篠突く雨
雨はどんどん強くなって、全身はもう重たいくらいずぶ濡れになっていた。
乱暴な雨音はそれ以外の音を全て遮断した。
俺は橋を渡ろうとする壮に追いつき、肩を思い切りつかんだ。
壮は後ろに引っ張られる力に足がもつれ、転びそうになる。
俺も前へ大きく引っ張られ、壮へぶつかる勢いでバランスを崩した。
二人とも地面に並んで叩きつけられた。
身体の半分は壮に重なっていて、俺は急いで起き上がった。
「馬鹿野郎!包丁持って飛び出す奴があるか!」
俺の怒号は倒れたまま震えている壮に届いたかどうか、分からなかった。
それほどに雨が何もかもを洗い流そうとしていたのだ。
「……っ!……っ!」
壮が上半身だけを起こし俺に叫んでいるが、やはり、雨音が掻き消してしまう。
俺は包丁を一度、水溜まりに浸けて壮に見せる。
「これは俺が持って帰るから!しばらく帰ってくんな!頭冷やせ!」
聞こえただろうか?
壮は雨に濡れた顔でしばらく俺を見つめ、やがて立ち上がり橋の方へ走って行った。
「………いってぇ……」
俺はブレザー越しに脇腹を包丁を持っていない方の手で押さえる。
どれだけ刺さったのか分からない。
壮にばれてはいけない、これ以上苦しめたくない、それだけしか考えておらず、起き上がってすぐに包丁を引き抜いた。
血は流れているのか紺色の制服では確認できない。
しかし、跪いている水浸しのアスファルトの白線に赤い液体が混ざり始めていた。
「ちくしょっ……」
傷から脈打つような痛みが全身に響く。
稲光が目をくらませ、すぐに轟音の雷が迫ってきた。
立ち上がろうとするが足に力が入らず、堤防の草だらけの斜面を転がり落ちた。
落ちた先で石に後頭部を激しくぶつけてしまう。
その時、包丁はどこかへ手放してしまった。
後で探そうと思うが、今はそれどころではない。
這いずり、橋の下を目指す。
とにかく、雨と雷から逃れようとしていた。
河原の大小さまざまな大きさの石が、ほふく前進する度に俺の傷を押してくる。
痛みは不思議と進むにつれ感じなくなっていった。
その代わり、今度は目の前が徐々に暗くなり始める。
雨音は遠のいているが、雨脚は衰えていない。
ヤバイ感じがした。
早く、早く橋の下へ……
やっとの思いで橋の下へたどり着き雨の応酬から逃れ仰向けに四肢を投げ出す。
腹の傷は痛まないが、後頭部がこんどは突然に激痛を走らせた。
「岸辺くん?」
黒い影が、稲光を背負い俺を見下ろしていた。




