第1話 私の生きがい
放課後のチャイムが鳴り響く。
「真白ちゃん、また明日ね!」
クラスメイトの明るい声に、私はにこりと微笑み、手を振る。教室を出て、誰もいなくなった廊下を歩く。優等生で、愛想が良くて、先生にもクラスメイトにも好かれている、みんなが描く可愛らしい女子高生の「真白」を演じ終えた安堵感に、私はそっと息を吐いた。
制服のスカートの下に仕込んだナイフが、足に当たる感覚が心地よい。私の本性は、誰にも知られていない。
人々は私を「桜色の殺し屋」と呼ぶ。
私のふわふわとした桜色の髪は、クラスメイトから「可愛い」と褒められる。だが、この髪の色は、私がターゲットを血祭りにあげた時の、鮮血の色を彷彿とさせる。
その日、私に依頼された標的は、闇社会の大物。用心棒も多く、簡単に近寄ることはできない。私は、人気のない裏路地で依頼人と落ち合った。
「こいつを、頼む」
依頼人が差し出したのは、標的の写真。写真に写る男の顔は、傲慢さと醜さで歪んでいる。
「承知いたしました」
私は静かに答えると、依頼人は満足げに去っていった。
人気のない夜のビル街に、私は身を潜める。標的の男は、今夜、取引のためにこのビルに現れる。
ターゲットの男は、重厚なスーツを身につけ、護衛を4人従えて現れた。
「…来た」
私は、口元に笑みを浮かべる。私の心は、高鳴っていた。戦って、ボロボロになる。傷を負い、痛みに身を震わせる。
それが、私の生きがいだから。
私は、ビルの屋上から、男たちに向かって飛び降りた。
「な、なんだ!?」
護衛の男が、私の姿を捉える。
「あら、ごきげんよう」
私は、ふわりと地面に降り立つと、桜色の髪を揺らしながら、微笑む。護衛の男は、私の可憐な姿に一瞬、油断した。その隙を、私は見逃さない。
「…ふふ、甘いんだから」
私は、素早く男の懐に飛び込み、ナイフを喉元に突き立てる。男は、血を噴き出し、その場に倒れ込んだ。
「き、貴様!」
残りの護衛が、銃を構える。
「あらあら、怒っちゃった?」
私は、挑発するように、ニヤリと笑う。そして、次の瞬間、銃弾が私の腹部を掠めた。
「っっ…!、最高…!」
激痛が走る。だが、その痛みは、私の体のを活性化させる。私は、恍惚の表情を浮かべ、残りの護衛に向かって突進した。
「もっと、もっとだよ!」
私は、護衛の男に体当たりし、その胸ぐらを掴むと、ビルの壁に叩きつける。男は、意識を失い、その場に崩れ落ちた。もう一人の護衛が、私に銃口を向ける。
「残念、もう終わりだよ」
私は、男の拳銃を叩き落とし、その腕を折る。男は、悲鳴をあげてその場に倒れ込んだ。
「な…なんだ、こいつは…」
標的の男が、恐怖に顔を引きつらせる。
「大丈夫、すぐ楽にしてあげるから」
私は、ナイフを構え、男にゆっくりと近づいていく。
「や、やめろ…!」
男は、震えながら後ずさる。私は、男の胸に、ナイフを突き立てた。
「ごめんね、おじさん。私、ボロボロになるのが好きなんだ。でも、おじさんが怖がっている顔を見るのも、好きなんだ」
男は、私の言葉に、血まみれの口元で、何かを言おうとする。だが、その言葉は、血の泡となって、消えていった。
任務は完了した。私は、血で汚れたナイフを、軽く指で払い、制服のスカートの下に収める。
腹部の傷は、まだズキズキと痛む。だが、その痛みは、私にとって、生きがいであり、最高の勲章だ。
「さーて、家に帰って、傷の手当しなきゃ」
私は、桜色のふわふわな髪を夜風になびかせ、再び闇に溶けていった。