偉大なる父
パールの言葉通り。遠くに見える壁も頑丈そう。黒く光っているということはアダマント製だろうか。だとしたら訓練場の壁よりも相当に頑丈ということになる。
「ありがとうパールちゃん。君の彼氏を鍛え上げることでお礼にさせてもらうよ」
地下の入り口付近に置かれたソードラックから剣を掴み、父さんはパールに微笑む。そして切っ先を僕へと向けた。戦争の英雄との訓練。果たして何が始まるのだろう。
「じゃあよろしく。父さん」
父さんの取った剣の横。立て掛けてあるもう一本の剣を掴む。持ってから気付いたが、刃先が丸い。訓練用の模造品ということか。
「これなら斬れないって安心したら駄目だからね。当たればめちゃくちゃ痛いから」
斬れないとしても鉄の塊。昼間のスポンジ剣とは比べるまでもない。
何より相手は父さん。もしも全力で振れば撲殺なんてこともあり得るだろう。
「分かった。油断しないようにするよ」
僕の返事に父さんは頷く。そして、結構な重みがある剣を何度も上下に振る。
「じゃあ訓練開始だ。まずは今の実力を見せてもらうからね」
右手一本で剣を持ち、左側へ回した。居合いの構えに思える。だとすれば、来るのは飛び込んでからの右から左への薙ぎ払い。
僕は迎え撃とうと両手で正面に構える。父さんとの距離は三十メートルほどだろうか。始まってすぐに防御をしよう。今の距離ならば反応くらいはできるハズ。
「いつでもいいよ。父さん」
返事をした瞬間。父さんが消えた。そして襲い掛かる衝撃。恐ろしい風圧の後に右側のこめかみに鉄の塊がキス。最初のフレアさんとの模擬戦。能力解放後の敵二人。誰とも比べ物にならないほどの速さ。
「レンもきっとこれくらいにはなれるさ」
父さんの戦闘記録だけを見た人は。母さんが作った装備の性能ありきの戦法。装備品のオマケ程度。伝説には尾鰭が付き物だ。などと言う。
しかし実際に見た人は。人類が到達し得る極み。伝説に尾鰭を付けても全然足りない。現在過去未来全ての強者を総当たりさせても勝つのは不可能。などと言う。
僕も今日までは言い過ぎだろうなと思っていた。家で見せる穏やかな顔からは、想像もできなかったから。けれど、今ならば父さんを尊敬する人たちの気持ちが良く分かる。
「本当に今の父さんみたいに速くなれる?」
もしも本当に父さんのようになれたなら。パールを守ることも簡単かもしれない。
「僕が言いたかったのは速度じゃなくて、身体のコントロールのことさ」
体と心の両方をきちんと制御すること。
父さんは説明してくれたけど、僕には分からないような話だった。一つ分かったのは。
「今はとにかく身体を鍛えるってことだね」
今日からトレーニングをすれば、父さんの年齢になる頃には人類の極致と呼ばれるようになっているのだろうか。




