちよく1曲披露して、グループ部門で大賞を受賞した。

結婚を控えてアンジェリカ様とまったりお茶。


「こういうのなんて言うんでしたっけ?」

「一般的には『ハッピーエンド』で、その手の小説的に言うなら『ざまぁエンド』だと思いますわ。」


アンジェリカ様が上品にクッキーをつまみながら答えてくれた。ああ、「ざまぁ」ね。別にスッキリ爽快というわけではないけど、丸く収まったみたいで良かったよ。噂に聞くところによるとマリー様とエドワード様とハロルド様は終始いがみ合いながら共同生活を送っているようだ。幸いにも夜会につけていた装飾品は没収されなかったので細々と爪に火を点す様に生活してるのだとか。市井育ちのマリー様以外まともに働いたこともないメンツなので、結構苦労してるっぽい。因みにハワテ男爵も無事没落している。マリーを実家に戻さないことを条件に一応貴族籍だけは残してもらえてる状態だ。


「何話してるんだい?」


サミュエル様がニコニコ微笑みながら近づいてきた。


「乙女の秘密ですわ。」

「……僕に監禁されるような内容?」


サミュエル様の滅茶苦茶独占欲強いところは婚約してもあまり変わらなかった。私はサミュエル様のそういうところも好きだし、いいんだけどね。


「違いますわ。もしこの世界が物語だったら今はどんなエンディングなのかお話してただけです。」


ふふっと笑う。


「愛し、愛されて、ハッピーエンドだよね?」

「はい。サミュエル様、大好きです。」


キスされた。キスされるのは好きだし嬉しいけど、アンジェリカ様の前でべろちゅーはやめて欲しい。ああ、顔熱い。アンジェリカ様は視線をそらして、見なかったことにしてくれているようだ。

長閑な秋の午後。


ざまぁ展開と微ヤンデレが書きたくてやった。反省はしているが、後悔はしていない。他のみなさんの小説のヤンデレさんに比べると生ぬるーい感じですけどね。「これってどういうエンディング?」ですが、メリーバッドエンドではないのだ!!

6月10日7時より「これってどういうエンディング?」の続編?にあたる「あなたを探して」を連載します。6話完結。6話目に急展開するタイプのお話なので、ちょっとイマイチかも?と思っても6話目までお付き合いいただけたらな、と思います。よろしくですー。

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― 新着の感想 ―
[一言] とてもおもしろかったです! ティナちゃんの努力と恋心が報われて良かったな〜とほっこりしました。 素敵な小説をありがとうございます! これからも応援しています!
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