おはよ
これは決して、弟を、壮を、変態の変人だとか、迷惑しているだとか、貶めているわけではなくて。
俺は、そんなふうには生きられないし、生きてこれなかった、と言いたいだけなのだ。
だからと言って、羨ましいとは絶対に思わないけれど。
前方に掛上つばめが歩いている。
挙動不審に左右を気にして、肩までの髪をバサバサと揺らしていた。
左右確認が止まると、そら見たことかとばかりに髪がボサボサに乱れている。
時々、顔見知りらしい女子から挨拶をされると、ひきつった笑顔で応えていた。
歩幅が違うのか、やがて俺は掛上の真後ろに追いつく。
「おはよ」
「…………」
俺の挨拶に掛上はしっかりと振り返り、目を見開いた。
黒目が小刻みに震え、まるで螺旋を描いているようだ。
彼女の唇は、おはよう、と挨拶を返していたのに、声が出ていない。
「……ちょっと訊きたいことが……」
俺は掛上の大袈裟な衝撃の受け方を受け流し、自分の目的を話し始めていた。
しかし、異臭が鼻をつき、目だけでその原因を探すと、掛上の両足から伝い漏れていた液体が確認できた。
白いソックスが淡い黄色に染まる。
「おい……」
さすがの俺もうろたえて、目線を上げると、掛上は鼻血までだしており、その場にへたりこんでしまった。
「…………」
弟と掛上。
いい勝負だよ、まったく。
俺は額に掌を当て、空を見上げた。