フレアの憂い
キハの実弾。セイラちゃんの炎の剣。全てをアダマント製に変えた。今回の装備なら次の襲撃時には返り討ちにして敵も捕まえられるだろう。警察に引き渡せればエレバーの情報も今より得られるハズ。上手くいけば戦争だって回避できるかもしれない。
本来の明後日の模擬戦の対策という目的もすっかり忘れて舞い上がった僕たち。昼休みの終了時間を告げるチャイムが鳴ると、揚々と各々の教室へと戻った。
放課後。フレアさんの特訓の時間。だけど今日は彼の様子が違う。なんだかいつもより重い空気を纏っている。
「俺たちの武器を機械にパワーアップしてもらいました。これで次に敵が来たら返り討ちにしてやりますよ」
フレアさんの何かを思い詰めているような顔色に、敢えて場を明るくしようとキハが話す。しかしフレアさんの表情に変化はない。
「皆さんは武器を強化する方向性で決められたのですか? 自分の考えと真逆ですね」
顎に手を当て眉間にシワを寄せるフレアさん。装備を強くするのが駄目だと言うのだろうか?
「装備だけじゃなくて、武器に頼らない格闘戦も覚えておくべきだと思うのです」
彼の言葉で思い出すのは役所の敵。奴は武器を使った戦闘よりも、素手での戦いを得意としていた。相手の得意分野である肉弾戦を学べば、武器と併せれば奴への対策は万全と言えるだろう。
「フレアさんが良ければ、格闘技も教えてもらえると助かります」
深刻な顔をしていた彼に、僕の言葉で熱が戻った。そしていつものような暑苦しい声で僕たちに特訓の指示を出す。
「では今日からは基礎訓練の回数を五十回ずつとマラソンを二周に固定します。終わったら日没までは格闘技をお教えします」
固定と言われても僕には昨日と同じ回数。キハにはいきなりのジャンプアップ。当然終わる頃には結構な時間が経っている。と思っていた。けれど終わってみれば、昨日よりも高い位置にいる太陽。赤みを帯びた光で僕を照らす。
「キハさんは今からマラソンですね。では、レンさんは約束通り自分との訓練です」
武器を持たない戦闘方法。自分の力だけが頼りというのは、今の僕には頼りない。だからこそ鍛えてもらうのだけど。
「では基礎中の基礎から。相手も同じ人間なので、防具で守られているとしても、急所に衝撃を受ければ痛みは負う筈です」
みぞおち。喉仏。顎。フレアさんが僕の体に指を置いて急所の場所を教える。頭部への強打で意識を失わせるのも有効だと言う彼。頭へ衝撃を受けることの怖さを僕は身を持って知っている。だからこそフレアさんに格闘技を習おうと思ったのだから。
「日々の筋力アップはもしも打撃戦になったときにレンさんを守ってくれます。まずは急所を覚えること。そして、今までと同じ訓練です」
マラソンを終えたキハが戻って来た。息をするのもやっとの彼には、フレアさんからの急所のレクチャーはない。明日の訓練までに僕から教えることに決まり、今日は解散の流れ。
「きょ、今日もありがとうございましたぁ」
セイラちゃんに支えられながら挨拶をしたキハ。膝と同じように声も震えている。
「明日はキハさんも今日より楽になる筈なので、二人で組手をしてみましょう」
フレアさんの言葉に、親友がライバルにもなったような気がした。




