EXTRA ヒバリ
いつからだろう。
私がこの帽子を被るようになったのは。
私の両親が捜査官だと知ったのは15の時だった。
非特には自身が捜査官であるということを家族にすら明かしていないケースも少なくない。
そんな両親が正体を打ち明けたのは、私に選択肢を与えたかったからなのだろう。
当時の私は学校でいじめられていた。
原因は突然現れた身体の異変。
何の前触れもなく頭髪の一部が白く染まって生えてくるようになり、それを見たカースト上位の女子達は私に目をつけたのだ。
急激な生活の変化による影響だったのだろうか、それとも別に原因があったのだろうか、
今でも分からない。
それが「尋常性白斑」という病気だと知ったのは大分後の話だ。
百歩譲って服で見えない部分に発症していたら幾分か誤魔化せたのかもしれないが、
私の場合は運悪く白髪という症状が明確に現れる頭皮に発症した。
両親は色々考えて案を出してくれたが、
二人に心配させたくなかった私は「大丈夫」と根拠もなく突き返した。
話せば分かってくれると思っていた、周りがどう思うかなど考えていなかった。
盛んな時期の中学生が私の話をまともに聞くはずもなく、新しく手に入れたおもちゃを手放すまいと彼女達からは毎日のようにありもしない噂、卑猥な言葉を浴びせ続けられた。
当時の私に助けを求める勇気などなく、一人抱え込み徐々に衰弱していった。
隠し通していたそんな私を察せられたのはさすが非特の捜査官と言えるだろう。
両親は正体を明かしてまで私に道を示してくれた。
側から見たら命のやり取りがあるかもしれない世界に娘を引き込んだひどい両親にも思えるだろうが、
私は感謝こそあれど恨んではいない。
寧ろあのゴミ見たいな世界から一刻も早く抜け出せるなら何でも良い、
そう思っていた私は何の躊躇もなく両親の提案に乗った。
こうしてわたしは転校という名目で非特に入隊、最初は命のやり取りがない任務をこなしながら
習い損ねた中学の学習過程をこなす日々だった。
齢15にして裏社会に入るという非現実的な境遇、楽なことばかりではなかったが、
少なくとも中学で過ごした日常に比べたら遥かに充実していた。
けどそれでも、病気のことは誰にも明かせなかった。
もしバレたらまた同じことになってしまうのではないか。
そんな恐怖もあって人と会う時は髪を染め、ニット帽を被って隠すように徹底した。
中学で習う学習課程も終わり、非特での生活に慣れてきたある日の夕方。
その時期は連日忙しく、髪を染めるのも雑になるほどやることが山積みになっていた。
次の任務の準備で施設中を駆け回っていた時だ。
「きゃっ!」
「あっ、ごめん」
階段の踊り場で降りてきた人とぶつかり、盛大に抱えていた資料を床にばら撒く。
「大丈夫?」
「は、はい・・・、何とも______」
そう言って頭を触るとあるはずのものがなかった。
やばい!
こけた拍子でずれ落ちたのだろうか。
慌てて辺りを見渡すとすぐにニット帽は見つかったが、その時にはもう遅かった。
「ねえ、それ・・・」
終わった、見られた。
今まで隠し通せていたのにこんな凡ミスで・・・。
過去のトラウマ、自分の情けなさ、次に投げかけられる言葉への恐怖。
あらゆる感情が入り混じり、目を瞑ると同時に拾った帽子を強く握りしめる。
すると、何かが私の頭を優しく撫でる。
ぶつかったあの人の手だった。
触ってるのは髪が白く染まった部分。
そして次に言われたのは、今まで誰からも言われたことのない一言だった。
「可愛い・・・」
へ・・・?
今、なんて言われた?
可愛い・・・、可愛い!?
なんで・・・そんな・・・誰にも。
恐る恐る顔を上げると、
そこにはポニーテールの茶髪の少女が不思議そうな表情で私をじっと見つめていた。
「可愛いって・・・なんで」
「四葉みたいだなって思って」
「四葉・・・初めて言われた」
「ねえ、なんで白いの?」
「え!ぁの、病気で・・・」
「・・・ごめん、嫌だった?」
「嫌じゃない!けど、なんで・・・?」
「何が?」
「変だと思わないの!?」
「ううん、全然」
「・・・・・・!!」
まただ。
胸の奥がキュッとしめつけられる。
けど嫌じゃない、今まで感じたことのない気持ちだった。
「ごめん、もう行かないと」
あ・・・行っちゃう・・・!
「あの!名前!」
勇気を振り絞って力いっぱい叫ぶと、少女は一瞬立ち止まる。
「・・・モアだよ、よろしくヒバリ」
何で私の名前、と聞こうとしたがあっという間に走り去ってしまった。
モア、モアさんか・・・。
何度も名前を呟く毎に
撫でられたところを触る度に
私の過去のトラウマは上書きされていくような気がした。
衝撃の出会いから一週間。
結局あの人とはあれから一度も会えてない。
会いたい、もう一度。
そう思いながら日々を過ごしているとその時は突然訪れた。
誰かを待っているのだろうか、時折辺りを見渡しながらスマホに目をやる彼女の姿があった。
どうしよう、話しかける?
でも、私ごときが?良いのかなぁ・・・。
そうこう悩んでいると、1人の女性が彼女に近づいて行く。
「モア、お待たせ」
「先輩っ!」
黒髪ロングで高身長の女性。
間違いない、非特でも5本の指に入るほどの実力者クロナ捜査官だ。
でもそんな人が何で・・・。
「キャー♡先輩肩出しニットも素敵〜♡」
え・・・?
「バカ、からかわないの」
なんで・・・なに・・・その表情。
階段でのクールな印象とは裏腹に
その姿はまさしく恋にときめく女の子だった。
・・・ズルい。
私も・・・私にもあんな顔してほしい。
私を救ってくれたあの人ををあんな風に笑わせたい!
けど、相手はあのクロナさんだ。
今の私では到底勝ち目なんてない。
なら簡単だ。
もっと強くなって
もっと可愛くなって
あの人の隣に立てる存在になれば
きっと私も・・・!
私の恩人を笑顔にするため
憧れたヒーローに並び立つため
今日も私は猫を被る。




