第四章 暗転 chapter03
木賊工業2階のカフェスペース。昼休みを迎えた彩花と奈緒美は、テレビの前を陣取り、ワイドショーを眺めつつ昼食を楽しんでいた。
「毎日お弁当、すごいね」
彩花の言葉に奈緒美が切り返す。
「お父さんに給料上げるようにお願いしてよ。経理って神経使うんだよ」
「こればっかりはなかなか言えないわ」
罪のないやり取りに2人は笑う。ふと、テレビの話題が耳に入った。
「これまで何度かお伝えしてきた裁判に、新たな動きがありました」
画面がアナウンサーからVTRに切り替わる。
「都内の老舗ホテルで働いていた元社員の女性が〝業務中のトラブル〟をきっかけにネットで炎上。『〝炎上した社員〟を守らなかった勤務先の責任を問う』という、日本でも異例のケースとして注目を集めていたこの裁判。ホテル側はこれまで争う姿勢を見せてきましたが、ついに〝和解の提案〟があったようです」
画面が変わる。原告の女性元社員とその弁護士だろうか、2人の女性が雑然とした事務室のようなところで小さな記者会見を開いたようだ。アナウンサーの声が続く。
「ホテル側広報担当者からは『経営統合などで対応に時間がかかってしまった。元社員の方の心身の負担も考慮し、和解を決断した』とコメントがあり——」
「この弁護士さん、綺麗ねえ」
と、奈緒美。
「ああ、会社が訴えられたってニュースね……。結構前からやってるよね、裁判って大変なんだなあ」
彩花は弁護士よりも、原告女性に意識と視線を奪われた。普通の会社員が会社が裁判を起こす……しかも自分と年齢の変わらなさそうな女性が……会社経営の責任って大きいんだな——と、スライドした思考を奈緒美の声が呼び戻す。
「矢面に立たされるのは広報か……あやさん頑張ってね」
「何それ怖!」
大きな窓から差し込む明るい日差し。平和な昼休みは午後1時まで、時間いっぱい続いた。




