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大正公紀  作者: 葵依 澪
第一部 第一章 「大正時代」
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第一章 その1 「当たり前の壊れる時」

第1話となります

当たり前は当たり前ではないという。


「ねえねえ、今日何する?」


ある一人の少女が話した。


「何でもいいよ。」

「色々やったし、ちょっと飽きたよね。」


二人の少女が話していた。


「凛華が決めていいよ。」


と、その中に混じっていなかった鈴芽が声を上げた。そう呼ばれた少女……凛華、希咲凛華とは鈴芽の幼なじみ。


「鈴芽は何したいの?」


するともう一人の少女、雪乃が問いかけてきた。


鈴芽の親友の一人、浜辺雪乃。冷静で温厚な子で気配り上手。


「私は別に何も。雪乃と凛華で決めたら?」


「でもまだ萌香来てないよ。」


ああ、萌香か、と鈴芽は思い出す。あの子、いつも遅いしな……と思った。萌香……鈴芽のあと一人の親友、遠藤萌香。鈴芽、凛華、雪乃、萌香の四人組は仲良し四人組。いつも一緒にいる。今日も四人で遊ぶはずだがまだ萌香は来ていない。


「お待たせー!」


底抜けに明るい、この声は萌香。


「ごめんごめん。ママに宿題終わらせていけって言われて。」


「遅いよ〜」


「ごめんごめん。」


「萌香、何して遊びたい?」


「凛華達は?」


「鈴芽と雪乃は何でもいいって。」


「じゃあ何する?」


と、凛華が尋ねた。


「うちらで決めちゃお」


萌香は軽く笑った。


似た者同士で元気な萌香と凛華のことだ。きっと騒がしくなる。


鈴芽は混じらずただぼーっとしていた。


ああそういえば、この名前……


鈴芽。よくよく考えれば変な名前だ。昔からよく雀みたいだと言われた。


じゃあ鈴芽なんて小鳥の様な名前、誰がつけたのか。


それは祖父である。

両親はつけたい名前の候補があったが、祖父が頑固として譲らなかったらしい。鈴芽とは祖父、正孝の一目惚れした初恋の人の名前とのこと。しかしなんと会ったのは一度だけ。鈴芽とその初恋の人、なんとなく似ていたとか。

そんないい加減な理由で変な名前をつけない欲しい、と鈴芽は思ったが、生憎祖父は鈴芽が七歳の時に亡くなっているので文句はつけられない。でも、妹の芽衣は普通の名前なのにとは思ってしまう。


しかしまあ、珍しいので変な反面覚えられやすい名前だ。仕方ない、と割り切る。こう考えるのも何度目だろうか。


すると、


「えー!あそこ!?」


と、萌香の声が響いた。


「いいじゃん私も気になってるんだもん。」


「でもさぁ、あそこは……」


「大丈夫でしょ。まだ明るいし」


萌香がなにやら困惑している。


二人の反応に不思議に思った鈴芽は二人へ訊いた。


「どうしたの?」


「凛華が、烏山行こうって」


「え?烏山?」


烏山とは、烏山神社の事。大正時代に建てられた神社らしいが何十年も前から管理する人がいなくなり現在では廃神社となっていて、地元の肝試しスポットとして有名になっている。


ただ、荒れきっていて薄暗く危険なため大人達からは行かないようにと子供たちは言われている。鈴芽だって当然行ったことは無い。


「あそこはやめた方がいいんじゃない?」


「だって一回も入った事ないし。」


「私は入らないよ」


雪乃はさりげに保険をかけている。


普通ならこうなっても行かないはずだ。でも今日は少し行ってみたい気持ちの方が強い。元々もあそこには興味があった。


「私、行ってみたい。」


『……え?』


三人の声が被った。


「鈴芽行きたいの?」


「興味があって。」


「えー……やめた方がいいよ……」


案の定怖がりの萌香は反対してる。


「よし!そうとなったら行こう!」


凛華は既にノリノリで行こうとしてる。


すると萌香が納得していない顔で凛華へ言う。


「じゃあ最初凛華行ってよ。」


「え?」


不意打ちを食らったように凛華がフリーズする。


「言い出しっぺが普通最初でしょ。」


「えー……でも、最初は、そのー」


凛華が目を泳がす。


言い出しっぺいえど最初は嫌か。


「す、鈴芽!鈴芽が行ったら行く!」


凛華が急に言い出す。


(他人任せかい。)


いい加減だ、と思いながら鈴芽は一応了承する。


「えーまあいいけど……代わりに凛華必ず行ってよ。」


「もちろん!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

かつては御神木だったのだろう樫の木は、もう見上げる高さで建物を覆っていた。


そのため境内は日陰で暗い。日が当たらないのでひんやりとしており春の今では薄寒い。


色々なものが壊れて散乱している。確かにこれは危険だ。鈴芽はそれらを避けながら歩いていた。


これは……確かにお化けが出そうだ。


肝試しは境内を一周して戻ってくるという約束。


鈴芽の後は凛華、その次に萌香が行く。結局萌香も行くことになった。萌香は素直で天真爛漫だが単純で乗せられやすい。きっと凛華に何か言われたのだろう。なんたかんだ凛華はよく萌香をいじり萌香はそれに乗せられる。


鈴芽は下を向いてため息を吐く。


「はあ……凛華自分は行かないのにちゃんとやれとか……まあ凛華にもさせるしいいか。」


そんな事を考えながら鈴芽は境内の裏に回ってきた。裏も相変わらずものが散乱。木なども倒れている。ただ、思ったより虫が居ない。その点は虫嫌いな鈴芽としてはありがたい。


ふと、前を見た。


「?これなんだろ。」


そこには人の体の上半身が入るくらいの大きさの祠があった。


そしてその祠の土台の部分に模様か分からないが蝶の形の装飾の石があった。鈴芽は無意識にそれに触った。すると、少し動いた。


「動かせる……?」


「押す……?いや違う、引くんだこれ。」


鈴芽はその石を掴んでぐっと引いた。


「待ってこれ引き抜ける!?」


そしてそのまま引き抜いてしまった。


ふと我に返った。


廃神社とはいえ流石に祠を勝手に触り石を引き抜くのは駄目ではないだろうか。


鈴芽は反省し、今引き抜いた蝶の形の石を元に戻そうと思った。そして前を向いた瞬間……


パアアァァ


祠の扉が開いて、中が光っていた。


「え……?」


鈴芽は惹き付けられるように祠の中に手を入れていた。


すると……


「少し暖かい……?って待ってこれ引き込まれてる!?」


何故か、鈴芽の身体が祠の中に引き込まれていっている。


「え、待って何で!?」


どうにかしようと手を外に出そうとする。しかしギリギリ右手は出たが左手は既に出せなくなっていた。


「待って助けて!どういうこと!?ちょっと誰か助けて!」


必死に助けを呼ぶため叫んでいた刹那、鈴芽の目の前で大量の金色の蝶が飛び立っていくのが見えた気がした。


それが何かを考える余裕も無く、鈴芽の視界はそのまま暗闇に包まれた。


意識が遠のいていく中、昔言われたことが咄嗟に思い浮かぶ。


普通と当たり前は、当たり前ではない。


そうだ。普通で当たり前の日常は、当たり前ではない。

ある日突然崩れるものだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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