第2話 ただの、亮くんの彼女
次の日の朝。
いつもと変わらない教室の光景。窓から差し込む光が、私のふわふわとした桜色の髪を照らす。隣の席に座る亮くんが、私に話しかけてきた。
「真白、おはよう」
「亮くん、おはよう」
にこりと微笑んで応える。彼の声は、昨日の夜の激しい戦闘の痕跡を、まるでなかったかのように洗い流してくれる。左の腹部に残る、昨日の傷跡。制服の下に包帯を巻いているが、亮くんは何も知らない。
彼と話す時の私は、「桜色の殺し屋」じゃない。
ただの、亮くんの彼女。
授業中、亮くんはいつも、こっそりと私の教科書に落書きをする。
『真白、今日もかわいいね』
そんな落書きを見るたびに、私の心は温かくなる。彼の優しさは、私にとって、この世界で唯一の安らぎだ。
放課後。
「真白、駅前のカフェ行かない?」
「うん、行く!」
亮くんと二人で、駅前のカフェに向かう。賑やかな街の喧騒。行き交う人々の、穏やかな日常。そんな日常の中に、私もいる。
カフェの窓際の席に座り、私はホットココアを、亮くんはアイスコーヒーを注文した。
「そういえば、真白ってよく、怪我しない?」
亮くんの言葉に、私はドキッとする。昨日の傷跡が、じんじんと痛む。
「え? どうして?」
平静を装いながら、私は尋ねる。
「だって、真白、よく腕とかに傷つけてるからさ。ドジっ子なのかな、って思って」
亮くんは、私の左腕に、少し前に付けた擦り傷を見て、笑った。
「ううん、違うよ! ちょっと、転んじゃっただけで…」
私は、無理やり笑顔を作った。彼は、私の嘘に気づいていない。
「そっか。気を付けてね」
亮くんは、そう言って、私の頭を優しく撫でる。その手は、とても温かくて、彼の瞳は、とても澄んでいる。
こんな優しい瞳で私を見つめる彼の隣で、私はいつも、嘘をついている。
もし、私が誰かを殺していると知ったら、亮くんはどんな顔をするのだろう。
怖がって、私から離れていってしまうのだろうか。
「真白、どうしたの?」
考え込んでいる私に、亮くんは心配そうに声をかける。
「ううん、なんでもない。亮くんといると、すごく安心するなって思ってたの」
本当の気持ちを、そのまま伝えた。亮くんは、少し照れくさそうに笑う。
「俺もだよ。真白といると、なんだか、すごく落ち着くんだ」
私たちは、他愛のない話をしながら、時間が過ぎていく。この穏やかな時間が、ずっと続けばいいのに。
私は、この温かい日常を守るために、また、誰かを傷つける。




