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原初の星  作者: 煌煌
第十四話 偉大なる父
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贅沢者

 いや。三十年後に敵に負けないほどの力を手に入れても意味がない。パールを守り抜くためにも、一日も早く強くならなければ。


「僕は戦いの中で強くなれた。きっとレンもフレアくんや僕との訓練で強くなれるさ」


 訓練量は今日からは昨日までの倍。父さんの言う通りだとすれば、成長速度も倍になるだろう。日々の努力の積み重ねが、最強への一番の近道なんだ。


「これからは毎日よろしくお願いします」




 僕の実力を見るためにした模擬戦。正直、何の意味もなかったんじゃないか。


「僕との訓練は、毎回始めに手合わせから入ろう。それから素振りだね」


 重い鉄の塊の素振り。何度も繰り返せば腕立て以上の筋力アップが望めるだろう。

 斬り下ろし。斬り上げ。突き。左右の斬り払い。五種類の斬り方を身体に染み込ます。一時間も続けていれば体は汗だくになった。




「今日はこれくらいにしておこう。明日の夜も同じ訓練だ。じゃあお休み」


 父さんの指示で今日の訓練は終了。フレアさんのときと同じように、僕はお礼を述べて頭を下げる。顔を上げて見た父さんの顔は、なんだか嬉しそうだった。




 風呂場で汗を流す。運動した後のシャワーというのは小さな贅沢だと思う。走るだけの学校の授業では味わえない感覚。父さんやフレアさんも同じように感じるのだろうか。

 さっぱりした後で、パールの待つ自室に入る。カーペットに座る彼女。先に寝ていても良いのに、疲れた僕を待っていたらしい。

 パールの口が、労いの言葉を放つ。


「お疲れ様。昼間の訓練もあんなにハードなのに、本当にレンは偉いな」


 電気のついた明るい部屋でも、変わらず眩しい彼女の笑顔。贅沢なシャワーなんかよりもっと僕を癒してくれる。


「ありがとう。パールに労ってもらえるだけで、明日の訓練も頑張ろうって思えるよ」


 僕は返事をしながら彼女の横に座り込む。すると、パールの顔に微笑み以外の物が浮かぶ。少し物憂げな表情が。


「喜んでもらえたのなら私も嬉しいよ。だけど、明日のデートの約束。覚えてる?」


 昼前にした大切な約束。大波乱の模擬戦や父さんとの訓練で忘れていた。


「ごめん。あんなに明日のデートを楽しみにしてたのに、いつの間にか忘れてた」


 流石に怒るだろうな。もしかしたら明日のデートさえなくなるかもしれない。厳しい訓練も、明日の楽しみがあるからこそ乗り越えられたのに。いや、忘れていた僕のせいだ。


「ならデートプランも何もない訳だ。じゃあ明日は私に任せてもらえるか?」


 労いの言葉を掛けた時と変わらない柔らかい表情。怒るどころか、彼女の声からは僕に対する思い遣りしか感じられない。


「怒ってないの?」


 僕の問いに彼女の目は点になる。意外なことを聞いたとは思えないのだけど。


「なぜ? 私のために厳しい訓練をしていたから忘れたんだろうに。感謝こそしても怒る理由なんてないさ」


 本当にパールが彼女で良かった。明日の訓練は、今日よりもずっと頑張れる。

 けど訓練の前に、何より楽しみのデート。果たしてパールの行きたい所とは一体。

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