歓喜の刻
多少目が慣れてきたのだろうか。異次元のスピードなのに相手の残像のような物が見え始めた。有利になると思ったが、まるで二十人くらいの敵を相手にしているような感覚。
しかも少しずつ攻撃の威力も増してきているような。最初は何ともなかったのに、一撃ごとに重みを増す攻撃。加速するのは足の速さだけではないのか?
「いい加減気付いたか。じゃあ対策思い付かれる前にトドメといこうか」
今までの回数だけの連打とは違う大振りの回し蹴り。しかし相手の速さでは僕に避けられる代物ではない。ギリギリ見えたところで、何ができるというのだろう。
敗北の二文字が頭に浮かぶ。衝撃に備えて歯を食いしばった時。目の前の敵が離れた。そして聞こえた銃声。敵は音のした方へと向かう。
「てめぇ邪魔しやがって。先に殺ってやる」
振り返った僕の目に入る敵に殴られるキハの姿。連擊を止められて威力が下がったのだろうか、何度も繰り返し殴り続ける敵。猛烈な連打にキハの体が浮く。僕は助けようと剣を伸ばす。しかし奴は僕からの攻撃を避けながらキハに連打を浴びせ続ける。
「私のキハに何するのよこのクソ野郎!」
二階から飛び降りて斬り付けたのはセイラちゃん。彼女の手に握られているのは燃え盛る炎の剣。僕からの攻撃にだけ集中していた敵は、セイラちゃんの死角からの一撃に足を負傷した模様。
「なにすんだこのアマァ」
右手での平手打ちでセイラちゃんは校舎に叩き付けられた。呆気に取られていた僕も急いで助けに向かう。
「女の子に手ぇ出すなんて最低ぇ」
校舎から飛び出して来たのはアグルさん。しかし男は手を激しく動かして作り出した衝撃波をアグルさんへ放つ。僕の鎧ならば止められるハズ。間に合ってくれ。
「いやぁ」
甲高い悲鳴を上げて頭を抱えて座り込んだアグルさん。僕の目の前を空気の刃が過ぎて行く。
間に合わなかった僕の前で、引き裂かれる寸前の彼女を救ったバリア。中にはパールの姿。次は僕が活躍する番だ。
「おい女の子にしか勝てないのかウスノロ」
奴は頭の血管を浮き立たせて僕を睨み付ける。そして血の飛び散る足でステップを踏むと駆け出した。だが男の顔は痛みに歪み、自慢の速さにも先ほどまでの勢いはない。
狙い通り。僕は想像剣を地面に突き立てると真上へと伸ばす。校舎を通り越し、周りのビルも小さく見えるほどに高く。
「生け捕りなんてもう知らねぇ。お前を倒してから他の奴等も同じとこに送ってやる」
突き立てた剣を蹴りながら男は僕のいる高度まで上がって来た。
僕が不甲斐ないせいで傷付いたみんな。
倒れている友達のため。僕を信じて力を貸してくれるパールのために。
今、目の前の男との決着をつけよう。
奴を倒すために僕が作り出すのは。カラル中から見えるであろう巨大な剣。ダイヤモンドよりも更に硬い伝説の素材。オリハルコンの剣だ。
「みんなをやらせはしない。絶対に止めてみせる」
僕たちの想いを込めた一振りを見よ。
「こいつで終わりだ!」
敵を捉えた斬り下ろし。地面に突き刺さると、緩やかに刃を縮ませて僕を地上に戻す。みんなの元へ舞い戻った僕を出迎えたのは、パールの抱擁。




